第一話 全世界征服戦争開戦
「我々リアン帝国はただいまより独立を宣言し、全世界に宣戦布告をする」
魔法陣に向かい話しかけるメイド服の少女の名前はへカティア・ヘーラル、そう私です。そして横の玉座に座って微笑んでいらっしゃる見た目が少女の女性の名前はリアン・メモワール様。たった今独立を宣言したリアン帝国の最高指導者であられるお方です。私たちが何をしているのかというと、魔法を通して全世界へ映像と音声を顕現させて我が国の意思を示しているのです。何故私たちがこの行動を起こしたのかというと...
「我が国の目的はたったの一つ!全世界の恒久的平和の実現である。二年前イル・ヘーラルがレイデ帝国の陰謀により暗殺され、イル条約によって世界の軍事力の均衡を保てなくなった。その結果レイデ帝国の凶行を許し、再び全世界が戦争に蝕まれてしまった」
因みにここで出てきたイル条約というのは、かつて私の母であるイルが第一次世界大戦を終結させたときに結んだ条約です。軍事力の比率についてやブロック経済について、獲得した領地の返還などが定められています。私の母は当時圧倒的な最強だったので、武力に物を言わせ他国と交渉し締結、そのあと自国の皇帝を説得(物理)して正式に認めさせた条約です。この条約は絶対的な力を持つ母がすべての国に中立の立場をとるという前提があったからこそ成り立っており、イルの没後は別の人物か世界連盟を創立し引き継ぐ予定でした。しかしレイデ帝国の帝国軍がほぼ全ての戦力を以て深夜に奇襲、私を守りながら戦った母は善戦するもなんやかんやあり敗北。その時が私がリアン様にお仕えするきっかけだったのです。
「リアン様は今のままでは世界平和の実現はありえないとお考えである。だからこそ我々が世界全ての国を統合し、一つの国家にする。そして差別貧困飢餓などが一切生まれぬ世界を創り上げる。それこそが最終的な目的である。リアン様の革命方針は攻撃である。我々のもとに下らぬ国は全て武力を用いて支配しよう、我々にはそれを成し遂げる力がある。これは必要な戦争であり避けられぬ悲劇でもある。そこで我々はすべての国家に降伏を勧告する。また同志諸君を歓迎しよう。決して悪い待遇ではないと保証しよう」
私がそこまで言い終えた時、隣のリアン様が立ち上がった。
「百聞は一見に如かず。あたくし達の意思をお見せしましょう」
その時私達の上空から炎を纏った槍が飛来したが、それをリアン様が軽く避けながらキャッチした。
「ヘカ、しっかり撮っておきなさい」
「はい!」
そうしてリアン様の蹂躙が始まった。攻撃を避けて即反撃、多対一であるのにもかかわらずリアン様一人の相手が精いっぱいらしくこちらにレイデの兵士は一人も来なかった。
「それにしてもなぜこんなにも早く襲撃ができたのかな?さすがに早すぎる」
「あぁ、それはあの映像転写魔法を逆探知されていたのと私たちが準備しているのを見られていたからね」
私の脳内で直接返事があった。声の主はもう一人の私であり、5歳くらいの時急に私の中に現れたちょっと不思議な人。
「気づいてたなら教えてくれてもいいじゃん!」
「いやぁ、リアン様が気付いてて何も言わなかったから別にいいかなって。あ!終わったみたいだよ。さっ、この話は終わりね!」
少し納得がいかないけれど今は置いておく。
「見ててくれたかしら?世界の皆様。今は小さい子も見ているから殺してないけど戦争の時は...ね?それでは皆様御機嫌よう」
リアン様が恭しくお辞儀をしたため、そこで映像転写魔法を終了した。
「こいつらどうしますか?」
「私がとどめを刺しておくわ。貴方はもう一人の貴方にみんなと合流するための飛行機を作らせておいて」
そう言って嬉々として離れていかれた。
「それじゃあもう一人の私、頼んだよ」
「りょ~」
そうして体の主導権を持ったもう一人の私は能力で飛行機を作り始めた。
この世界には二つの力がある。一つがさっきまで私の使っていた映像転写魔法のような「魔法」で、炎を作り出したり身体強化など使い手次第であるけれどかなり自由なことができる。もう一つが「能力」と言われているもので、何かに特化した力である。さっき例に出した炎だと、魔法より温度が高かったり炎自体になることもあるらしい。正確には知らないがもう一人の私の能力は創造するとかその辺じゃないかなと私は思っている。
「そういえばもう一人の私はどうして飛行機なんてオーバーテクノロジーなもの作れる訳?」
「何度も言ってるじゃない。私が天才だからだよ!」
「...」
「なによ!少しくらい自分の力を信じてもいいじゃない」
「普段は私のことをもう一人の私!とか言わないくせにこんな時だけ。都合のいい女」
「馬車を見て自動車を思いついたとか、鳥を見て飛行機を思いついたとか...」
「逆に無から思いつけるの?」
「......私ってもしかして天才なのでは!」
「だからそう言ってるじゃん」
そう言って二人で笑い合った。
「で、天才のへカティアさん、そろそろ出発できそう?」
!?!?
急に背後に現れたリアン様が現れ驚いてしまった。
リアン様はいろいろな技術を身に着けており、気配を消すこともお手の物らしい。
「準備できてますよ、後方の座席に乗ってください」
そうして乗り込んだ後、聞いてもあまり理論の分からなかったカタパルト?とか言うのを用いて空へと旅立った。この飛行機とカタパルトは理想の動力となるものが得られないらしく、魔力を代替として動いているらしい。実際の構想より操作方法とかもかなり簡単にしてあるらしい。その分魔力の消耗が多くなっているが...
