第10話 キュンかもな青年剣士
「今助けるぞ! そこを動かないで!」
後方から叫び声が聞こえ、リリベルとテオは揃って振り返る。
声を上げたのは革の鎧を身に着けた青年だ。
茶の短髪に緑色の瞳、ややゴツめのガントレットを身に着けた彼は馬上で剣を抜いた。
「うおおおッ!」
青年はそのまま突っ込んで来ると、片方のボーンディアに剣を振るう。
一撃必殺とはいかないが、彼の振るった剣はボーンディアの特徴的な角を斬り飛ばす。
そのまま彼はリリベル達の横を通過していき、前方にいるもう一頭へと突っ込んで行く。
「はぁぁぁッ!」
青年は馬から飛び、空中で剣を上段に構える。
そのまま落下する勢いも使って剣を振るうと、ボーンディアの角を斜めに斬り落とした。
着地と同時に剣を振り終えた瞬間、手を返して剣を振り上げる。
その一撃がボーンディアの首下に入り、彼の剣は肉を斬り裂いて骨へと食い込む。
「ん、お、おおおおッ!」
骨に食い込んだ剣を力任せに振り抜くと、荒々しく切断されたボーンディアの頭部が紫色の血と共に宙を舞う。
「「 わぁぁ 」」
その光景を見ていたリリベルとテオは揃って声を上げてしまった。
ややグロテスクな状況に悲鳴を上げているのではなく、一人と一匹の声音には称賛の色が十分に含まれている。
一方で一頭目を仕留めた青年はまだ止まらない。
体を翻すとすぐに駆け出し、再びリリベル達の真横を通り過ぎる。
「まぁまぁ!」
彼が通り過ぎた瞬間――彼の顔を目撃したリリベルは頬を赤く染めると、また違った種類の声を上げる。
「見た!? テオ、あの人イケメンだわ!」
そう、青年の顔面はとてもよろしかった。
キリッとした緑色の目は他者の視線を存分に惹き、戦闘中に見せる真剣な表情は物語の主人公のよう。
「キリッとした目なんて王子様みたいだわ!」
「……僕の方がかっこいい目をしてるもん」
リリベルは手を合わせて目を輝かせる一方、テオはムスッとした表情を見せる。
「させないぞッ!」
そんな一人と一匹の様子など気にする暇もない青年は、今にも走り出しそうなボーンディアを阻止するように肉薄した。
振るった剣は鋭利な角に受け止められたが、ボーンディア最大の攻撃である突進は阻止できた。
「え!?」
ただ、剣が枝分かれした角に引っ掛かって抜けない。
明確な隙を作ってしまった青年の顔に焦りが浮かび、同時にもう一頭のボーンディアもその隙を見逃すまいと鳴き声を上げる。
「ま、まずっ!」
魔獣を二頭同時に相手するのは無茶すぎたか。
このままイケメン青年は魔獣に突き殺されてしまう、そう思いきや――
「ファイアーボール!」
後方から老人の声が聞こえると、一拍遅れて飛来した火の玉が青年を狙っていたボーンディアの体に直撃。
直撃を受けたボーンディアは体に焦げ跡を残して吹き飛ぶ。
「いつも無駄に突っ込みすぎなのよ!」
続けて女性の声が聞こえてくると、こちらも一拍遅れて矢が飛んで来た。
連続して飛んで来た三本の矢は全てボーンディアの体に命中。
直撃して体をよじった瞬間、角から剣が抜けた。
「はぁッ!!」
剣を引き抜いた青年は下からすくい上げるように剣を振るい、ボーンディアの頭部を斬り飛ばす。
頭部が宙を舞っている間、吹き飛んだ最後の一頭にトドメを刺した。
「ふぅぅ……」
魔獣を全て殲滅した青年は大きく息を吐く。
剣に付着した血を払うと、彼を見つめていたリリベルに顔を向けた。
「大丈夫? お嬢ちゃん」
何とも爽やかなイケメンスマイル。
しかも、その笑顔はキザったらしいものじゃなく優しさに満ち溢れていた。
「キュンかも」
顔はイケメン。人類の敵である魔獣をも駆逐できて、性格は優しそう。
恋愛小説の中で描かれる恋愛模様しか知らず、またそれに憧れているリリベルがキュンとしてしまうのも無理はない。
「僕の方がイケメンだし」
賢くてイケメン犬なテオがムスッとするのも同じく無理もないのである。
「怪我はないかい?」
「は、はい」
青年の問いにリリベルが頬を赤らめていると、後方よりやって来た彼の仲間らしき二人が合流する。
