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おかしな見習い魔女は自立したい ~約束の小さな旅 編~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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第18話 ショア伯爵領領主街


 ショア伯爵領領主街に辿り着いたリリベル達は、全員同じ宿に宿泊することになった。


 泊まる宿は貴族が利用する高級宿であり、しかも料金は依頼主持ち。


 かなり破格の待遇であるが、これは前もって提示された条件ではなく、到着後にニーナが提示したものだった。


 宿代を持つ代わりに一つ「お願いしたい」と。


 そのお願いとは、馬車の中でテオが提案した「カミ爺に聞いてみたら?」というやつである。


「ふ~む……。そもそも魔力が練れない、ですか」


 ニーナの部屋にて、カミ爺はニーナの()()を開始。


 旅を続けながら魔法の研究を行ってきたカミ爺は、聞き取りした内容に対して唸る。


「ワシは何人もの魔法使いを見てきましたが、その中にはニーナ様のように魔力を練れない人もおりました」


 出会った魔法使いの中には、初対面の際に「私は魔法使いではありません。だって魔法が使えませんから」という人もいた。


 この世界の人間は少なからず魔法を使えるものだが、全く使えないと宣言する人はニーナに限らず存在していたということらしい。


 しかし、カミ爺が「出会ってきた魔法使い」と言ったように最終的には全員魔法が使えるようになったのだろう。


「その方達はどうやって魔法を?」


「他者から魔力を流してもらい、その感覚を覚えることで魔力を練ることができました」


 魔力を練るという行為を行うには、まず自身の体内にある魔力を感じ取らねばならない。


 魔力が練れない人は、そもそも魔力を感じたことがない。感じたことがないから魔力が無いのだと勘違いしている、という人が少なからずいるのだ。


「これまで師事してきた先生にも魔力を感じなさいと言われましたわ。しかし、どうやっても魔力を感じ取れないのです」


 ニーナは自身の中にある探し物を手探りで探すような、そんな行為を続けてきた。


 しかし、どうやっても探せない。何故なら探し物である『魔力』の形を知らないからだ。


「私がニーナ様の体に魔力を流しましょう。それを感じみて下さい」


 カミ爺は「失礼」といって、ニーナと手を繋ぐ。


 そして、彼は少しの間目を瞑って集中し始めた。


「……どうです」


 目を開くと、彼は微弱な魔力をニーナへ流していると明かす。


「手のひらだけじゃなく、手全体が温かくなるような感覚はありませんか? もしくは、ピリリと少し痺れるような感覚とか」


 魔力の感じ方は人それぞれ。


 何かしらの感覚、違和感を感じれば成功なのだが。


「……何も感じませんわ」


 しかし、ニーナは全く感じないという。


「うーむ。何も感じませんか」


 手を離したカミ爺は腕を組みながら唸ってしまう。


 こりゃ、簡単にはいかんぞ。王立魔法学園の講師達もヤケになるはずだ、と言わんばかりに。


「テオ君、どう思うかね? ニーナ様の中には確かに魔力があるんだろう?」


「うん、あるよ」


 椅子に座るニーナとカミ爺の足元で待機していたテオは「確かにある」と頷く。


 しかし、ここで一つテオが新しい事実が告げられた。


「でもね、カミ爺の魔力とは匂いが違う」


「匂いが?」


「そう。魔法使いが持つ魔力はどれも同じ匂いなんだ。だけど、魔女とは違うの」


 テオがそう告げると、部屋の中にいた全員の視線がリリベルに向けられる。


「あむ?」


 そこにはふかふかな高級ソファーで横になりつつ、部屋に備え付けられていたお菓子をムシャムシャと食いまくるリリベルの姿があった……。


「リリベル! お行儀が悪いよ! ちゃんと座って!」


「はぁい」


 今度は背もたれに背を預けつつ、ダラッとした態度でお菓子を食べる姿勢へ。


 もはや、彼女は誰にも止められない。


 疑似的な『大人っぽい自立した姿』を獲得しているのである!


