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おかしな見習い魔女は自立したい ~約束の小さな旅 編~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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第19話 接敵


 高級宿で一夜明かし、再びクレシュア領へ向けて出発する前。


 アレスはリリベルとテオを含めたチームメンバーを全員揃えた。


「昨晩言った通り、今日は特に気を付けよう」


「昨晩?」


 アレスの言うことに首を傾げるリリベル。


「ああ、リリベルちゃんは寝ちゃってたもんね。あのね、ここから先で問題が起きるかもしれないんだ」


「何者かがニーナ様を狙っているらしい」


 アレスとカミ爺はハイネから収集した情報を語っていく。


 魔法を無力化する妙な集団がニーナを狙っているらしく、襲撃を行うなら今――ショア伯爵領とクレシュア子爵領の中間である現在地が相手にとって最後のチャンス。


 南部は小さな領地が固まっていることもあり、東部のように『第〇街』と中間地点が存在せず、ショア伯爵領領主街を出たら次はクレシュア子爵領へ入ってしまう。


 順調に進めばニーナは本日中に家へ帰れる予定なのだ。


 となると、クレシュア子爵領に入られてしまえば応援を呼ぶ機会が増えるし、下手すれば領主街へ到達してしまう。


 ショア伯爵領で応援を得られなかった今、相手は何としても襲撃を成功させたいはずだ。


「ニーナを? どうして?」


「それがサッパリわからないんだって。どういうわけか、相手はニーナを亡き者にしたいみたい」


 貴族を捕まえての身代金目的でもない。


 若いながらも美貌に溢れるニーナを奴隷として売り飛ばしたいわけでもない。


 ハイネの語った状況だけを見れば、相手の殺意が高すぎる。


「それに魔法を無力化する道具を持っていた、という点も注意したい」


 相手は妙な道具を携えているのだ。


「魔法を無力化する道具なんぞ聞いたこともない。一体どういう代物なのか」


 トリニア王国内で魔法を無力化する道具が開発されたという話は一切無い。


 国内には魔法を道具として使えるようにする技術である『錬金術』が他国から入って来て、尚且つ国による研究機関で研究が進められている状況であるが、国内の技術ではまだまだ到達不可能といった状況だ。


