第11話 傭兵アレスとその仲間達
リリベルとテオはアレス達と共に第二街まで向かうことになった。
「俺の名前はアレス。魔獣討伐専門の傭兵だよ」
「魔獣専門?」
リリベルがこてんと首を傾げると、アレスは「そうそう」と何度も頷いた。
「最近は傭兵にも色々選択肢があってね。俺とレダは魔獣討伐専門で戦争には参加しないんだ」
アレス曰く、魔獣討伐専門の傭兵は正しい意味での傭兵というよりも『害獣駆除』に近いという。
戦争に参加して人間を相手にするのではなく、国内で魔獣被害に困っている人達を救うために傭兵となったのだと。
「魔獣被害の情報は傭兵組合に集まって来てね。その情報を元に国内を旅して回っているんだ」
「へぇ~! そういうのもあるのね~」
リリベルは「まるで騎士様みたい」と言うが、騎士という単語を聞いたアレスは一瞬だけ悲しそうな表情を見せる。
「騎士はすぐに動けないからね。傭兵の方が身軽だし、すぐに行動へ移せるから」
そう語る彼には何かありそうだが、ここでは多く語られなかったし、リリベルも追及する気はないようだ。
「カミ爺は?」
「ワシは旅しながら魔法を研究しているんだけどね。旅費を稼ぐ目的で傭兵組合へ登録したんだが――」
彼はそこでアレスとレダに出会い、一緒に魔獣討伐を行って以降共に行動するようになったらしい。
元々組んでいたアレスとレダも魔法使いが加われば心強いと感じていたらしく、カミ爺との出会いはまさに好機とも言えたのだろう。
「今、第二街方面は魔獣がたくさん出るって話を聞いたからさ。俺達もそちらへ向かっていたんだ」
「その途中でリリベル君を見つけたのだけどね」
アレスに続き、カミ爺も数十分前の状況を語る。
しかし、カミ爺の顔には苦笑いが浮かんでいた。
「正直、助けはいらんかっただろうな」
「何言っているんだよ、カミ爺。話を信じていないわけじゃないけど、リリベルちゃんはまだ見習いなんだろ?」
苦笑いで言うカミ爺を肘で突くアレス。
正しく『魔女』を知る老人とそうじゃない青年の違いといったところか。
「とにかく、ここから先は危ないから一緒に行こう?」
「ええ。歩くのも疲れちゃうからね。馬に乗せてもらえるのはありがたいわ」
「それにレダが君の相棒を離そうとしないからね」
視線を横に向けると、ヘソ天しながら気持ちよさそうな顔を見せるテオと恍惚とした表情でお腹を撫でるレダの姿があった。
「さて、向かう前に回収しちゃおうか。ちょっと待っててね」
アレスはナイフを取り出すと、討伐したボーンディアの角を一部切り取る。
続けて腹を裂き、赤黒く変色した心臓を切り取る。
三頭分を革袋に入れれば回収完了だ。
「じゃあ、街へ向かうとしよう。暗くなる前には街へ辿り着きたいからね」
カミ爺がそう言うと、アレスはレダに「出発するよ」と告げる。
レダはテオを抱き上げ、そのまま自分の馬に跨った。
「さて、リリベル君。道中、ワシと魔法について語り合おうじゃないか!」
カミ爺が一緒に行こうと提案した理由の大半がこれなのだろう。
彼は自らの口で「魔法を研究している」と語っていたし、魔女が扱う魔法の話を聞きたいと思っているに違いないのだが……。
「私、アレスの馬に乗るわ」
リリベルとしてはイケメンと相乗りしたいのだろう。
前に座って後ろから抱きしめられる形も実に恋愛小説感溢れているし、リリベルが後ろに座ってアレスの腰に腕を回すのも、また恋愛小説感溢れるシーンを体験できるからだ。
ただ、相手となるアレスの方は――
「レダ、その子を落とさないようにしないとダメだよ」
「分かってるわよ~」
アレスは既に馬へ跨り、馬上でテオを撫で続けているレダに近寄っていた。
「…………」
「残念じゃったね」
元々組んでいたというアレスとレダ。
二人の関係はいかに。
◇ ◇
四人と一匹は馬に跨りながら街道を行く。
「…………」
結局、リリベルはカミ爺の馬に乗ることになった。
カミ爺の前に座らされた彼女は真顔のまま街道の先を一点見つめする状態が続いていたのだが……。
「君の師匠となる魔女はどなたかね?」
「東の魔女よ。ヴァレンシア」
「ああ、ヴァレンシア様か。……しかし、どうして南へ? ヴァレンシア様におつかいでも頼まれたのかね?」
彼女の背後から問うカミ爺にリリベルは首を振る。
「師匠、死んじゃったの。師匠の死を南の魔女へ伝えに行くところなのよ」
「なに? ヴァレンシア様が亡くなったのか!?」
カミ爺はヴァレンシアの死を聞き、大きいため息を漏らす。
「何と言うことだ……。何と惜しい方を亡くしたのか……」
「カミ爺、師匠のことを知っているの?」
そのリアクションに興味を惹かれたのか、リリベルは振り返りながら彼に問う。
「若い頃、ワシは東部の領主街で魔法を教える家庭教師をしていたことがあってね。その時に何度かヴァレンシア様をお見掛けしたことがあったのだよ」
カミ爺は当時を思い出したのか、笑顔を浮かべながら「実に美しい魔女様であった」と懐かしそうに語る。
「美しい……? 師匠が?」
