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おかしな見習い魔女は自立したい ~約束の小さな旅 編~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中


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第14話 旅費稼ぎ


 リリベルとテオはアレス達と共に再び街の外へ向かった。


 先ほどまで歩き回っていたのは街を出て東側だったが、今度は西側へ向かうことに。


 一行が街道沿いに歩いて行くと、地面に突き刺さった巨大な金属物の陰からボーンディアが一頭飛び出した。


「こっちに来るよ!」


 真っ先に気付いたのはテオだ。


 自慢の嗅覚が働いたのだろう。


 リリベル達を捕捉したボーンディアは鋭利な角を突き出すように構え、猛スピードでこちらへ走って来る。


「カミ爺!」


「うむ!」


 剣を抜いたアレスがカミ爺の名を呼ぶと、彼は「ファイアーボール!」と叫びながら杖を向ける。


 すると、杖の先に赤い魔法陣が生成される。


 魔法陣生成に掛かった時間は僅か一秒。これは魔法使いの中でもかなり早い部類に入る。


 生成された魔法陣からは火の弾が発射されるが、魔獣側もそれをちゃんと見ていたらしい。


 発射された瞬間にボーンディアが突進の進路をズラすが、なんとそれに合わせてファイアーボールも追従していくのだ。


 相手の動きに追従する魔法からは逃れられず、ボーンディアは角の真正面から魔法を受け止めることに。


『ヴォロロッ!!』


 悲鳴に似た鳴き声を上げるボーンディアの突進は衝突と同時に止まり、魔法が着弾した角は片方が溶けて折れてしまっている。


「アレス!」


 ここがチャンス。


 弓を構えていたレダは好機を逃さんとばかりに連射を開始。


「ああ!」


 更に剣を構えたアレスが矢を追うように走り出す。


 レダの撃った矢は全て命中。その中の一本は痛みに暴れる魔獣の目を貫いた。


 片目を潰す行為は近接戦闘を行う者にとって非常に大きな追い風となるだろう。


 ただ、他が優秀なようにアレスも剣を振るう者として非常に優秀な部類に入る。


「はぁッ!!」


 彼が振るう剣の型はトリニア王国式――トリニア王国騎士団で習う型と一致している。


 その上で彼のスタイルは基本に忠実であり、小賢しい小細工などは一切ない。


 もっとも力を発揮しやすい基本形。忠実に『斬る』を再現するのがアレスの強みと言える。


 剣をそこそこ知る者、中堅クラスの傭兵から見たら「面白味がない」と評価されるかもしれないが、対魔獣戦闘においては非常に効力を発揮するスタイルでもある。


 そこに魔法使いであるカミ爺と弓使いであるレダの力が合わさるのだ。


「獲った!」


 負けるはずがない。 


 アレスの剣はボーンディアの首を捉え、そのまま綺麗に一刀両断。


 両断された首が地面に落ちると、遅れて体も地面へ沈んだ。


 ――さて、彼ら傭兵チームの総合評価としては『上位ランクチーム』に位置するだろう。


 トリニア王国内における傭兵事情から照らし合わせると、国内で有事が発生した際は必ず招集されるレベル。


 まだまだ知名度が知れ渡っていないだけで、非常に優秀なチームと言える。


「あ! もう一頭!」


 わふん! とテオが吠えた先、西に続く草原の先からもう一頭のボーンディアがこちらへ走って来る。


 まだまだ距離はあるが、どうやら向こうは仲間の死に気付いているらしい。


 遠目に見えるボーンディアの様子は興奮しており、全力疾走のままこちらを突き殺そうとしているのが窺える。


「リリベル君、魔法を使ってみてくれるかね?」


 カミ爺は「いつものように」と注文した。


 恐らく、リリベルの力を正しくアレス達に伝えようとしているのだろう。


「うん、いいよ」


 リリベルはその意図を察することもなく、かる~い返事と共に杖を向けた。


 魔獣との距離は百メートル以上。普通の魔法使いならまず当たらない距離だ。


 追従効果のある魔法を放てるカミ爺なら対処できる距離だが、リリベルと同い年の魔法使いは勿論のこと、学園を卒業したばかりの魔法使いでも厳しい距離だろう。


 戦い慣れた魔法使いなら一拍置き、もう少しだけ距離が縮まったら魔法を放とうと考えるはずだ。


 しかし、ご存じの通りリリベルは違う。


「パイロ」


 杖のトップにはまる赤い宝石がピカッと光る。


 光った瞬間に突進中のボーンディアが跳ね、その身に起きた異常をアレス達に晒すのだ。


 同時に魔獣の体が焦げていくのが見え、ようやくアレスとレダは「は?」と声を漏らした。


「ここまでとは……」


 もちろん、魔法を使うよう提案したカミ爺も。


 彼の驚きはどんな種類なのだろうか?


