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おかしな見習い魔女は自立したい ~約束の小さな旅 編~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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第15話 初めての依頼


 傭兵組合で護衛依頼を受けたというアレス達に誘われたリリベルは、アレスとレダが依頼主と会っている間にカミ爺から簡単な説明を受けることに。


 まず、気になるリリベルの立ち位置だが、彼女は「チーム外の戦力」としてカウントされるらしい。


「つまり、お手伝いさんだ」


「お手伝いさん」


「そう。アレスが個人的に雇った助っ人、とも言えるな」


 傭兵登録していないと依頼を受けることは不可能だが、外部戦力としてチームが雇うことは禁止されていない。


 むしろ、組合もそのあたりは「ご自由にどうぞ」というスタンスである。


「目的地は南部にあるクレシュア子爵領。南部の玄関口であるショア伯爵領の真下にあたる領地だね」


 リリベルにとっても通り道――いや、ここから更に南下するか西側にあるジルモア領へ向かって寄り道するかの分岐点。


「丁度良いわね!」


「だろう?」


 ニコリと笑うカミ爺は説明を続ける。


「次に依頼内容だ。内容はクレシュア子爵家の長女、ニーナ・クレシュア様を護衛すること」


 今年で十六になるニーナ・クレシュア子爵令嬢は、王都から実家へ帰る最中だという。


 本来なら王都で数年暮らす予定だったそうだが、不意の予定変更で急遽領地へ戻ることに。


 その道中としてガナン伯爵領第二街へ辿り着いたが、ここからは護衛を増やして進みたいと傭兵組合へ依頼を出したそうだ。


「十六歳のご令嬢といえば、王都にある学園に入学なさる時期だ」


 王都には基本的な学問から経済学など専門的知識を学ぶ王立学園、基礎学問に加えて魔法学を教える王立魔法学園の二つが存在する。


 前者は貴族向けの学園というべき場所で、後者は優秀な魔法使いを育成する学園だ。


 後者の入学試験は今の時期だが、前者である王立学園の入学式は二か月後となっている、とカミ爺は語る。


「……魔法学園に落ちたのかもしれんな」


 魔法学園は入学希望者を広く受け入れているし、多額の寄付金が望める貴族の令嬢となれば更に「ウェルカム!」なのは間違いない。


 しかし、この時期に領地へ戻るとなると何かしらの問題が生じたのだろう。


「世間体を気にする貴族は秘密にするだろうけどね」


 何があったかは不明だが、とにかく領地へ戻る貴族令嬢の護衛が今回の仕事である。


「あともう一つ事前に語っておこう。ここから護衛を増やすという行動も少々不思議だ」


「南部には魔獣が出没してるんでしょう? その対策じゃない?」


 カミ爺に推測を語ったのはテオだった。


 それを聞いたカミ爺は「なんて賢い」と言わんばかりにテオの頭を撫でる。


「そうだね。それも十分に理由として成り立つとは思うが……。家の長女が長距離に渡って移動するんだ。家が保有する戦力も当然ながら帯同させていると思うのだがね」


 貴族家にとって子供とは大事な『武器』である。


 男の子であれば跡取りに。女の子であれば家の勢力を伸ばすために上位貴族へ、あるいは利益関係にある家へ嫁がせる。


 そのような背景から考えるに、女の子――特に長女は家の存続や規模の拡大に使う武器と成り得るのだ。


 そんな武器を道中で失ってしまったらどうだろう? 貴族家としては最も避けたい事態でもある。


 となると、家が保有する戦力から過剰とも言える規模を護衛として割り振るのがベターと思える。


「子爵家ってそれなりにお金を持っているの?」


「クレシュア家は希少鉱石で賑わっていた領地だね。今は温泉を売りにした観光領地として運営されているが」


 ひと昔前は希少鉱石が採掘される土地として有名であったが、ここ最近は鳴りを潜めている。


 代わりに猛プッシュされたのが領内整備計画中に偶然見つかった温泉だ。


「クレシュアの温泉は肌に良し。浸かれば十歳は若返る、と有名だ」


 特に女性から。


 その効能は王家にも轟いており、一年に一度は王家の女性陣達が足を運ぶのだとか。


「へぇ~! 私も入ってみたい!」


「僕は遠慮しとくね?」


 一人と一匹のリアクションに笑顔を見せるカミ爺だったが、ここで話を戻すべく疑問と推測を再び語り始めた。


「とまぁ、家に金はあると思うのだがね。金があるということは、戦力として揃える騎士の数も多くなるはずだ」


 金があるということは、それだけ人に給金を払う余裕があるということ。


 特に温泉業で潤い、王家にもその名が届いているとなれば街の警備や領内の魔獣対策に騎士を多く必要とするはずだし、当主がよっぽどのケチじゃなければ軍備には予算を掛けるはずだ。


 しかし、護衛が必要だという。


 それは何故なのだろうか?


