第13話 南に向かいたい見習い魔女
傭兵組合を見学した後、予定通り美味しい魚料理を堪能したリリベル達。
彼女達は宿泊先もアレス達にオススメされた宿に決め、第二街で初めての朝を迎えた。
「アレス達はこれからどうするの?」
宿の食堂で一緒に朝食を摂るリリベルが問うと、焼きたてのパンを頬張るアレスの代わりにレダが口を開いた。
「私達は第二街で魔獣討伐の依頼を受けようと思っているの。だから、しばらくは街に滞在することになるかしら?」
依頼次第だが、数日は街へ滞在するつもりだと明かす。
「ふぅん。そっか~。じゃあ、ここでお別れかもね」
パンにジャムをたっぷり塗って、パクリと一口。
パンを理由にあま~いジャムを堪能するリリベルがそう告げると、レダは机の下でカリカリのベーコンを食べるテオへ顔を向けた。
「テオ君の毛並み、もう堪能できないか~」
「フフ。残念だったね。僕は安売りする犬じゃないんだ」
昨日はあれだけ昇天しかけていたのに、今日のテオは「そう簡単には撫でさせないぞ」と言わんばかりな態度を見せる。
恐らく、これは昨晩にリリベルから「だらしない犬になっていた」と指摘されたからだろう。
リリベルのお兄ちゃんとして威厳を保ちたいのか、今日は気をしっかり持とうと心に決めたようだ。
「ふぅん。私のベーコンいる?」
「いるぅ!」
レダがベーコンを指で摘まむと、テオはぴょんと彼女の膝に飛び乗った。
その後のテオはご想像にお任せしたい。
「リリベルちゃんはどうするの?」
「私は南部へ向かう乗り合い馬車を探すつもりよ」
以前も語った通り、ここは南部の玄関口。
南部へ向かう乗り合い馬車は多いはずだ。
「南に住む魔女様の元へ行くという話だったね。となると、東側から迂回するように進むのが最短ルートか」
カミ爺の言った通り、ここからは南東側の領地を経由しながら南下していく。
次の目的地は『ショア伯爵領』となり、そこから再び南下する乗り合い馬車を探すことになるだろう。
「ただ、懸念されるのは魔獣の存在だ」
「魔獣?」
「そう。第二街の周辺で頻繁に目撃されているからね。南部へ向かう馬車の本数が激減しているかも」
「え~! 乗り合い馬車に乗れなきゃ余計な旅費が掛かっちゃうわ……」
リリベルは小さな声で「シュークリームが食べられない」と呟く。
現時点のリリベルは寄り道する気満々らしい。
「騎士団の魔獣予報にも因るけどね」
トリニア王国騎士団には魔獣の動向を調べる部隊が存在し、彼らは魔獣がどの方向へ向かうのか、あるいはどの地域に留まるのかなどを研究・公表している。
「魔獣の生態を調べる学者さんみたいね?」
「その通りだよ。部隊には魔獣研究を目的とする学者が組み込まれているんだ」
魔獣被害に悩まされ続けてきたトリニア王国だが、近年になると「敵を排除するには敵を知ること」という考えが強くなりつつあった。
ただガムシャラに敵を殲滅するのではなく、情報や研究を重視して効率化を図り始めたことにより、魔獣の生態を調べる学者達を騎士団の臨時アドバイザーとして迎えることに。
最初は単に魔獣の生態を調べる学者達を護衛する専門部隊であったが、時が進むにつれて学者も騎士団の一員として活動することになったのだ。
こうして誕生したのが『魔獣予報部隊』である。
彼らは集めた魔獣の生態情報を元に周辺地域の動向を公表し、乗り合い馬車の御者や商人などはこの情報を元に予定を組んでいる。
「その情報はどこで見れるの?」
「傭兵組合で見れるよ」
元の情報自体は傭兵組合の掲示板に貼られているが、一般人なら乗り合い馬車の停留所へ行って御者に問うのが手っ取り早い。
よって、リリベルは一旦乗り合い馬車の停留所へ向かうよう勧められた。
「いつも通りね」
行動自体はいつも通り。
乗り合い馬車の停留所へ向かって乗れる・乗れないを聞くだけ。
というわけで、彼女は朝食を食べ終えるとすぐに乗り合い馬車の停留所へ向かったのだが……。
「南へ向かう馬車は明後日まで出ないんじゃないかなぁ」
「えー!」
明日どころか、明後日まで馬車は出ないと。
運営商会の従業員が告げた言葉に悲鳴を上げるリリベルだったが、従業員も苦笑いを浮かべながら「うちも困っててね」と口にした。
「うちも乗り合い馬車が出せないと稼げないからなぁ。お客さんを乗せたいのはやまやまだけど、さすがにレッドグリズリーは……」
「レッドグリズリー?」
その名を聞いたリリベルは首を傾げながらも「組合で見た名前ね」と漏らす。
「そう。昨晩、南部との境目でレッドグリズリーが目撃されたんだ。しかも二頭も」
従業員は言葉を続ける。