 加えて、周辺国でそのような物が開発されれば絶対に噂になるし、魔法研究者でもあるカミ爺の耳に入っていてもおかしくはない。


「その道具についてだけど、大陸西側で開発された物なんじゃない?」


 そう言ったのはベッドに座りながらテオを撫でるレダだった。


「確かに西側では錬金術が盛んだし、東側へ入ってくる技術も西側由来のものだ。錬金術に関しては向こうが一歩どころか三歩先を行っていてもおかしくはない」


 しかし、だとしても噂話が一切入って来ないのはやはりおかしい。


 実用レベルに達しており、尚且つハイネの言っていた妙な連中まで手に入れられるレベルで量産されていれば猶更。


「実はすっごい技術を持っている連中とか? 国の支援を受けて研究と開発をしている機関とかさ」


「そんな連中がどうしてニーナ様を狙うのだ? 意味が分からなくないか?」


 推測を語ったアレスは「確かに」と納得してしまった。


「とにかく、そういった妙な連中が仕掛けてくる可能性は高い。キャビンの中でニーナ様と過ごすリリベル君も覚悟だけはしておいて欲しい」


 状況が状況ならリリベルも対人戦闘を行うかもしれない。


 もしくは、最悪の場合――


「我々を置いて先に行ってもらう、という可能性もあり得るからね」


「えっ……。それって……」


 アレス達が足止めしている間、リリベル達はクレシュア領へ逃げ込むという状況も。


「そうなったら、そこでさよならなの? それってすごく悲しいわ……」


 出会ってまだ数日だが、それでも悲しいと思えるくらいには深く接してきた。


 リリベルが悲しそうに俯いてしまうのも無理はないし、それを見たアレス達の表情がつられてしまうのも無理はないのだ。


「大丈夫。そうならないよう、最速で行くよ」


 アレスは悲しそうに俯くリリベルの頭を撫でながら言った。


「……魔獣や悪い人がやって来たら私も戦うわ」


「そうだね。その時は……。特に魔獣を相手にする時はリリベル君の魔法に頼りたい。君なら最速で倒せるだろうからね」


 ここから先は悠長に討伐した証などは集めない。


 とにかく最速で。


 カミ爺の魔法よりも数倍優れたリリベルの魔法に頼りたい、とカミ爺は提案した。


「任せて! 私がぜーんぶ倒しちゃうんだからっ」


「うん。頼んだよ」


 アレスはニコリと笑い、再びリリベルの頭を撫でた。



 ◇ ◇



 出発の準備が整ったリリベル達は遂にクレシュア領へ向けて出発。


「…………」


「…………」


 キャビンの中は重々しい雰囲気だ。


 出発して以降、ニーナは膝の上で手をぎゅっと握り続けているし、侍女マルカはその手を撫でて緊張を緩和しようと努力している。


 彼女達もこれから起きるかもしれない可能性を理解しているのだろう。


「ニーナ」


 ただ、そんな彼女達にリリベルはいつもの笑顔で語りかけるのだ。


「そんなに緊張しなくて大丈夫よ。何があっても私が守ってあげる」


 リリベルは「だからね」と言いつつ、自分のリュックからお菓子入りの袋を取り出した。


「はい。これでも食べて元気だそ?」


 取り出したのは例の高級チョコクッキー。


 しかも、これはリリベルが我慢して我慢して我慢し続けて残していた最後の一枚だ。


「どうして……」


 ニーナはクッキーを受け取りながらも、目尻に小さな涙を溜めてリリベルを見つめる。


「リリベルはどうして私を助けてくれますの? 情報を隠していたし、これから襲ってくる相手は魔法を無力化する相手ですのよ?」


 自分を逃がすために数名の騎士が囮になった。


 しかも、彼らは未だ戻って来ない。どうなったかも不明だ。


 加えて、彼女はハイネから「ここまで応援が無いとなると、応援に向かった騎士もやられてしまったのでは?」と辛い現実を聞かされている。


 辛い現実の中、彼女は無関係な上に同年代なリリベルだけは巻き込みたくないと思っているのだろう。


 そんなニーナの言葉に対し、見習い魔女はニコリと笑う。


「だって、ニーナは私にお菓子をくれたじゃない。一緒にお菓子パーティーを開いた私達は友達でしょ?」


「友達……」


 答えは簡単だ。


 リリベルにとってニーナは既に友達だから。


「それにね? 師匠から教わったの。友達は大事にしなさいって。私、ニーナが初めての友達なのよ? 大事な友達がいなくなっちゃうなんて悲しいわ」


 魔女ヴァレンシアの教えの一つ。


『魔女たる者、真の友人は命を懸けても助けよ』


 リリベルが最も強く、最も大事にしなさいと教わったヴァレンシアからの教えの一つだ。


「だから大丈夫。私がニーナを守ってあげる」


「リリベル……」


 遂にニーナの目から一筋の涙が零れてしまった。


「ほら、お菓子を食べて? お菓子を食べたら美味しくて笑顔になるでしょ?」


「……そうね。頂きますわ」


 ニーナはもらったクッキーを一口食べて、笑顔を浮かべながら「美味しい」と言った。


 キャビンの中に充満していた重々しい雰囲気は緩和されて、ニーナの緊張も少しは解れたのか強張った表情が徐々に少なくなっていく。


 ――出発以降、リリベル達は運良く魔獣との遭遇は無く。


 彼女達は遂にクレシュア領入口まであと半分といったところに到達。


「周囲に気を配れ! こちらに近付いて来るものを見つけたらすぐに報告しろ!」


 ここからが正念場。


 相手が仕掛けてくるなら、どちらに逃げるにも時間が掛かる両領地の中間がベスト。


 それを理解しているハイネは部下に激を飛ばし続けていた。


「クレシュア領に入ってすぐ応援を得られるんですか?」


「領地に入ってすぐのところに対魔獣用の駐屯地があるんだ!」


 ショア伯爵領から移動してきた魔獣対策として、数十名の騎士が常駐する駐屯地があるという。


「領地へ入ってしまえば……!」

 

 そこまで行けばハイネ達の逃げ切り勝ち。


「ハイネ副団長! 向こう! 二時方向!!」


「正面に誰かいる!!」


 だが、そういかないのが現実である。


 部下が示した先、同時に叫んだアレスが示した先、二方向に敵と思われる姿が見つかる。


「ローブを着た連中! あいつらか!?」


「やつらだ! 間違いない!」


 どちらも黒いローブを身に着けた集団だった。

 

「このまま突破するか!?」


「いや、減速!!」


 アレスが突破を提案するも、カミ爺が減速を命じる。


 街道を封鎖する連中が一斉に魔法陣を起動させたからだ。


「防御魔法!」


「わかっておるわ!」


 カミ爺だけは速度を維持し、そのまま馬上で魔法を構築。


 白い魔法陣を浮かべると、前方に巨大な半透明の壁――防御魔法シールドを広範囲に起動させた。


 間一髪のところで間に合ったシールドに何十発ものファイアーボールが衝突する。


「ぬうう!」


 額に汗を浮かべるカミ爺であったが全て防ぐ。大ベテラン魔法使いの維持を見せた。


「側面から来てる! 撃て、撃て!」


 馬車を含む全ての馬が停止したところで、レダと数名の騎士が矢と魔法を側面側の相手に発射。


 レダの優れた射撃技術が遺憾なく発揮され、側面から攻めてきた者達は続々と仕留められる。


 残ったのは二人だったが、こちらは騎馬としての練度が高いハイネの部下達に剣で仕留められる。


 だが、問題は正面だ。


 側面よりも数は多く、未だ魔法を連射してきている。


「ぐうう!!」


 大ベテラン魔法使いであるカミ爺も耐えてはいるが、そろそろ限界か。


 ただ、魔法の連射によって大量の土埃が舞う。


 これが自然の目隠しとなったところで相手の魔法が止んだ。


「アレス!」


「ああ!」


 ここでアレスが迂回するように前進するべく手綱を強く握ったが――次の瞬間、カミ爺のシールドがギャン! と破裂音を鳴らして消滅した。


「なに!? な、なんだこいつは!?」


 シールドを破壊したのは『人形』だった。


 人間と同じ背丈、球体関節を持つ不気味な人形だ。


 人形の手には剣が握られており、シールドを破壊した勢いのままカミ爺へ迫る。


「させるか!」


 そこへ割り込むのは馬上から飛び降りたアレスだった。


 人形との鍔迫り合いを続けるも、技術面で優れていたのはアレスの方。


 彼は相手の剣を絡め取るように弾き飛ばすと、次の一手で人形の胴を真っ二つに斬り裂く。


 アレスが仕留めると同時に土煙は晴れていく。


「ほう。マリオネットを倒すか」


 距離を詰めてきていた相手集団――総勢二十名の魔法使いと十体の人形。


 そして、正面中央にいたリーダーらしき男の声が聞こえてくる。


 リーダーらしき男は黒いローブを身に纏い、首には六芒星の形をしたネックレスが。


 顔は彫が深く、トリニア王国人には珍しい顔つきだ。


「貴様ら、何者だ」


 アレスが剣先を向けて問うと、男はニヤリと笑って言った。


「我々はイルミナス。正しき神に仕える敬虔な信徒である」


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