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第9話 いろいろお勉強

 ここはどこなの?

 何もない暗い部屋。

 辺りを見渡そうとして違和感に気づく。

 首が回らない。

 目を動かして周りを見ると見慣れない「赤色のなにか」があった。

 ああ、誰かの声がする。


 それが地獄の始まりだった。


※×※×※


 ボクがこの街に来てからそろそろ一ヶ月が経つ。ようやく街の生活と訓練の両立に慣れてきた。前までは訓練が夜間にあり睡眠時間が取れなかった。どちらも疎かになっていたが、今はある程度両立することができている。


 薬屋は軟禁部屋では経験できないことだらけで、毎日を新鮮な気持ちで挑むことができる。今は薬屋の店番をしている。ただの接客だと思っていたら大間違いで、お客さんの症状に合わせた軟膏や丸薬を選ばないといけない。他にもお金のやり取りには算術が必要になる。


 ボクは算術なんて知らなかったのでシグノアさんに習って簡単な計算なら暗算でできるようになった。しかし中には難癖をつけてくる人がいる。対人経験が浅いボクが対応に困っていると、シグノアさんがサラッと対応してくれた。

 ガーリィさんは時々やってくる急ぎの患者さんの対応や症状を見て個人に合わせた配合の軟膏などを作っている。薬学に関しては魔力を使っていないらしくすごい知識量だと驚かされる。

 お客さんがいないときはガーリィさんから薬学の基礎を教えてもらう。


「メトラの葉は魔草の中でも扱いやすく、その用途は多岐に渡る。例えば生の葉をすりつぶして傷口に塗れば鎮痛剤となり、乾燥した葉を燃やせばリラックス効果がある。睡眠薬として服用することもできるが、用量を間違えれば死に至ることもあるから注意が必要だ。これだけで死のうとするには濃度を上げなければならないから、そう心配する必要も無いがな」


 そう言いながらガーリィさんは棚からメトラの葉を取り出してすりつぶし始めた。水を少し入れて調整することでメトラの葉がペースト状になっていく。


 ちなみに魔草とは一般的に生えている植物が瘴気の影響を受けて変化したもののことだ。それが種として定着すると名前が付く。逆を言えば突然変異で一世代で終わってしまったものに関しては名前はつかない。種として定着しないと名前が付かないのは当たり前と言えば当たり前のような気がする。


「お前さん、腕を出せ」


 ボクは言われるがままに腕を差し出す。ガーリィさんは近くにある刃物でボクの腕を軽く切った。腕が少しヒリヒリする。そしてさっき作ったペーストを傷口に塗る。少しすると腕のひりつきが収まった。

 ガーリィさんの薬学の方針は、植物の効能は体験できるものであれば体験して覚えるというものだ。多少の毒性ならばそれも使って覚える。今晩はメトラの葉でできた睡眠薬を飲んで寝ることになるだろう。


 そんな具合でしばらく勉強をしていたらお客さんが来ていることに気がついた。


「こんにちは、今日はどうしましたか?」


※×※×※


「ありがとうございました」

「日が暮れてきましたしそろそろ店仕舞いにしましょうか」


 ボクの接客のサポートをしてくれていたシグノアさんがそう言った。その言葉を受けて店頭に置いてある商品を店の内側にしまい込む。片付けが終わって少し休憩を取ってからシグノアさんの戦闘訓練を受ける。


 シグノアさんの戦闘訓練は大きく分けて二つに分かれる。一つは素振りや走り込みなどの基礎訓練、もう一つは実際に組手をするというものだ。この組手のルールはなんでもありで、魔力を使って打ち込んだりする。

 シグノアさんが使う武器はステッキで、彼の雰囲気にとても似合っている。しかし雰囲気とは打って変わって鋭い一撃が飛んでくる。ボクは瘴気で身体強化して紫紺の魔剣を使っているのに、シグノアさんは魔力を使っていないらしい。それなのにいまだに一本取れていないのが悔しい。


「良いですか、戦闘において大切なのは力の使い方です。ただ力を加えれば良いというわけではありません。衝突の瞬間に力を入れるのです。常に力んでしまえば動きは固くなり力は伝わりにくくなります」


 ボクが打ち下ろした剣はシグノアさんのステッキによってそらされ地面に打ち付けられ地面にめり込む。戦闘訓練で使っている部屋の床は他の部屋のように加工されているわけでなく、むき出しの地面になっている。

 シグノアさんは隙だらけになったボクに容赦なく横蹴りを入れてくる。咄嗟に魔剣を手放して反対に飛び衝撃を逃がす。


「良い反応ですよ、つい最近まで歩くだけでふらふらしていた子とは思えませんね」


 一度死んでいるからか、ボクはあまり痛みを感じない。それでもここ一ヶ月くらいボロボロになったおかげで、体に貯まるダメージの感覚がわかってきた。


「瘴気は感情の力です。瘴気の出力が弱いのは仕方ありませんが、もっと工夫して扱いま――」


 ボクはシグノアさんの言葉を遮り斬りかかる。これもシグノアさんから、戦いの最中に長々と話し始めたら斬りかかれと教わったからだ。それにこの話は何度も聞いた。一ヶ月前は自由に魔剣を出すことすらできなかったので、瘴気の操作も少しずつ成長してきている。


「その攻撃は何度も見ましたよ」


 シグノアさんの回避法の特徴として攻撃を無駄なく躱している。逆を言えばその回避には空間的に余裕がない。そこでわざと剣を手放し、本来届かなかったはずの攻撃を届くようにした。しかし簡単に弾かれてしまう。


「良い発想です。魔剣を自由に作り出せるのだから一本に拘る必要はないですね」


 剣を囮にして間合いを詰めて体重を乗せた拳を繰り出すが、腕を掴まれ勢いのまま投げられる。その後もしばらく斬りかかったりするがすべて防がれてしまう。


「それでは今日のところはこのくらいにしましょう」


 シグノアさんが余裕そうに話しているのに対してボクは地面に這いつくばって息も切れている。すごく悔しい。いつかあの余裕そうな態度をとれないくらいに追い詰めてやりたい。

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