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彼女がずっと欲しかったもの  作者: 黄昏と泡沫
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誰かの日常

 幸せな夢。小さな子ども達と手をつなぎ、じゃれ合って遊ぶ幸せな一時。声も温度も身体を子ども達がよじ登る重さも、現実の遡った瞬間に記憶している。

 そして、目が覚める。幸せな夢は、悪夢だった。

 また子供の夢をみてしまった。目覚まし時計のアラームより早く目が覚めた。嫌な夢をみて死にたくなる。死ねない理由を探せない。さみしさと頭が千切れそうな耳鳴り。空虚と孤独。そして始まる日常。

 コーヒーを淹れて、ヨーグルトの上に冷凍のブルーベリーを10粒ほど並べ、スプーンで口に運ぶ。

 離婚をして15年。子どもたちと最後に会ったのは15年と半年前。昼逃げをされてから、幸せとは無縁の日常。子供たちの顔は忘れたことがない。こびりついた記憶。涙を拭う必要がなくなったかと思ったら、子どもの夢を見て、静かに泣くだけ。何のために自分が生きているのか、誰のために自分は生きてていいのか。

 月々送る養育費。そして愛する子どもたちのために貯めているお金。いつかきっと、生きていれば会うことができる。それが唯一の生きる糧だった。

 寂しさを紛らわす為に動物を飼っていたが、最初は魚から始まり、インコ、ハムスター、そして今は5歳のオスの猫と住んでいた。猫に週に一度、少し価格の高いエサを買ってあげる。

 猫のいる生活、子供がいない生活。子供たちは今ごろ何をしているのか。勉強はちゃんとやっているのか、おいしいご飯は食べているのか。幼い時のまま止まっている子どもたち。いつかきっと会えるはず。

 街に出て小さい子供を見ると、死にたくなることがあった。苦しさに押しつぶされて、酒に逃げた時期もあった。心の隙間を埋めようと恋人も作ったが、完全に満たされることは無かった。

 行きつけの飲み屋に行き、心の底から笑う場面もあるが、その後に罪悪感に苛まれる。役所に子どもたちの住所を調べようと行くと、閲覧制限が掛けられていて無理と突き返され、離婚相手を呪い殺そうと何度したことか。

 自分がいったい何をしたというのか。

 町中で見かける子どもを連れた親を見て、何が自分と違うのか。何が違ったのか。どうしたら良かったのか。答えなき問いを繰り返す日常。

 弁護士を雇って閲覧制限を取り下げる努力もした。探偵を雇って調べることもした。どうしても、子供たちの痕跡にたどり着けないまま、経過した15年の月日。

 もう上の子供は高校を卒業している。

 自分が子供の立場なら、顔も覚えていない親を探すことはしない。会いに来てくれたら、どんなに幸せなことか。

 気持ちを吐き出して少しは楽になれるかと、無料の小説サイトで小説を書くことにした。自分の代わりに主人公には子供と再会して幸せになってほしい。自分ができないことを、彼には叶えさせてあげたい。

 こんなきれいな作り話みたいな出来事が、どこかの多元宇宙の自分に起きていてほしい。

 足元にふくたろうが鳴きながら擦り寄る。

 小説を書き終えた時だった。しっかりと空が暗くなった夜に、インターホンが鳴った。宅配便かと、インターホンのホーム画面をのぞきこむと、2人の女の子が立っていた。


 


読んでいただきありがとうございました。

2部構成のはずが、あれも書きたいこれも書きたいで、気付けば長くなっておりました。


他の作品も読んでいただければ嬉しいです。




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