そうして飛ぶこと30分くらいだろうか。
広大な海の真ん中で私たちはその船と合流した。空母ではないため二人は飛行機から飛び降りお別れした。能力の効果が切れた飛行機はさらさら消えてしまったが、証拠を残さないため好都合である。
それはともかく、私たちは船で待っていた五人の精鋭と合流を果たした。
「お待ちしておりましたリアン様」
一番最初に挨拶をしたいかにも紳士です!というような雰囲気を纏うこのスーツ男が私たちの軍最強(リアン様除く)の戦士、一番隊隊長ジョン・L・リスターである。なお今は隊長以外居ない模様。
その横で敬礼している男が二番隊隊長ヘンリー・L・ホープ。なお今は隊長以外。
そしてリアン様をみつめて恍惚とした表情の女の人がシャーロット・フランシス。自称シャーロット・メモワールであるがリアン・メモワール様が公式に否定している。そして三番隊隊長である。なお今は...
そして残りの二人は兄妹であり、
ローレンス・ヘロンとエレノア・ヘロンで兄妹で4、5番隊隊長をそれぞれ務めている。
ここまでで全員隊員がいなかった理由は、メモワール軍がすでに解体されておりリアン様が隊長以下は全員国に残るよう決定されたからだ。そもそも旧リアン領はレイデ帝国内にあり、現状最も強力な軍隊であると推測できる国の中で独立後領地を守り切ることは不可能という結論に至られた。そこで家族のいる者や私たちに賛同しない者を全員解雇し情報統制も施した。その結果が隊長と私達だけが残ることになった。因みにリアン様が0番隊ということになっており、私達は0番隊隊員である。
「待たせたわね貴方達。航路は順調?」
「えぇ、計画通り西に進んでおります。日没までにはかの国の国境を越えられるでしょう」
「その調子で頼むわ、ジョン」
シャーロットの視線をいなしながらジョンは軽く会釈をした。
「そんなことよりリアン様、早く船内に行きましょう!私紅茶入れる用意してありますわ!!!むさくるしい奴はほおっておいてお菓子でも食べながら作戦会議しましょう。ささっ」
「そうね。みんなで会議しましょう、準備を頼むわねシャーロット」
はいっ!と言い返事をしてシャーロットは一瞬にして準備をしに船内に消えた。私は彼女が「みんなで」という言葉に不満を示したいものの頼られてまんざらでもない複雑な表情をしていたことを見逃さなかった。
翌日の朝六時。
私たちは初陣に勝利すべく作戦を開始した。
目標はソレイニア共和国という数十年前に独立した国であり、私たちのいたレイデ帝国の東側に大きな海をまたいだ場所に位置している。ソレイニア共和国は東西を広大な海に挟まれた海洋国家であり、近くに列強として数えられる国がない。つまり造船技術がまだもう一人の私ほど進んでいないこの時代では私たちにとって都合のいい国なのだ。守りやすく打ち取れる強国、とっても魅力的ってことだね。
「あなた作戦はしっかり覚えてるでしょうね?」
もう一人の私が視界の中に脳内で話しかけてきた。表に出ていない方の人格は互いの視界に現れることができるのだ。理屈はよくわからないし説明できないけど、手を動かしたりするのと同じ感じにできる。
「もちろん!覚えてるよ。私とリアン様が突撃して王を討ち取る。他五人が見張りと侵入者の排除、だよね?」
「補足すると首相の居場所は分かっているから、そこに空から飛び降りて突撃制圧!その後は国軍省の動き次第だね。歯向かってきたやつらを倒して寝返るものは受け入れる」
「ほんとに始まるんだね」
「なに、びびってるの?」
「わるい?」
「いや、そもそも戦争なんてすべきじゃないから悪くはないよ。いつもの生活を送ってたら急に空から爆弾を落とされるような悲劇もあるかもしれないから。けど私は殺されるなら殺すし、もう一人の私を守るためにも戦うよ」
「急に恥ずかしいこと言うね」
「「......」」
彼女は視界からそっと消えた。
現在時刻は六時十分、そろそろ目標の場所につくため他の全員に合図する。
慣性の法則も考えた距離でもう一人の私の作った飛行機から全員で一斉に飛び降りた。約一万メートルからのスカイダイビングである。感想はもう二度とやりたくないとだけ。
約170KM の速さでグングンと地上が近づいてくる。残り200メートルくらいの場所でシャーロットが風の魔法で全員の着地をサポートした。おかげでかなり楽に着地し、それぞれ持ち場に就いた。
別れる前視線で送られてきたリアン様をしっかりサポートしなさい!何かあったら許さねえぞお前というシャーロットの想いにも応えるため全力で行こう。
「いくわよ、ヘカ」
「えぇ全力で...」
そうして私たちは行動を開始した。
私はシャーロット・メモワール。事実かは置いておき、名乗るだけならただなの。私たちは今ソレイニア共和国侵略戦争を始めた。理由は世界恒久平和のためみたいな崇高な目標を掲げているけれど、私からしたらリアン様がそれを望んだ。それだけで十分。だからこの作戦も全身全霊で挑むの。早速見回りの兵士を発見したから言われた通りの行動をする。
「答えて、貴方はリアン・メモワール様に忠誠を誓う?」
「は?だれだおま...」
ボト、ドサッ。
それでいい、ぱっと考えて答えれない奴なんて忠誠を誓ったとしても邪魔になるだけでしょ。さて、他の兵士を探すとしましょう。そうして私は探索を始めた。
歩き始めて数分経った頃ジョン隊長が下りた方の方角から轟音が響いた。