「ふむ。魔法使いと魔女の魔力はそれぞれ匂いが違うと。となると、ニーナ様の魔力は魔女様の魔力と同じ……?」


 もしや、ニーナは魔女なのでは。


「まさか!」


 そう推測したカミ爺に驚きの声を上げたのは、ニーナ本人ではなく侍女のマルカだった。


「いや、魔女の魔力じゃないよ。魔女の魔力はもっと良い匂いだもん」


 テオは舌を出しながら「リリベルの魔力は精霊界と同じ匂いがする」と言った。


 匂いを思い出しながら語る表情は心の底から心地よさそうな、若干ながらうっとりとさえしている。


「……魔女が精霊に好かれる理由ということなのかな?」


 これはこれで新事実発覚。


 実に興味深い、とカミ爺は呟く。 


「では、お嬢様の魔力は? 魔法使いでもなく、魔女でもなければ……?」


「うーん。あまり嗅いだことのない匂いなんだけど……。似ていると言えばアレスかな?」


「アレス? アレスの魔力と匂いが似ているのかね?」


「うん」


 アレスといえば、希少な『英雄の資質』を持つ人間だ。


「となると、お嬢様も英雄の資質をお持ちになっているとか?」


「何かそういった兆候はありましたかな? たとえば、走るのが人よりも早いとか。重い物を難無く持ち上げてしまうとか」


 英雄の資質は『剛・速・防』のどれかに兆候が見られるとされている。


 たとえば、アレスのような超スピードや極端に強い腕力など。


 他にも大きな岩を簡単に持ち上げてしまうとか、骨が折れても三日四日で完全完治してしまう驚異的な治癒力だったり。


 カミ爺が言ったように、日常生活において何らかの兆候が見られるはずなのだ。


 普段から彼女を見守る親や侍女であれば「あれ? なんかおかしいぞ?」と思える点があるはずなのだが。


「いや、特には……ありませんわよね?」


「はっ! お嬢様は小さい頃から発育がようございました! 今ではこんなにもナイスバディ! 英雄ならず、艶美な姫になる才能を持っているとか!?」


 新しい才能の発見なんじゃない!? とマルカは自身の推測に心底驚く。


「いや、それは違うような……。単なる生まれ持った、人としての個性なんじゃ……?」


「英雄の資質も生まれ持った個性と言えますよね!? お嬢様の魔力は超絶至高美人の魔力なんじゃ!?」 


 親馬鹿ならぬ侍女馬鹿、ここに極まる――といったところだろうか。


「そ、それは一旦置いときまして。とにかく、魔力があるということは何らかの切っ掛けで魔法使いに目覚めてもおかしくはないはずです」


 カミ爺が今まで出会ってきた『自称魔力無し』は魔力を感じることで目覚めた。


 単に方法が違うだけで、ニーナも別の切っ掛けで目覚める可能性は高いと彼は語る。


「焦らないこと。これに尽きます。焦れば焦るほど、貴女は自身を追い詰めてしまうでしょう。それはとても辛いことです」


 もしも、身内から急かされるようなら自分が説得してもいい。


 カミ爺は魔法使いとして力になると強く訴えた。


「はい……。ありがとうございます」


 説得まですると言ってくれたカミ爺に深く頭を下げるニーナの目尻には小さく涙が溜まっていた。


「終わった~? 早くこっちで一緒にお菓子食べようよ~」


 背後からリリベルの声が聞こえてきて、ニーナが振り返るとダラッとしたままお菓子を食べるリリベルの姿がまだあった。


「時にはああいった姿も必要ということですな」


「ふふ。そうですわね」



 ◇ ◇



 一方その頃、アレスとレダは一足早く宿の食堂で食事を摂っていた。


 同席するのは副団長のハイネである。


 共に食事を楽しみながら談笑し、食後は軽くお酒を一杯だけ楽しむ。


「ところで、俺達を雇った本当の理由は何なのです?」