 見習い魔女と明かしたリリベルが見習いにしては想像以上の実力を持っていたのか? あるいは、彼女が顕現させた魔法が規格外過ぎたのか。


 どちらにせよ、リリベルという美少女が他と違うことを証明するに十分だっただろう。


「……黒焦げになってない?」


「魔法使いってこんなこともできるの?」


 アレス、レダの順でカミ爺に問うが、カミ爺は「いいや」と言いながら首を振る。


「これが魔女だ。魔女の魔法だ」


 二人に現実を教えたカミ爺は眼力で「凄まじいだろう?」と訴える。


 一方、それをやった本人は――


「あーあ。またやっちゃった」


 シュンと肩を落としてカミ爺を見上げるのだ。


「普通に魔法を使うと魔獣が黒焦げになっちゃうの。あれだとお金を貰えないわよね?」


「そうだね。さすがにあれでは討伐した証拠を採取するのは難しいだろうね」


 殺した魔獣の体を見に行くまでもない。


「魔法の威力を落とすことはできないのかい? 例えば……。脚だけを焼くとか」


「あれが最低出力なんだよ」


 リリベルの代わりにテオが答えた。


 彼女にとってあれが最低なのだと。


「他の魔法は?」


「アネモを使ったら体が輪切りになっちゃってね? すっごくグロいの」


 輪切りになった体の中から心臓を探すのは嫌だ、とリリベルは渋い表情を見せる。


「俺達が連携して倒す相手を一瞬で倒せちゃうのか……」


 傍らで話を聞いていたアレスは眉間に皺を寄せながら唸る。


「どうだ? これが魔女だ。見習いだとしてもこの実力なのだ」


「最初に出会った時、確かに助けはいらなかったかもね」


 アレスはリリベルを見下ろしながら言うが、顔を上げてカミ爺を真っ直ぐ見つめる。


「でも、彼女はまだ小さな女の子だよ。見習い魔女とはいえ、俺達のような人間が助けてあげるべきだ」


 リリベルの力を知っても尚、彼は自身の信念を曲げない。


 それを見たカミ爺は嬉しそうに「そうだな」と頷いた。


「じゃあ、魔獣狩りに適した魔法を探してみたら?」


 いつの間にかテオを抱っこしていたレダが言う。


「それは良い考えだ。ワシもリリベル君の魔法をまだまだ見てみたい」


 カミ爺も提案に乗り、一行はリリベルの魔法を見学することになったのだが……。


「アネモ」


 既にご存じの通り、風の魔法は魔獣の体を輪切りに。


 火の魔法と違って原型は留めているものの、斬る部分を指定できずに心臓まで真っ二つになってしまうことも。


「ジオ」


 次は土の魔法だ。


 こちらは地面から土の壁が飛び出して壁を作る魔法だったのだが、ボーンディアを前後で挟み込んでグチャン。


 土の壁に挟まれたボーンディアの体はぺっちゃんこ。風の魔法と同じかそれ以上にグロい状況が出来上がってしまった。


「ハイドロ」


 続けて水の魔法。


 こちらは大きな水の塊で相手を包み込む。


「お! 水で窒息させるのかな? これはイケるんじゃ!?」


 前のめりになったアレスが「うおー!」と歓声を上げるが、水の塊に囚われたボーンディアの体が圧縮されていく。


 圧力に潰されるボーンディアの体が変な形になると、同時に水の塊が弾けてグチャグチャになった体が地面に飛散した。


「…………」


「…………」


 テオ曰く、どれも最低出力での魔法だという。


「これで最低出力とは……。魔女魔法というものは恐ろしいな……」


「ううん。この子が特別なんだよ。魔女魔法でもヴァレンシアが使えば、もっと出力が落ちてたもの」


 リリベルの魔法は師匠であるヴァレンシアにとっても異常だったようで、彼女は弟子の魔法を「才能がありすぎる」と表現した。


 ヴァレンシアが同じ魔法を使った際、こうはならない。


 火の魔法(パイロ)を使ったら火球を飛ばすだけなのだが、どうしてもリリベルの魔法はそれ以上の結果を生み出してしまう。


 リリベルの『1』はヴァレンシアにとっての『10』になってしまうのだ。


「この子は他にもヴァレンシアを驚かせることをしでかしてね。彼女はこれ以上教えたらマズいと判断して、魔法の授業は早めに終えたんだ」