私はリアン様と官邸内を疾走していた。数人と出会ったが、誰も忠誠を誓わなかったためリアン様が声をあげられる前に処した。そんなこんなで前進をしていたら少し広い間が見えたと思ったらリアン様に制止をかけられた。
「ヘカ、いるわ。とんでもなくヤバい奴が...警戒なさい」
「了解しました」
そうして二人でゆっくり進み、広間に出た。その瞬間驚異的な速さで細い光線が私とリアン様の間を通り抜けたが一切反応できなかった。
「止まりなさいお嬢さん方。ここから先はこの国軍省元帥エイブラハム・リンカーンが通ることを許しませんよ」
何もなかった空間から一人のマントを着た老人が現れた。
「一応聞いておくわ。貴方は私の配下になってくれる?」
「無論、なりません」
返事とともに先ほどの光線を再び放った。しかしこんどはリアン様もそれに反応しまったく同じ技で相殺した。
「光の魔法の基礎、光球を作り出す魔法の応用を創り出したのね。さすが元帥、相当魔法を突き詰めている」
「はっはっはっ。貴方も私の魔法を初見で見極め模倣して見せた。素晴らしい、噂以上です!」
「ヘカ、私がこいつの相手をするわ。貴方は先に行きなさい」
「させませんよ!」
エイブラハムが私に一瞬にして距離を詰めナイフを刺突する。それを私の前に割り込みリアン様もナイフで受け流す。隙を見て私は走り出し、恐らくこの先にある首相の部屋を目指した。
疾走、疾走、疾走そうして明らかに豪華な部屋の扉を見つけた。
「ちっ...させないと言っているでしょうが」
走り出したヘカに追撃を加えんとその男は先ほど見せた光線を打とうとした。
「貴方の相手はあたくしなのよ?よそ見なんてさせないわ?」
あたくしは自身の能力を展開させ特殊領域にその男を連れこんだ。
この世界の能力はそれぞれの使い込み、技術、性質などにより展開できる者がいる。展開することでその能力の本質を引き出したり、能力の制限などを取っ払うことができる。
あたくしはその両方。
視界が暗転した後、辺りに巨大な本棚が多くある空間にその男と二人きりになっていた。
「まさかこんな早くに切り札を切ってくるとは」
「えぇ、貴方相手に出し惜しみなんてすべきじゃないもの...」
「光栄ですね。では全力を出したあなたを殺して差し上げましょう。貴方の掲げる正義は正義ではない。正義は私達で十分なんですよ」
「そうね、あたくしもあなたたちはいらないわ」
そうして適当な本を取り出し開いた。
瞬間私の背後に数多くの銃火器が現れた。AK47をはじめマスケット銃、シャープス銃等々その種類は多岐にわたる。
あたくしは手を前に突き出しそれらの銃に魔力を込める。
「ふぁいやー」
もう一人のヘカの言っていた文言を真似てその銃弾を発射した。その弾幕は相手の逃げ場を確実に減らして一発一発が私の魔力によって生成されているため、威力もすさまじいものになっている。
けれどさすが元帥と言ったところだろうか、体を銃と平行になるようにして被弾範囲を減らし最小の動きで避けながらナイフで銃弾をそらす、逆の手で魔法の操作をし致命傷を避けつつ確実に銃を減らした。そして数十秒後銃弾をすべて撃ち尽くし射撃音が鳴り終わった。
「やるじゃない、もう少しは削れると思ったんだけれど...貴方やっぱりあたくしの配下にならない?」
「何度聞かれても変わりません、お断りです!そして今度はこちらの番ですよ」
空中に無数の魔法陣が現れ、岩氷炎雷風等々様々なものが飛び出した。
対するあたくしは先ほどの本をしまい本棚から別の一冊本を取り出した。瞬間世界全ての動きが稲妻を歩いて避けられるくらい極端に遅くなった。この能力は領域内のエネルギーを調整するものである。初期、初期位置エネルギーは相手次第なので変わらないが、その過程に変化を与えるため最終的な位置エネルギーなどが変わり保存則に従う能力だ。つまりゆっくり動く稲妻もうかつに触れれば文字通り痛い目に合う。ただの稲妻なら触ってもどうにでもなるがあの熟練老魔法使いの稲妻である。他の物体もおなじだ。しっかり避けエイブラハムの前に辿り着いた。そして持っていた拳銃を腹に突きつけ放った。
しかしその弾丸は当たることなく、エイブラハムはゆらゆらと揺れ消えてしまった。
「エル(光)私の開発した魔法です。貴方はもう私をとらえることは不可能です」
「幻影かしら?少し違う気がするけれどその程度あたくしが破れないと?笑えない冗談だわ」
次の瞬間30は超える数のエイブラハムが現れた。即すべてに向けて銃弾を発射けれどすべて当たることなく通り抜けた。
「無駄です。貴方は私を認識できず死ぬのみです。そろそろ終わらせましょう」
「だから笑えない冗談はやめてくれないかしら。いいわ、あなたに教えたげる。その体に刻みなさい、圧倒的な力を」
また幻影が現れる。今度は30どころじゃない三桁は超えているだろうか?けれどそんなもの圧倒的な力の前には関係ない。一度大きく息を吸い集中して能力を体になじませ、刻み込み、力を制御し発動させる。
「エルピス(希望)」
あたくしは赤いオーラを纏う。赤である理由はこの能力を持っていた彼女曰く、「希望の象徴と言えば太陽でしょ?だから赤くメラメラ燃える色の赤なのよ」とのことだった。
「分身の用意はそれだけでいいかしら?ここからはあたくしの番よ」
「お前...間違うはずがない。それは、それはイル・ヘーラルの能力じゃないか!!!」
「今更気づいたの?わたくしが系統の違う能力を使ったのだからこの程度想定しておきなさいよ」