「ちょっと、アレス! いつもいつも先行しないでって言っているじゃない!」
「ご、ごめんよ。レダ」
青年のことをアレスと呼んだ弓使いの女性はレダという名のようだ。
薄緑色の長い髪を後ろで束ねた彼女の特徴は耳にある。
彼女はエルフらしく、露出する耳がツンと尖っているのだ。
エルフという種は視力が特別良く、また空間把握能力に長けた人物が多いことから弓を扱う者が多い。
彼女もまたそういった能力を有したエルフなのだろう。
「まぁ、よいではないか」
ガミガミと怒るレダをなだめるのは灰色のとんがり帽子を被り、灰色のローブを身に着けた老人。
彼は長く伸びた白い髭を手で撫でながら苦笑いを浮かべた。
「カミ爺はいつも甘すぎ!」
レダからカミ爺と呼ばれた彼は魔法使いらしい。
リリベルの杖とは違って彼の杖に宝石は埋め込まれていないが、それでもくねくねとした木の杖には歴史と威厳を感じる。
もちろん、人物そのものにも。
「で、でも仕方ないじゃないか。小さな子が魔獣に襲われていたんだよ? いち早く助けない方がおかしいよ」
そう言ったアレスは背後にいたリリベルに再び振り返る。
「まぁ、そりゃ分かるけどさ」
小さい子を助けるという部分には同意したレダ、彼女の視線も魔法使いであるカミ爺の視線もリリベルへと向けられた。
「おや、君は……。魔法使い?」
真っ先に反応したのはカミ爺である。
彼の視線はリリベルの握る杖へ向けられたが、その視線がトップにはまる宝石へ流れると眉間に皺が寄った。
「その杖は? 君のかね?」
「そうよ。師匠から貰ったの」
ほう、と頷くカミ爺。
アレスとレダは首を傾げており、カミ爺へ「説明してくれよ」と言わんばかりの視線を送るが。
「君、ただの魔法使いではないね?」
「私は魔法使いじゃないわ。見習い魔女よ」
「魔女――」
「見習い魔女? 魔女って、あの魔女?」
カミ爺の言葉を遮ったのはレダの声だった。
レダはリリベルのつま先から頭のてっぺんまで視線を巡らせていくが、最後はアレスと顔を合わせると再び首を傾げてしまう。
「随分と可愛い魔女もいたものね? オリオン王国の魔女はもっとこう……。恐ろしかったじゃない?」
「まぁ、確かに凄みのあるお婆さんだったね」
彼らもリリベルの明かした素性には懐疑的な様子。
これまでリリベルが出会ってきた一般人も含め、それだけ『魔女』という存在は年老いたイメージが強烈なのだろう。
「いや、なるほど。見習い魔女か。ある意味、納得できる」
しかし、ベテラン中のベテラン。長年、魔法と接してきたカミ爺だけは違う反応を見せる。
特にその反応の理由となったのは、彼が視線を向けた『テオ』にあるようだ。
「精霊石のはまった杖、それに犬精霊まで。ここまで揃うと魔女以外には当てはまらんだろうね」
「精霊石に精霊!?」
「このワンちゃん、精霊なの!?」
カミ爺の言葉を聞いて驚くアレスとレダ。
「そうよ。この子は私の家族なの。テオっていう名前なのよ?」
「よろしく」
「わ、わぁ~!」
リリベルの紹介に続いてテオが声を発すると、それを見たレダは目を輝かせはじめた。
「な、撫でてもいい?」
レダはテオの前にしゃがみ込むとリリベルに問う。
「いいよ」
リリベルではなく、テオが自ら許可を出した。
「わぁ~! もふもふ!」
レダは犬が好きなのか、テオをわしゃわしゃと撫で続ける。
「お嬢ちゃん、第二街へ向かっているのかい?」
「ええ、そうよ」
カミ爺の質問にリリベルが頷くと、彼は「それは良かった」と頷く。
「ワシらも行き先は同じなんだ。良かったら一緒に行かないか? 道中、少し話をさせてくれんかね?」
カミ爺は「馬に乗せてあげる」と提案しつつ、共に行かないかと彼女を誘った。
リリベルは一瞬だけ迷う仕草を見せ、その視線はテオに向けられる。
しかし、テオはレダにわしゃわしゃと撫でられている最中だ。
続けて顔をムニムニィ~! と揉まれても、気持ちよさそうな顔を晒してしまっているのである!
「いいわ。一緒に行く」
リリベルはカミ爺の提案に頷いた。