「ああ。とんでもなく美しい女性だった。まさに絶世の美女といった感じでね。街にヴァレンシア様が来た時は男達が一目見ようと道に群がったものさ!」
彼の語る話に誇張はなく、若い頃のヴァレンシアは貴族から求婚されるほどの美女であったのだ。
しかし、若い頃を知らず、ガミガミと自分を説教する年老いたヴァレンシアしか知らないリリベルからすると――
「人違いじゃない……?」
若きヴァレンシアの逸話を聞かされる度、彼女の中にあるヴァレンシア像と乖離していくのだろう。
最終的には別人だよ、と言い切るほどだった。
「そういえばさ。魔法使いと魔女の違いって何なの?」
そう問うたのは並走するアレスだった。
「魔女がすごい存在だってのは理解しているけど、魔法使いにも大魔法使いって呼ばれる人はいるよね? 魔女も同じじゃないの?」
「うむ。実に良い質問だ」
大きく頷いくカミ爺は、王立魔法学園で教鞭を振るう教授のよう。
元々家庭教師に従事していたと明かしたこともあるせいか雰囲気はぴったりだ。
「まず前提として、魔法使いが使う魔法と魔女様が使う魔法の性質は同じだ。両者共に魔力を魔法に変換することで顕現させる」
使っているエネルギーは同じ。
しかし、魔法へ変換する過程が違う。
「魔女様の魔法は精霊の力が宿っているのだ」
「精霊?」
「そう。世界の根底にある力。世界を形作った力。魔女様が魔力を魔法へ変換する際、精霊がその魔法を顕現する際に助力すると言われているのだ」
リリベルが使う魔法もそうだが、彼女が何度か商売に使ったエンチャントも同じく精霊の力が作用している。
以前に語った『魔女の資格がある者』のみが使用できる、という理由がこれにあたる。
故に魔法使いが古代魔法文字を読み書きできてもエンチャントの成功には至らないというわけだ。
ここまで説明したカミ爺は言葉を続ける。
「今は魔女と呼ばれているが、大昔では『精霊の友』とも呼ばれていたらしい」
「へぇーっ! ってことは、魔法使いの魔法には精霊の力が宿ってないの?」
「そうだ。魔法使いが使う魔法は精霊の残した残滓を魔力で燃やしているに過ぎない。よって真に『魔法』と呼べる奇跡は魔女様にしか使えないと言われているんだ」
カミ爺は「そうでしょう?」と言わんばかりにリリベルへ顔を向けた。
「…………」
しかし、リリベルは「そんなこと師匠言ってたっけ?」と言わんばかりにばかりに首を傾げるのである。
「首、傾げてるけど?」
「……ご、ごほん! と、とにかく! そう言われているんだ」
アレスの指摘に対し、カミ爺は頬を赤らめながら言った。
「でもさ、どうしてそんな違いが出るの? リリベルちゃんもカミ爺も同じ人間だよね?」
アレスはリリベルとカミ爺の顔を交互に見て、更に言葉を続けていく。
「ヒューマンもエルフもドワーフも獣人も、みんな大なり小なり魔法は使えるじゃない? どうして魔女だけ特別なの?」
アレスの疑問はもっともだ。
この世界には色んな種族が生きており、どんな種族も魔法を使うことはできる。
しかし、どうしてその中で魔女の扱う魔法だけが特別なのか。
大魔法使いと呼ばれる魔法使いや権威ある魔法使いでさえ、魔女と同じく精霊からの助力をどうして得られないのか。
「わからん!」
カミ爺は胸を張ってハッキリと宣言した!
「わからん! 長年魔法を研究しているがちーっともわからん! もはや、そういうモノと断言した方が楽なくらいわからん!」
現状、魔女と精霊の関係性に関する理屈は不明のまま。
これに関しては魔女本人に聞いても「わからない」と返す者が多く、リリベルが首を傾げるのも無理はない。
「研究者の中には魔女の血筋を疑う者もいたが、その研究も途中で頓挫したという噂がある」
正確に言うと辿れなかった、と。
リリベルとヴァレンシアの関係が証明しているが、師匠と弟子の間に必ずしも血縁関係があるわけでもない。
ただ一つ、魔女の系譜が絶えない理由は――
「魔女は直感的に後継者を見つけるらしい」
「あっ! それは聞いたことある! 師匠も私を拾った時に『育てなきゃ』って思ったんだって」
リリベルがカミ爺の言葉を肯定すると、初めて肯定されたカミ爺は実に嬉しそうな表情を見せる。
「育てなきゃって思うって……。何だかすごいね、魔女って」
ここまで聞いたアレスの感想としては、謎が多すぎて「不思議だね」としか言えないのだろう。
「そう。だから謎に迫るために話をしたかったのだが……」
言いながらリリベルを見下ろすカミ爺だが、肝心の見習い魔女はいつの間にか取り出したクッキーを頬張っている最中である。
「少々難しそうだな」
その姿を見て、カミ爺は苦笑いを浮かべる。
「なぁに?」
「いや、私の買ったお菓子も食べるかね?」
「食べるっ!」
カミ爺は魔女について問うのを諦めたらしい。
代わりに孫を可愛がるが如く、甘党である自分の持ち物を披露していった。
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