「いいでしょう...いいでしょういいでしょう。最強でも結構!私の全てをぶつけるのみです」
0,05秒後すべての分身から光線の魔法が放たれ、その0,01秒後にそれは搔き消されるのだった。
0,002秒後先ほどの三倍の量の幻影が現れる、須臾の間に様々な魔法が放たれる。あたくしは手を軽く上げ、裏拳を空に放つ。領域全体にヒビが入りとんでもない衝撃波が360度全てを破壊する。本体が見えないけれども本体がいないわけではない。全方位攻撃であれば必ず防御か被弾をする。エイブラハムは私の後方にいたようだった。
「そろそろ終わらせましょう。宣言して終わったのはあなたの方だったわね」
「化け物め。お前をトラムプの下に行かせるわけにはいかん。まだまだ死ぬまで終わらんさ」
「その心意気はいいわ。けどもう何もできないじゃない。そんなにボロボロで」
「諦めは悪いんですよ、私は昔から!」
先ほどの一撃でボロボロになったそのご老体は最後の力を振り絞りその一撃を放った。
「エル」
その魔法は光そのものであり、当然速さは光と同じである。最強のエルピスとはいえ光を避けることは不可能。そう、エルピスだけなら。
私たち(体は一つだけど)は屋敷内を走り回って見つけた、他の部屋と明らかに違う少し豪華な扉を蹴飛ばし銃を構えながら突入した。
入るといかにも来るのが分かっていたと言わんばかりに、腕を組んで待ち構えているそれなりの歳の男がいた。
「我が名はドン・ジョニー・トラムプまずは小娘、よくぞここまでたどり着いた!!!」
「うるさいね」
『えぇ、うるさいわ』
「貴様も名乗るがよい、小娘ぇ!」
「もう少し静かに話せないの?貴方。名前はへカティア、貴方はリアン様に降伏する?」
「無論、しない!我々に必要なものはただ一つ。世界を守る圧倒的なパワー!パワーこそが正義であるのだ」
瞬間彼は腕を横に薙ぎ払ったと同時にとんでもない風圧が私を襲った。
「絶対的な力の抑止力によって平和は実現するのだ!事実、イル様がそれを象徴していた。私が抑止力になる、そのために貴様らを打ち破り第二のイル様となるのだ!!!」
その男が地を蹴る、気づけば後ろに回り込まれていた。魔力を集中させ背中の守りを固め、防御の体制をとる。がそれを気にせずとんでもなく重い一撃がはなたれ吹き飛ばされた。
バリン!と音を立て窓から外に高速で飛び出た。もう一人の私に人格を入れ替えられ、クッションを落下地点に生成し、衝撃を緩和したのちにまた人格を入れ替えた。
私たちは表に人格を出さないと能力を使えないかなりめんどくさい体質なのである。
「ありがとう助かった」
「どういたしまして、今度は油断しないことね」
「もちろん」
ハッハッハッ!と大きな声で笑いながら近寄ってくる。
「君は我の想像以上にぴんぴんしている。素晴らしい」
「あのさぁ、抑止力は使ったら意味ないでしょ...」
「いいや、我は悪を滅するためなら悪魔にもなる覚悟があるのだ!」
「そもそも人殺しをしようとする時点で貴方も悪でしょ、悪魔を構成する文字わかる?貴方は自分を滅ぼすの?」
「悪と議論するつもりは我にはない。悪に正義は理解できぬものなのだ」
「頭固いね、歳かな?確か50超えてるもんね」
話し合いは不可能、そう判断した私はこちらから攻撃を仕掛けた。スピードと力がとんでもないことはさっきの一撃で理解した。であるならば私は搦め手で行くしかないと考え行動。
手招きし挑発をする。自信家で力を信頼している彼なら必ず乗るだろうと確信、実際に彼は挑発に乗ってこちらにとびかかってきた。走るとき必ず両足が地面につかない瞬間がある。その刹那に合わせて私の能力で地面に生えていた雑草を急成長させる、同時に魔法で操作し植物をトラムプの足に巻き付け引っ張る。空中では踏ん張りも利かないためぶっ倒れるしかなく彼は重力に従い盛大に転んだ。
即間合いを詰めうなじに踵落とし、グェっと短い声が聞こえた。追撃に植物をさっきと同じ方法で首に巻き付け締め付ける。当然手足も拘束した。
でもどうしてだろう、ここまでしてもまだ勝てる気がしない。
「ねぇ、なんだか嫌な予感がするのだけど」
『奇遇ね、私もだわ。気を引き締めなさい...』
私たちはこれで死んでくれと思いながらも追撃の準備を始めた。
この後私たちはソレイニア共和国と大統領の底力を知るのだった。
一話一キャラ解説 第一話
リアン・メモワール
キャラ背景
今作の主人公へカティアの主人であり命の恩人でもある。またイル・ヘーラルともとっても親しい関係であり、特別な感情も持っていた。
レイデ帝国の元公爵であり、独立後はもともと所持していた領地を放棄している。作中時間軸では唯一の領地を持たない国の女王である。
かなりS気があるようで、人の上優位に立つことが好き。
であるから王は彼女にとって魅力的であり彼女は王とって適した人材である。
外見
白くきれいな肌にとても似合う白髪の女性である。見た目は14々リアン帝国はただいまより独立を宣言し、全世界に宣戦布告をする」
魔法陣に向かい話しかけるメイド服の少女の名前はへカティア・ヘーラル、そう私です。そして横の玉座に座って微笑んでいらっしゃる見た目が少女の女性の名前はリアン・メモワール様。たった今独立を宣言したリアン帝国の最高指導者であられるお方です。私たちが何をしているのかというと、魔法を通して全世界へ映像と音声を顕現させて我が国の意思を示しているのです。何故私たちがこの行動を起こしたのかというと...