 和やかなムードで進む中、アレスはハイネに笑顔のまま問うた。


「…………」


 一度は沈黙で返すハイネだったが、沈黙が続く中で考えを改めたらしい。


「実は……。グンダー子爵領で妙な輩に襲われまして」


 グンダー子爵領とはガナン伯爵領から西にある領地だ。


 王都からの帰り道、彼らはニーナを狙う何者かに襲撃されたと明かした。


「妙な輩? 身代金目当ての野盗ですか?」


 騎士が馬車を護衛する姿は目立つ。


 となると、その馬車に乗る人物の『価値』も容易に推測できるものだ。


 そういった状況を狙い、人生のワンチャンスに賭ける野盗も少なくないのも現実。


「いや、あれは野盗などではない。何というか……。頭のおかしい連中と言えばいいのだろうか?」


「頭のおかしい連中?」


「ああ。相手は二十人規模の魔法使いだったんだが、妙な道具を使ってこちらを追い詰めてきた」


 束になった魔法使いはただでさえ強力だというのに、こちらの魔法を無力化する道具を使ってきたという。


「数人は殺したが、やはり厳しくてね。仲間達が食い止めている間に逃げ出したのだが……」


 護衛の数が少なかった理由がこれだ。


 何とか街に辿り着いたハイネ達は即座に領地へ応援要請を送り出す……が、二日ほど待っていたところで街中に『妙な連中』の一員が目撃される。


 追いつかれた、自分達を探している、と感じたハイネ達は急いで街を出発。


 そして、アレス達のいる第二街へ辿り着いたというわけだ。


「想定通りの速度で仲間が領地に辿り着いていたとしたら、今晩のうちに応援が到着する予定だ」


 しかし、領地から応援が来たという報告は未だ無い。


「領主様に助力を願ってはダメなのですか?」


 レダが問うと、ハイネは弱々しく首を振った。


「もちろん助力を求めたよ。しかし、ガナン伯爵もショア伯爵も領内に頻発する魔獣の件で人員は割けないと言われてしまった」


 ガナン伯爵に断られ、急いで街を出た時点で「傭兵を雇うしかない」とハイネは結論付けた。


 更に手を厚くするために街へ到着してすぐにショア伯爵へ助力を願ったが、こちらも魔獣を理由に断られてしまったようだ。


「どこも魔獣被害に悩まされているからね。仕方ないと言えば仕方ないが……」


 事実、クレシュア子爵領も魔獣の存在は目の上のたんこぶ状態。


 同じ悩む側だから両者の気持ちも理解はできる。しかし、どうにか助力はしてほしかったというのが本音か。


「私の本音を聞いた君達は手を引くかね?」


「いいえ」


 弱気になっているハイネの一言に対し、アレスは即答した。


「今は傭兵ですが、俺は困っている人を助けたくて……。人の役に立ちたくて剣を握りました。前にも言った通り、お金じゃないんですよ」


 単に聞いたのは仲間のため。


 事実を隠されていたことで仲間を失うリスクを避けたかったから、とアレスも本音を明かす。


「だから、ここからはお互いに全力で協力しましょう。ニーナ様を家に帰すために、俺達は一丸となるべきです」


「……そうか。そうだな」


 ハイネはコップに残っていた酒を飲み干した。


「君は眩しいな。君のような若さが羨ましくなるほど歳をとったつもりはないんだが……」


「いや、こいつは単に熱血正義馬鹿なだけですよ」


 レダは肘でアレスをつつく。


「はは。しかし、君が王都騎士団を辞めた理由が何となくわかったよ」


 君は組織に属する側の人間ではない、とハイネは苦笑いを浮かべる。


「すまない。君達の力を貸してくれ」


「ええ、もちろんです」


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