 他にも「マズい」と感じた判断材料はあったみたいだが、とにかくこれ以上教えるのは危険だと判断したらしい。


「つまり、加減しようにも加減できんから最低限の魔女魔法だけ教えたと?」


「そう」


「ふーむ、なるほど」


「それでね、ヴァレンシアは代わりにエンチャントを教えたんだ」


 リリベルが直接魔法を使うと加減ができない。


 しかし、古代魔法文字を描くことによって魔法を付与する行為は文字の組み合わせによって加減が利くのでは? とヴァレンシアは考えた。


 彼女の考えは見事的中。


 リリベルは実力以下の威力を出力するエンチャントに成功した。


「エンチャントって魔法を付与する技術よね? それって攻撃魔法も付与できるの?」


 話を聞いていたレダが問う。


「できるわよ! 知ってる魔法なら何でも付与できちゃうんだからっ」


 リリベルは「私、すごいんです!」と言わんばかりに胸を張る。


「じゃあさ、こういうのはどう?」


 レダは地面に落ちていた枝を拾うと、地面に絵を描きながら自身の考えを語っていく。


「それならいけるかもしれないな」


 カミ爺のお墨付きも出て、次はエンチャントによる魔獣狩りを試すことになった。


「あ、いた!」


 街道沿いを歩いていると新たなボーンディアを見つけた。


 リリベルの声を聞いたボーンディアが振り返ると、足先で地面を擦った後に突撃してくる。


「リリベルちゃん! 用意したやつ!」


「うん!」


 レダに促され、リリベルは平べったい石をボーンディアに向かって投げる。


 少々飛距離は足りなかったが、平べったい石は突進してくるボーンディアの進路上に落ちた。


 地面に落ちた石をボーンディアが踏んだ瞬間――エンチャントされた石から風の刃が吹き上がる。


 逆ギロチンのように魔獣の胴体を両断する、鋭利すぎる風の刃が空に向かって放たれたのだ。


「ほらぁ! バッチリじゃない!」


「すごいわ! 本当にエンチャントの罠が完成しちゃった!」


 レダとリリベルは嬉しそうにハイタッチ。


 これがレダの提案した罠エンチャントによる魔獣狩りだ。


「まだまだ課題はありそうだが、これは使えるんじゃないかね?」


 カミ爺の課題とは、相手をどう罠へ誘い込むか。


 今回はたまたま進路上に落ちたが、少しでもズレたらエンチャントによる魔法がハズレてしまうだろう。


「そこはテオがやればいいんじゃない?」


「え!? 僕!?」


 驚愕するテオに対し、リリベルは真顔で「だって、犬精霊じゃん」と言った……。



 ◇ ◇



 リリベル達の魔獣狩りは夕方まで続けられ、結果的にはエンチャントで六頭のボーンディアを仕留めることに成功した。


「六頭ってすごい?」


「半日で六頭はすごいね。超ハイペースだよ」


 アレス達三人が協力して、となると普通のペースかもしれないが、あくまでも一人の成果としては上々すぎる結果だ。


「六頭分の証を換金しよっか。今日は俺達が代わりに換金処理してあげるよ」


 本来であればリリベルが傭兵登録して換金するのが正当なのだが、傭兵登録すると色々面倒も付きまとう。


 一つ目は滞在中の街にある傭兵組合へ到着報告しなければならないこと。


 二つ目は何か有事の際は招集に応じる義務があること。


 他にも税金やら色々と面倒があるので、登録はよく考えるようにとカミ爺にも注意された結果だ。


 よって、先ほどアレスが言った通り、あくまでも「アレスのチームが狩った」ということにして換金することに。


「ほら、見てごらんなさい。昨日と比べて金額が変動しているだろう?」


 傭兵組合にて、そう告げながら掲示板を指差したのはカミ爺だ。


「本当だわ。昨日は一万トーアだったのに、今日は八千トーアになってる」


「これは昨日の段階でボーンディアが多く狩られた証拠だね。この街の騎士団が周辺に生息するボーンディアの数が少なくなったと認識し、全体的に脅威度が下がったと判断したのだろう」