「我が国の目的はたったの一つ!全世界の恒久的平和の実現である。二年前イル・ヘーラルがレイデ帝国の陰謀により暗殺され、イル条約によって世界の軍事力の均衡を保てなくなった。その結果レイデ帝国の凶行を許し、再び全世界が戦争に蝕まれてしまった」
因みにここで出てきたイル条約というのは、かつて私の母であるイルが第一次世界大戦を終結させたときに結んだ条約です。軍事力の比率についてやブロック経済について、獲得した領地の返還などが定められています。私の母は当時圧倒的な最強だったので、武力に物を言わせ他国と交渉し締結、そのあと自国の皇帝を説得(物理)して正式に認めさせた条約です。この条約は絶対的な力を持つ母がすべての国に中立の立場をとるという前提があったからこそ成り立っており、イルの没後は別の人物か世界連盟を創立し引き継ぐ予定でした。しかしレイデ帝国の帝国軍がほぼ全ての戦力を以て深夜に奇襲、私を守りながら戦った母は善戦するもなんやかんやあり敗北。その時が私がリアン様にお仕えするきっかけだったのです。
「リアン様は今のままでは世界平和の実現はありえないとお考えである。だからこそ我々が世界全ての国を統合し、一つの国家にする。そして差別貧困飢餓などが一切生まれぬ世界を創り上げる。それこそが最終的な目的である。リアン様の革命方針は攻撃である。我々のもとに下らぬ国は全て武力を用いて支配しよう、我々にはそれを成し遂げる力がある。これは必要な戦争であり避けられぬ悲劇でもある。そこで我々はすべての国家に降伏を勧告する。また同志諸君を歓迎しよう。決して悪い待遇ではないと保証しよう」
私がそこまで言い終えた時、隣のリアン様が立ち上がった。
「百聞は一見に如かず。あたくし達の意思をお見せしましょう」
その時私達の上空から炎を纏った槍が飛来したが、それをリアン様が軽く避けながらキャッチした。
「ヘカ、しっかり撮っておきなさい」
「はい!」
そうしてリアン様の蹂躙が始まった。攻撃を避けて即反撃、多対一であるのにもかかわらずリアン様一人の相手が精いっぱいらしくこちらにレイデの兵士は一人も来なかった。
「それにしてもなぜこんなにも早く襲撃ができたのかな?さすがに早すぎる」
「あぁ、それはあの映像転写魔法を逆探知されていたのと私たちが準備しているのを見られていたからね」
私の脳内で直接返事があった。声の主はもう一人の私であり、5歳くらいの時急に私の中に現れたちょっと不思議な人。
「気づいてたなら教えてくれてもいいじゃん!」
「いやぁ、リアン様が気付いてて何も言わなかったから別にいいかなって。あ!終わったみたいだよ。さっ、この話は終わりね!」
少し納得がいかないけれど今は置いておく。
「見ててくれたかしら?世界の皆様。今は小さい子も見ているから殺してないけど戦争の時は...ね?それでは皆様御機嫌よう」
リアン様が恭しくお辞儀をしたため、そこで映像転写魔法を終了した。
「こいつらどうしますか?」
「私がとどめを刺しておくわ。貴方はもう一人の貴方にみんなと合流するための飛行機を作らせておいて」
そう言って嬉々として離れていかれた。
「それじゃあもう一人の私、頼んだよ」
「りょ~」
そうして体の主導権を持ったもう一人の私は能力で飛行機を作り始めた。
この世界には二つの力がある。一つがさっきまで私の使っていた映像転写魔法のような「魔法」で、炎を作り出したり身体強化など使い手次第であるけれどかなり自由なことができる。もう一つが「能力」と言われているもので、何かに特化した力である。さっき例に出した炎だと、魔法より温度が高かったり炎自体になることもあるらしい。正確には知らないがもう一人の私の能力は創造するとかその辺じゃないかなと私は思っている。
「そういえばもう一人の私はどうして飛行機なんてオーバーテクノロジーなもの作れる訳?」
「何度も言ってるじゃない。私が天才だからだよ!」
「...」
「なによ!少しくらい自分の力を信じてもいいじゃない」
「普段は私のことをもう一人の私!とか言わないくせにこんな時だけ。都合のいい女」
「馬車を見て自動車を思いついたとか、鳥を見て飛行機を思いついたとか...」
「逆に無から思いつけるの?」
「......私ってもしかして天才なのでは!」
「だからそう言ってるじゃん」
そう言って二人で笑い合った。
「で、天才のへカティアさん、そろそろ出発できそう?」
!?!?
急に背後に現れたリアン様が現れ驚いてしまった。
リアン様はいろいろな技術を身に着けており、気配を消すこともお手の物らしい。
「準備できてますよ、後方の座席に乗ってください」
そうして乗り込んだ後、聞いてもあまり理論の分からなかったカタパルト?とか言うのを用いて空へと旅立った。この飛行機とカタパルトは理想の動力となるものが得られないらしく、魔力を代替として動いているらしい。実際の構想より操作方法とかもかなり簡単にしてあるらしい。その分魔力の消耗が多くなっているが...
そうして飛ぶこと30分くらいだろうか。
広大な海の真ん中で私たちはその船と合流した。空母ではないため二人は飛行機から飛び降りお別れした。能力の効果が切れた飛行機はさらさら消えてしまったが、証拠を残さないため好都合である。
それはともかく、私たちは船で待っていた五人の精鋭と合流を果たした。
「お待ちしておりましたリアン様」
一番最初に挨拶をしたいかにも紳士です!というような雰囲気を纏うこのスーツ男が私たちの軍最強(リアン様除く)の戦士、一番隊隊長ジョン・L・リスターである。なお今は隊長以外居ない模様。
その横で敬礼している男が二番隊隊長ヘンリー・L・ホープ。なお今は隊長以外。
そしてリアン様をみつめて恍惚とした表情の女の人がシャーロット・フランシス。自称シャーロット・メモワールであるがリアン・メモワール様が公式に否定している。そして三番隊隊長である。なお今は...
