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彼女がずっと欲しかったもの  作者: 黄昏と泡沫
6/25

 翌日の昼休み、結衣はイライラしていた。

 屋上までの階段下で、美沙から一連の出来事を耳にした。相手の生徒を殺してもいい。そして自分にすぐに言わなかった美沙と、一層のこと縁を切ってやろうかと思うほど、自分を頼りにしない美沙に対する憤り。

 貞操を大事にするくせに、脇が甘い親友。階段を登るときに、後ろから男子生徒がスカートの中を覗こうとするのを毎日防いであげ、余計な虫がたからないように常に先に潰してきた。出会った頃から、大人びていて、そのくせ隙があるのが可愛いと思っていたが、隙があまりにも深い。

 「ごめんね、すぐに言えなくて」

 そしてこの困り顔である。結衣は頭を掻きむしり、美沙が食べているメロンパンを奪って、大きな口で一口で食べきった。美沙は「あーぁ」と口にしたが、モグモグと咀嚼する結衣を見てはにかんだ。

 結衣はメロンパンを飲み込んで、先ほどまでのイライラを一緒に胃に流した。

 「てか、大進展じゃん。マヤマヤに車で送ってもらって、そのままラブボにでも行ってたら別の大事件だけど」

 「真山さんはそんなことしないよ! 車の色は変だったけど」

 「赤いのは奥さんの趣味じゃない? ほら、マヤマヤって絶対尻に引かれてるじゃん。車も奥さんが選んだんだよ。間違いない」

 結衣は自分のパンを食べ始めた。美沙が羨ましそうな目をすると、パンを半分に千切って渡した。クリスマスプレゼントをもらった子どものように、美沙は喜んだ。同じパンで2人とも胃を満たす。

 「ごめん、私めっちゃイライラしてた」

 結衣が謝ると美沙は頭を撫でて「私こそ黙っててごめんね」と、謝り返す。そして金曜までにやることが明確に一つあり、二人で案を練る。真山にどうやってお礼をするかだ。美沙は右膝の絆創膏のフチを指でなぞりながら考えるが、何もいい案が出てこない。 

 結衣は考えが早く、パンパンアイデアが出てくる。「美沙の使用済みの下着」は、美沙が真顔で「却下」と即答する。

 「あっ、」っと美沙が閃いた。真山のことは何も知らないが、一つだけ思いつくものがある。 

 「あ? セーター? なにそれ」

 「ヤバ、、、まだ言ってないことがあった」

 家族三人で焼肉を食べに行った日、真山を目撃して走って追いかけた際に、セーターが解れていた話を結衣に伝える。結衣は美沙のほっぺたを両方つねって、他にも隠し事がないかを問い詰める。本当に何も隠していることがなかったが、美沙の両頬は赤く指の跡が残っていた。スッキリした結衣とともに今日の帰りにセーターを探しに行くことになった。

 向かう道中は笑いが絶えず、真山の会社名を聞いて

結衣はダサさに笑い転げる。真山はセンスがある風に見えるが、実際はダメダメなのではと、二人の話は弾む。

 ファストショップの紳士服売り場を二人で回るが、目的の真山に買うセーターから道は逸れて、結局は婦人服コーナーに入り浸っていた。数店舗違うお店を回るが、コレというズバリなセーターには出会わない。

そしてMサイズかLサイズなのかも、ハッキリとはわかっていない。

 そして予算オーバーになること間違いない店に入ると、二人はコレだという商品を見つけた。紫色の薄手のセーター。お値段1万2千円。結衣は値札を見なかったことにした。 

 「予算オーバー」と、結衣は違う服が無いか探し歩く。美沙の財布の中には先ほど銀行ATMから引き下ろした一万円だけ。税込み1万3200円。美沙はもう一度お金を下ろしに行くか、セーターをもう一度手に取り悩んだ。ここまでするべきなのだろうか。しかし、これを着た真山もみてみたい。

 結衣は依然と悩み続ける美沙の背後を右往左往する。そして仕方がないなぁという顔で財布の中を確認して、美沙に五千円を渡す。美沙は驚きつつもしっかりとお金を受け取る。

 「貸すだけだからね。早く買ってきな」

 嬉しそうに頷いてレジに向かう親友を見て、可愛いやつだなと、満更でもない気分を謳歌する。プレゼント包装も無料でしてもらい、美沙は大満足な顔でお釣りを結衣に返した。

 「本当にありがとう。3,200円ラインのキープメモに書いとくね」

 プレゼントを胸に抱き、美沙はルンルン気分だ。

 「早速金曜渡しなよ。そして、愛の告白?」

 「しない! あとその、好きとかじゃないの」

 ルンルンを抑えて、美沙は真面目モードで否定をする。既婚者に告白など、論外であるし、やはり恋愛感情とは思えなかった。真山のことを考える時間は増えた。しかし、真山の邪魔をしたくないという思いがある。そして、変なことをして真山が店に来ないという状況は必ず避けたかった。

 「お礼にセーター買うって、告白みたいなものよ。ま、頑張りな。私も金曜見に行くし、なんならマヤマヤが早く帰れないように妨害してあげるよ」

 「んー、面白がってる」

 二人はカフェでお茶でもして帰りたかったが、お金がないので諦めて解散して帰宅した。美沙が家に帰ると、玄関に母の靴が並んでいた。珍しく早く帰ってきていたのだ。昨日は仕事を途中抜けして、仕事のリズムが変わってしまったのか。美沙の周りに嫌な雰囲気が発生した。美沙はリビングに行く前にプレゼントを部屋の布団の中に素早く隠した。そしていつもの可愛い娘の顔でリビングに入る。

 「おかえり。大丈夫?」

 「うん、大丈夫だよ」

 会話がすぐに止まった。美沙は手を洗い冷蔵庫からお茶を出してコップに注ぐ。何か話さないと。お茶をゴクゴク飲んで、沙絵の座るソファーの背後の位置についた。

 「金曜、結衣の家に泊まるね」

 「相変わらず仲いいわね。そうだ。菓子折り買っているから、机の上のそれ。金曜日持っていきなさい」

 リビングの机の上には紙袋に入ったお菓子が置かれていた。美沙はありがとうと、伝えて居たたまれずに部屋に戻った。

 何か嫌な予感を母から感じる。あの後ろ姿を見ると、色々と辛い気持ちになる。美沙はベッドからプレゼントを出して、クローゼットの中に隠した。ブレザーを脱いでハンガーに掛けて、ベッドに横になる。 

 靴下を足で脱いで、ベッドの下にひっくり返った靴下が落ちる。後部座席から見た真山の運転する姿を思い返したり、めちゃ辛チキンを食べる姿を次に思い返したり、脳が真山の記憶映像を勝手に流して遊んでいる。

 

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