 ボーンディア一頭の報酬は下がったが、逆にレッドグリズリーの報酬金額は十三万にまで上がっている。


 これは南部方面に向かう馬車の本数が減っており、人の流れも物流にも影響を及ぼしているせいだろう。


「換金終わったよ」


 アレスに声を掛けられ、リリベル達は組合の外へ向かう。


「はい、これ」


 六頭分の金額、四万八千トーアが入った革袋を受け取るリリベル。


「え? これ……」


 全額入っていることを知った彼女は戸惑いの表情を見せるが、対するアレス達はニコリと笑う。


「これだけあれば旅費も困らないかな?」


「そうね。途中でお菓子もジャーキーも買えると思うわ」


「今日はリリベル君の魔法を見せてもらったし、そもそもエンチャントで狩った分だからね。君が受け取るべきだよ」


 手伝ってくれたにも関わらず、アレス達は等分しようだとか、分け前を寄越せとも言わない。


 そんな彼らを見て、リリベルは袋の中へ視線を落として――


「じゃあ、夕飯は私がご馳走するわ」


 焦るように、三人を引き留めるように彼女が言うと、それを聞いた三人は再びニコリと笑った。


「じゃあ、昨日と同じお店で奢ってもらおうかな? レダが魚、魚ってまだ言っているから」


「ええ、構わないわよ! お金持ちな私に着いて来なさい!」


 リリベルは「ばっちこーい!」と片手を突き上げて先頭を歩き、その横にはお尻をふりふりしながら「わふんわふん」と鳴くテオが並ぶ。


 二人の後ろ姿を見ながら続くアレス達は顔を見合わせて笑顔を浮かべた。



 ◇ ◇



 翌日、宿で朝食を摂ったリリベルとテオはアレス達と別れて乗り合い馬車の停留所へ。


 そこで再び従業員に状況を問うと――


「まだ乗り合い馬車は出ないよ。昨日よりも状況は悪くなったみたいでね、再開の目途は立ってないんだ」


 もしかしたら今日の段階でレッドグリズリーが討伐されて、明日から通常運行になるかもしれない。


 はたまた、一週間経ってもレッドグリズリーが討伐されず、乗り合い馬車の運行は一週間以上の停止になるかもしれない。


 こればっかりは状況次第なので何とも言えない、と従業員も大きなため息と共に語る。


「そっか~……」


「すまないね」


 二度目のため息を吐きながら従業員は建物の中へ戻って行った。


「どうする?」


「うーん、どうしよう?」


 事情は理解しているが、この街でずっと足止めを食らうわけにもいかない。


 こうなったら歩いて行った方がいいのでは? などと二人で話し合いながらメインストリートを歩いていると、道の先からリリベルを呼ぶ声が聞こえてきた。


「アレス達だわ」


 手を振りながら彼女の名を呼んでいたのはアレス達だ。


 リリベルが駆け寄ると、アレスは「乗り合い馬車はどうだった?」と問うてくる。


「まだ魔獣が討伐されていないから出発できないって。もう、本当に困っちゃうわ」


「そっか。そこで提案なんだけどさ、俺達と一緒に南へ向かわない?」


 アレスは「実は」と話を切り出した。


「さっき傭兵組合で依頼を受けてね。南へ向かう貴族令嬢の護衛を受けたんだ」


「ご令嬢はリリベルちゃんと同年代みたいだし、話し相手にもなるかなって」


「ついでに魔獣と出くわしたら魔法で助けてくれると助かる」


 アレス、レダ、カミ爺の順でリリベルへの勧誘が始まった。


「一緒に南へ行って、更には依頼の報酬も貰えるよ。どうだい?」


 最後にアレスから一押し。


 話を聞いたリリベルとテオは顔を見合わせて――


「やる!」


 リリベルは大きく頷いた。


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