そして残りの二人は兄妹であり、
ローレンス・ヘロンとエレノア・ヘロンで兄妹で4、5番隊隊長をそれぞれ務めている。
ここまでで全員隊員がいなかった理由は、メモワール軍がすでに解体されておりリアン様が隊長以下は全員国に残るよう決定されたからだ。そもそも旧リアン領はレイデ帝国内にあり、現状最も強力な軍隊であると推測できる国の中で独立後領地を守り切ることは不可能という結論に至られた。そこで家族のいる者や私たちに賛同しない者を全員解雇し情報統制も施した。その結果が隊長と私達だけが残ることになった。因みにリアン様が0番隊ということになっており、私達は0番隊隊員である。
「待たせたわね貴方達。航路は順調?」
「えぇ、計画通り西に進んでおります。日没までにはかの国の国境を越えられるでしょう」
「その調子で頼むわ、ジョン」
シャーロットの視線をいなしながらジョンは軽く会釈をした。
「そんなことよりリアン様、早く船内に行きましょう!私紅茶入れる用意してありますわ!!!むさくるしい奴はほおっておいてお菓子でも食べながら作戦会議しましょう。ささっ」
「そうね。みんなで会議しましょう、準備を頼むわねシャーロット」
はいっ!と言い返事をしてシャーロットは一瞬にして準備をしに船内に消えた。私は彼女が「みんなで」という言葉に不満を示したいものの頼られてまんざらでもない複雑な表情をしていたことを見逃さなかった。
翌日の朝六時。
私たちは初陣に勝利すべく作戦を開始した。
目標はソレイニア共和国という数十年前に独立した国であり、私たちのいたレイデ帝国の東側に大きな海をまたいだ場所に位置している。ソレイニア共和国は東西を広大な海に挟まれた海洋国家であり、近くに列強として数えられる国がない。つまり造船技術がまだもう一人の私ほど進んでいないこの時代では私たちにとって都合のいい国なのだ。守りやすく打ち取れる強国、とっても魅力的ってことだね。
「あなた作戦はしっかり覚えてるでしょうね?」
もう一人の私が視界の中に脳内で話しかけてきた。表に出ていない方の人格は互いの視界に現れることができるのだ。理屈はよくわからないし説明できないけど、手を動かしたりするのと同じ感じにできる。
「もちろん!覚えてるよ。私とリアン様が突撃して王を討ち取る。他五人が見張りと侵入者の排除、だよね?」
「補足すると首相の居場所は分かっているから、そこに空から飛び降りて突撃制圧!その後は国軍省の動き次第だね。歯向かってきたやつらを倒して寝返るものは受け入れる」
「ほんとに始まるんだね」
「なに、びびってるの?」
「わるい?」
「いや、そもそも戦争なんてすべきじゃないから悪くはないよ。いつもの生活を送ってたら急に空から爆弾を落とされるような悲劇もあるかもしれないから。けど私は殺されるなら殺すし、もう一人の私を守るためにも戦うよ」
「急に恥ずかしいこと言うね」
「「......」」
彼女は視界からそっと消えた。
現在時刻は六時十分、そろそろ目標の場所につくため他の全員に合図する。
慣性の法則も考えた距離でもう一人の私の作った飛行機から全員で一斉に飛び降りた。約一万メートルからのスカイダイビングである。感想はもう二度とやりたくないとだけ。
約170KM の速さでグングンと地上が近づいてくる。残り200メートルくらいの場所でシャーロットが風の魔法で全員の着地をサポートした。おかげでかなり楽に着地し、それぞれ持ち場に就いた。
別れる前視線で送られてきたリアン様をしっかりサポートしなさい!何かあったら許さねえぞお前というシャーロットの想いにも応えるため全力で行こう。
「いくわよ、ヘカ」
「えぇ全力で...」
そうして私たちは行動を開始した。
私はシャーロット・メモワール。事実かは置いておき、名乗るだけならただなの。私たちは今ソレイニア共和国侵略戦争を始めた。理由は世界恒久平和のためみたいな崇高な目標を掲げているけれど、私からしたらリアン様がそれを望んだ。それだけで十分。だからこの作戦も全身全霊で挑むの。早速見回りの兵士を発見したから言われた通りの行動をする。
「答えて、貴方はリアン・メモワール様に忠誠を誓う?」
「は?だれだおま...」
ボト、ドサッ。
それでいい、ぱっと考えて答えれない奴なんて忠誠を誓ったとしても邪魔になるだけでしょ。さて、他の兵士を探すとしましょう。そうして私は探索を始めた。
歩き始めて数分経った頃ジョン隊長が下りた方の方角から轟音が響いた。
私はリアン様と官邸内を疾走していた。数人と出会ったが、誰も忠誠を誓わなかったためリアン様が声をあげられる前に処した。そんなこんなで前進をしていたら少し広い間が見えたと思ったらリアン様に制止をかけられた。
「ヘカ、いるわ。とんでもなくヤバい奴が...警戒なさい」
「了解しました」
そうして二人でゆっくり進み、広間に出た。その瞬間驚異的な速さで細い光線が私とリアン様の間を通り抜けたが一切反応できなかった。
「止まりなさいお嬢さん方。ここから先はこの国軍省元帥エイブラハム・リンカーンが通ることを許しませんよ」
何もなかった空間から一人のマントを着た老人が現れた。
「一応聞いておくわ。貴方は私の配下になってくれる?」
「無論、なりません」
返事とともに先ほどの光線を再び放った。しかしこんどはリアン様もそれに反応しまったく同じ技で相殺した。
「光の魔法の基礎、光球を作り出す魔法の応用を創り出したのね。さすが元帥、相当魔法を突き詰めている」
「はっはっはっ。貴方も私の魔法を初見で見極め模倣して見せた。素晴らしい、噂以上です!」
「ヘカ、私がこいつの相手をするわ。貴方は先に行きなさい」
「させませんよ!」