「たぶん、番の熊が魔獣化したんじゃないかな?」
「夫婦で人を襲っているわけ?」
「そういうこと……なんじゃないかな? とにかく、二頭同時に目撃されているからね。危なすぎるって騎士団から警告が出ているんだ」
現在、南部側の騎士団と一部の傭兵が討伐に動いているそうだ。
「恐らく南部行きはレッドグリズリーが討伐されてからになるよ」
「そう……。分かったわ」
リリベルは従業員に「ありがとう」と告げてその場を後にした。
「どうしよっか」
「どうしようね」
一人と一匹は顔を見合わせて首を傾げてしまう。
「さすがに歩いて進むには遠すぎるよ」
馬車に乗れないなら徒歩となるが、さすがに歩きでは野宿確定。
野宿となるとその分の水や食料も揃えないといけないので、乗り合い馬車へ乗るよりも余計にお金が掛かる。
「かといって、レッドグリズリーが討伐されるまで宿に泊まるのも……」
待っているだけでも宿泊費が掛かる。それに食事代も。
「お菓子も食べたくなっちゃうわ!」
「僕だって骨っことジャーキーが食べたくなっちゃうよ!」
あとお菓子代諸々も。
「お金を稼ぐしかないわっ!」
結果、この結論に至る。
「光る石を売ったらまた怒られちゃうよ?」
「そうね。だから、魔獣を狩るのよ!」
アレス達みたいに! と、リリベルはムフンと鼻息荒くする。
「えー、リリベルに出来るかなぁ?」
「出来るわよ! 見てなさい!」
自信たっぷりに言い張るリリベルはテオを連れて街を出た。
そのまま街道沿いに南へ少し進むと、タイミング良くボーンディアが現れたのだ。
「パイロ!」
これまで見てきた彼女の実力通り、ボーンディアを討伐することなど容易い。
いつものように魔法を使えば倒すことは出来る。
倒すことは、だが。
「あーん! 黒焦げ!」
しかし、魔獣狩りで稼ぐとなると「討伐の証」が必要なのだ。
ボーンディアを討伐した証となるのは角の一部と心臓である。
だが、リリベルがよく使う「パイロ」は体内から燃やす魔法だ。
となると、心臓を取り出そうにも……。むしろ、心臓って残ってるの? くらいの状態になるのである。
因みに燃えた角はパキパキに折れて原型を留めていない状態だ。
「他の魔法を使ってみたら?」
「うーん、となると……」
また街道沿いに歩き回り、二頭目のボーンディアと遭遇。
「アネモ!」
次に使用したのは風の魔法。
ビュウ! と強い風がボーンディアに向かって放たれるのだが、途中で風は刃へと姿を変える。
そして、三つのカマイタチがボーンディアの体を切り刻むのだ。
輪切りに。
細かく輪切りになったボーンディアの体がビチャビチャと地面に広がる。
「あーん! グロい!」
そう、非常にグロテスクな状態になってしまった。
角の生えた頭部は丸々残っているが、ぶちまけられた血肉の中から心臓を探さねばならない。
リリベルは「触りたくない!」と涙目になってしまう。
と、色んな意味でリリベルには「不向き」と言える結果になってしまった。
その後も色々と試そうはするが、肝心の魔獣とは遭遇できず。
昼の三時を回った時点でリリベルのお腹は「ぐうぐう」と鳴り始めてしまう。
「……街に帰ろう」
「うん」
盛大に失敗したリリベルは肩を落としたまま街へ戻る。
その落胆っぷりは入口に立つ騎士をギョッとさせ、彼女を心配する騎士から「何があったかは分からないけど元気出して」と励ましの言葉と共に飴ちゃんを差し出されるほどだった。
「あれ? リリベルちゃん?」
もらった飴を口の中で転がしながら歩いていると、声を掛けてきたのは店から出てきたばかりのアレス達だった。
見るからに落胆する彼女から事情を聞いたアレスは――
「そっか。なら、俺達と一緒に狩ろう!」
恐らく、アレスは人助けのつもりで提案したのだろう。
まだまだ幼いリリベルが魔獣を狩れなくて当然。代わりに自分達が戦い、その分け前を上げようと。
もしくは戦闘中の荷物番など、ちょっとしたお手伝いをしてもらうつもりなのかもしれない。
とにかく、アレスはまだリリベルのことを勘違いしているに違いない。
「えー! 良いの!?」
「うん! 困っている子を放っておくことはできないからね!」
彼は正義の味方なのだ。
彼は正義の味方でありたいと願った青年なのだ。
だからこそ、こういった提案をすぐに口にしてしまう。
長く相棒として共にするレダもその性格を熟知しているからか、苦笑いするだけで反対はしない。
しかし、カミ爺は――
「アレス、お前は何か勘違いしているんじゃ?」
この中で正しく戦闘力の序列というものを理解しているのは、大ベテラン魔法使いのカミ爺だけなのだろう。