「歳寄りのいらない心配で済めば良いがね。とにかく、いくつか疑問が残る依頼だということは認識しておいてほしい」


「う~ん。とにかく、私は貴族の女の子を守ればいいのね?」


「そうだね。魔獣が出たら寄り付かないようにしてもらうのと……。あとはたぶん、話し相手になって欲しいと言われるかな?」


 話し相手の件は向こうの要望次第だが、とカミ爺は語る。


「分かったわ。私に任せてちょーだい!」


 リリベルは何を根拠にしているのか不明だが、むふんと胸を大きく張る。


「期待しているよ、見習い魔女殿」


 やる気満々のリリベルにカミ爺はいつも以上に笑顔が漏れてしまう。


 彼に孫がいたら表情筋がゆるゆるになって戻らなさそうだ。


「おーい! こっち、こっち!」


 と、このタイミングでアレスの声が聞こえてきた。


 二人と一匹が声の方向へ振り向くと、手を振るアレスとレダ。それに五人の騎士が囲む一台の馬車があった。


 アレスとレダは護衛騎士の中の一人――顎鬚を生やした中年騎士を連れてリリベル達の元へ歩み寄る。


「彼らが?」


「ええ。話していた仲間です。こちらの彼女が助っ人の子ですね」


 中年騎士はカミ爺に視線を送ると「なるほど」といった感じの表情を見せる。


 ベテランを越えて大ベテラン魔法使いに相応しい容姿を持つカミ爺は、事前の説明通りだと納得したのだろう。


 ただ、次にリリベルとテオへ視線を向けると……。


「この子も魔法使いなのですか?」


「ええ。すごい子ですよ」


 アレスは腰に手をやりながら「すごい子です」と繰り返す。


 どうやら見習い魔女だとは明かしていないようだが、中年騎士は若すぎるリリベルの容姿にカミ爺ほど納得はしていない様子。


「こんにちは!」


「こんにちは。私はクレシュア家騎士団の副団長を務めております、ハイネと申します」


 しかし、副団長のハイネはリリベルに対しても礼儀正しい挨拶を行う。


 この時点でカミ爺の目に、ある種の安心感が垣間見れた。


「私は見習い魔女のリリベルです! こっちはテオよ!」


「よろしく」


 続けてリリベルが自己紹介をすると、ハイネはぎょっと上体を反らして驚いた。


「犬が喋った!? せ、精霊!?」


 リリベルの見習い魔女宣言よりも、犬が喋る方が驚きだったらしい。


 同時に彼は()()使()()が精霊を連れている意味も理解しているようだ。


「な、なるほど。これは確かに期待できそうですね」


 アレスに頷きを返したハイネはリリベルに手を差し出す。


「お嬢さん、一つ頼みがあります。私達が護衛するお嬢様の話し相手にもなってくれませんか?」


「ええ、構わないわよ!」


 既にカミ爺へ見せている通り、この自信がどこから湧くのは分からない。


 とにかく、顔合わせを終えたリリベル達は馬車の元へと向かって行く。


 すると、タイミングを見計らっていたであろう依頼主がキャビンのドアを開けて姿を現したのだ。


 最初に降りて来たのは専属の侍女らしき大人の女性。


 年齢は二十代だろうか。


 トリニア王国には珍しい黒髪のショートカットにメイド服を纏い、糸目の彼女はピンと伸びた背で主を見守る。


 続けて降りてきたのはドレス姿の女の子。


 白と薄ピンク色のドレスを纏う女の子はまさしく貴族令嬢と言わんばかりの容姿である。


 風に揺れる長い赤髪はサラサラで、瞳もルビーのような綺麗な赤色。まつ毛も長くて顔は巨匠の作った人形のように整っている。


 背丈に関してはリリベルよりも背が高く、彼女と比べると頭一つ分くらい違う。


 きゅっと口を結んだ彼女からは凛とした雰囲気が伝わってきて、家では厳しい令嬢としての訓練を積んできたのだろうと容易に想像できる佇まいだった。


「私がニーナ・クレシュアです。皆様、よろしくお願いしますわね」


 彼女はドレスのスカートをチョンと摘まんで礼をした。


 それに合わせ、リリベルとテオ以外の全員が頭を下げる。


 周囲の状況に焦ったリリベルはキョロキョロと周りを見回したあと、自分もスカートをチョンと摘まんで頭を下げた。


「見習い魔女のリリベルです。よろしくどーぞ」


 貴族位を持たない女の子はただ深く頭を下げればいいだけなのだが、とにかく依頼主への挨拶は無事に終了となった。


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