エイブラハムが私に一瞬にして距離を詰めナイフを刺突する。それを私の前に割り込みリアン様もナイフで受け流す。隙を見て私は走り出し、恐らくこの先にある首相の部屋を目指した。
疾走、疾走、疾走そうして明らかに豪華な部屋の扉を見つけた。
「ちっ...させないと言っているでしょうが」
走り出したヘカに追撃を加えんとその男は先ほど見せた光線を打とうとした。
「貴方の相手はあたくしなのよ?よそ見なんてさせないわ?」
あたくしは自身の能力を展開させ特殊領域にその男を連れこんだ。
この世界の能力はそれぞれの使い込み、技術、性質などにより展開できる者がいる。展開することでその能力の本質を引き出したり、能力の制限などを取っ払うことができる。
あたくしはその両方。
視界が暗転した後、辺りに巨大な本棚が多くある空間にその男と二人きりになっていた。
「まさかこんな早くに切り札を切ってくるとは」
「えぇ、貴方相手に出し惜しみなんてすべきじゃないもの...」
「光栄ですね。では全力を出したあなたを殺して差し上げましょう。貴方の掲げる正義は正義ではない。正義は私達で十分なんですよ」
「そうね、あたくしもあなたたちはいらないわ」
そうして適当な本を取り出し開いた。
瞬間私の背後に数多くの銃火器が現れた。AK47をはじめマスケット銃、シャープス銃等々その種類は多岐にわたる。
あたくしは手を前に突き出しそれらの銃に魔力を込める。
「ふぁいやー」
もう一人のヘカの言っていた文言を真似てその銃弾を発射した。その弾幕は相手の逃げ場を確実に減らして一発一発が私の魔力によって生成されているため、威力もすさまじいものになっている。
けれどさすが元帥と言ったところだろうか、体を銃と平行になるようにして被弾範囲を減らし最小の動きで避けながらナイフで銃弾をそらす、逆の手で魔法の操作をし致命傷を避けつつ確実に銃を減らした。そして数十秒後銃弾をすべて撃ち尽くし射撃音が鳴り終わった。
「やるじゃない、もう少しは削れると思ったんだけれど...貴方やっぱりあたくしの配下にならない?」
「何度聞かれても変わりません、お断りです!そして今度はこちらの番ですよ」
空中に無数の魔法陣が現れ、岩氷炎雷風等々様々なものが飛び出した。
対するあたくしは先ほどの本をしまい本棚から別の一冊本を取り出した。瞬間世界全ての動きが稲妻を歩いて避けられるくらい極端に遅くなった。この能力は領域内のエネルギーを調整するものである。初期、初期位置エネルギーは相手次第なので変わらないが、その過程に変化を与えるため最終的な位置エネルギーなどが変わり保存則に従う能力だ。つまりゆっくり動く稲妻もうかつに触れれば文字通り痛い目に合う。ただの稲妻なら触ってもどうにでもなるがあの熟練老魔法使いの稲妻である。他の物体もおなじだ。しっかり避けエイブラハムの前に辿り着いた。そして持っていた拳銃を腹に突きつけ放った。
しかしその弾丸は当たることなく、エイブラハムはゆらゆらと揺れ消えてしまった。
「エル(光)私の開発した魔法です。貴方はもう私をとらえることは不可能です」
「幻影かしら?少し違う気がするけれどその程度あたくしが破れないと?笑えない冗談だわ」
次の瞬間30は超える数のエイブラハムが現れた。即すべてに向けて銃弾を発射けれどすべて当たることなく通り抜けた。
「無駄です。貴方は私を認識できず死ぬのみです。そろそろ終わらせましょう」
「だから笑えない冗談はやめてくれないかしら。いいわ、あなたに教えたげる。その体に刻みなさい、圧倒的な力を」
また幻影が現れる。今度は30どころじゃない三桁は超えているだろうか?けれどそんなもの圧倒的な力の前には関係ない。一度大きく息を吸い集中して能力を体になじませ、刻み込み、力を制御し発動させる。
「エルピス(希望)」
あたくしは赤いオーラを纏う。赤である理由はこの能力を持っていた彼女曰く、「希望の象徴と言えば太陽でしょ?だから赤くメラメラ燃える色の赤なのよ」とのことだった。
「分身の用意はそれだけでいいかしら?ここからはあたくしの番よ」
「お前...間違うはずがない。それは、それはイル・ヘーラルの能力じゃないか!!!」
「今更気づいたの?わたくしが系統の違う能力を使ったのだからこの程度想定しておきなさいよ」
「いいでしょう...いいでしょういいでしょう。最強でも結構!私の全てをぶつけるのみです」
0,05秒後すべての分身から光線の魔法が放たれ、その0,01秒後にそれは搔き消されるのだった。
0,002秒後先ほどの三倍の量の幻影が現れる、須臾の間に様々な魔法が放たれる。あたくしは手を軽く上げ、裏拳を空に放つ。領域全体にヒビが入りとんでもない衝撃波が360度全てを破壊する。本体が見えないけれども本体がいないわけではない。全方位攻撃であれば必ず防御か被弾をする。エイブラハムは私の後方にいたようだった。
「そろそろ終わらせましょう。宣言して終わったのはあなたの方だったわね」
「化け物め。お前をトラムプの下に行かせるわけにはいかん。まだまだ死ぬまで終わらんさ」
「その心意気はいいわ。けどもう何もできないじゃない。そんなにボロボロで」
「諦めは悪いんですよ、私は昔から!」
先ほどの一撃でボロボロになったそのご老体は最後の力を振り絞りその一撃を放った。
「エル」
その魔法は光そのものであり、当然速さは光と同じである。最強のエルピスとはいえ光を避けることは不可能。そう、エルピスだけなら。
私たち(体は一つだけど)は屋敷内を走り回って見つけた、他の部屋と明らかに違う少し豪華な扉を蹴飛ばし銃を構えながら突入した。
入るといかにも来るのが分かっていたと言わんばかりに、腕を組んで待ち構えているそれなりの歳の男がいた。
「我が名はドン・ジョニー・トラムプまずは小娘、よくぞここまでたどり着いた!!!」
「うるさいね」
『えぇ、うるさいわ』
「貴様も名乗るがよい、小娘ぇ!」
「もう少し静かに話せないの?貴方。名前はへカティア、貴方はリアン様に降伏する?」
「無論、しない!我々に必要なものはただ一つ。世界を守る圧倒的なパワー!パワーこそが正義であるのだ」
瞬間彼は腕を横に薙ぎ払ったと同時にとんでもない風圧が私を襲った。
「絶対的な力の抑止力によって平和は実現するのだ!事実、イル様がそれを象徴していた。私が抑止力になる、そのために貴様らを打ち破り第二のイル様となるのだ!!!」
その男が地を蹴る、気づけば後ろに回り込まれていた。魔力を集中させ背中の守りを固め、防御の体制をとる。がそれを気にせずとんでもなく重い一撃がはなたれ吹き飛ばされた。
バリン!と音を立て窓から外に高速で飛び出た。もう一人の私に人格を入れ替えられ、クッションを落下地点に生成し、衝撃を緩和したのちにまた人格を入れ替えた。
私たちは表に人格を出さないと能力を使えないかなりめんどくさい体質なのである。
「ありがとう助かった」
「どういたしまして、今度は油断しないことね」
「もちろん」
ハッハッハッ!と大きな声で笑いながら近寄ってくる。
「君は我の想像以上にぴんぴんしている。素晴らしい」
「あのさぁ、抑止力は使ったら意味ないでしょ...」
「いいや、我は悪を滅するためなら悪魔にもなる覚悟があるのだ!」
「そもそも人殺しをしようとする時点で貴方も悪でしょ、悪魔を構成する文字わかる?貴方は自分を滅ぼすの?」
「悪と議論するつもりは我にはない。悪に正義は理解できぬものなのだ」
「頭固いね、歳かな?確か50超えてるもんね」
話し合いは不可能、そう判断した私はこちらから攻撃を仕掛けた。スピードと力がとんでもないことはさっきの一撃で理解した。であるならば私は搦め手で行くしかないと考え行動。
手招きし挑発をする。自信家で力を信頼している彼なら必ず乗るだろうと確信、実際に彼は挑発に乗ってこちらにとびかかってきた。走るとき必ず両足が地面につかない瞬間がある。その刹那に合わせて私の能力で地面に生えていた雑草を急成長させる、同時に魔法で操作し植物をトラムプの足に巻き付け引っ張る。空中では踏ん張りも利かないためぶっ倒れるしかなく彼は重力に従い盛大に転んだ。
即間合いを詰めうなじに踵落とし、グェっと短い声が聞こえた。追撃に植物をさっきと同じ方法で首に巻き付け締め付ける。当然手足も拘束した。
でもどうしてだろう、ここまでしてもまだ勝てる気がしない。
「ねぇ、なんだか嫌な予感がするのだけど」
『奇遇ね、私もだわ。気を引き締めなさい...』
私たちはこれで死んでくれと思いながらも追撃の準備を始めた。
この後私たちはソレイニア共和国と大統領の底力を知るのだった。
一話一キャラ解説 第一話
リアン・メモワール
☆能力
本人は記憶の能力であるとしている。
けれどこの能力は記憶の範疇に収まる程度のものではない作中最強クラスの能力である。
相手の思考(記憶)を読み取る力、記憶の保存と取捨選択、記憶の改変、相手の記憶のコピー、強制的に記憶させる、記憶の再現(領域後)、技のコピー(領域後)などなど今回の話で出てきた中でもこれだけのことをしています。
この世界において、魔法と魔力は異なるものという扱いであるが、根本的な力はおなじである。そのためリアンは相手の記憶から魔力の操作(能力の発動原理)を覚え、自身の能力で再現するに至った。エルピス(元世界最強のイルの持っていた能力)はイルが死ぬ際にリアンに託した彼女の生きた証であり、リアンとイルの最強の切り札なのである。ただしエルピスがなかったとしても素の能力が強いため、あまり困ることはない。まだ登場キャラがすくないため分かりにくくなり申し訳ないが、リアンは間違いなく世界最強レベルの実力者であり、敵対するエイブラハムもまた魔法の天才であり最強核の一人である。
ここまでをまとめより正確に能力を表すならばリアン・メモワールは「識」の能力の使用者と言える。
☆キャラ背景
今作の主人公へカティアの主人であり命の恩人でもある。またイル・ヘーラルともとっても親しい関係であり、特別な感情も持っていた。
レイデ帝国の元公爵であり、独立後はもともと所持していた領地を放棄している。作中時間軸では唯一の領地を持たない国の女王である。
かなりS気があるようで、人の上優位に立つことが好き。
であるから王は彼女にとって魅力的であり彼女は王とって適した人材である。
☆外見
白くきれいな肌にとても似合う白髪の女性である。それなりに筋肉もついているが、ほっぺが柔らかいと従者の女性陣の間では有名だった。金色のとてもきれいな澄んだ目をしており、相手を全て見透かすようである。
普段は白を基調として薄い青の入った服を好んできている。曰く過去にイルが勧めたファッションスタイルらしい。
見た目は14から18歳程度であるが実年齢はかなり上を言っている模様。
☆秘密の話
経験人数は0であるが経験はしてしまっている。つまり他人の記憶での追体験である。
リアンは数えきれない人数の記憶を集めているため、その手の記憶も多く持っている。そのれらの大量の記憶を相手に無理やり押し付け心神耗弱、腹上死テクノブレイクのようなことをさせたことがあるらしい(真相は不明)。本人としてはかなり気に入っているらしいが、絶対にされたくない殺され方だと思っている。
次回 エイブラハム・リンカーン
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