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第69話 新天地

 ヴェリドは魔剣を横に薙ぎ、飛びかかってくる魔獣の首を刈り取った。ヴェリドは死した魔獣に一瞥もせず、道なき道を進む。魔獣が徘徊する森を進むヴェリドの傍らには、小さな足でついていくリルリットがいた。


※×※×※


 ヴェリドは創園祭の夜、人目を盗み中央都市カプティルから出た。そして現在、最果ての街フェアスを目指している。乗合馬車を乗り継いでフェアスを目指すという手もあるが、ヴェリドたちはその手は早々に諦めた。

 最初のうちは小規模な乗合馬車を使って移動していた。歳五つにも満たない子どもと隻眼の少年という異様な組み合わせであっても、多めに金を渡しておけば、怪訝そうな顔をされることはあっても言及されることはなかった。

 逆に、相場通りに渡した場合は断られることがほとんどだった。一度断られた相手にいくら金額を上乗せしても、決して彼らを説得することはできなかった。彼らは渡した金を返すことはなく、汚物を見るような目でヴェリドたちを睨んだ。

 また、郊外に行けば行くほどヴェリドの容姿を忌避する者が増え、不当に断られることが増えた。彼らにいくら金を積んだところで、人とも思わない態度を改めることはなかった。シグノアやガーリィと暮らしていたテクセントやカプティルでは、ヴェリドの容姿を理由にサービスを断られることはなかった。不都合と言っても、せいぜい少し顔をしかめられるくらいだろう。

 しかしそれは比較的発展した街での話であり、規模の小さな町や村では様々なことが制限された。中には村へ入れてくれないこともあった。その後に続いた旅団が笑顔で歓迎されるのを見た時には、こうも対応が違うのかと、二人は嘆いた。


 こうした理由が積み重なってヴェリドたちは乗合馬車を使うことを諦め、自らの足で進むことにしたのだ。初めは馬車が通る街道をリルリットと歩いていたのだが、よく賊徒に襲われた。彼らの目には幼い子どもと軽装の少年の組み合わせは簡単に組み伏せられそうに見えたのだ。

 明らかにやせ細った、農民崩れのような風貌の賊徒たちは隙の多い動作でヴェリドたちに襲いかかり、その度にヴェリドは魔剣を宙から抜いて切り捨てた。

 賊徒に襲われること自体は問題なかったが、賊徒の死体処理と馬車からの人の目が気になった。魔剣で賊徒を殺すところを見られた場合、ヴェリドに魔人であるという嫌疑がかかる。事実、ヴェリドたちは魔人であり疑われてしまえば面倒なことになるのは目に見えている。

 旅の途中にヴェリドたちは騎士に事情聴取を求められたこともあった。事情聴取といえば聞こえはいいが、尋問という方が実際の様子に近いだろう。いつまで経っても尋問が終わらないため、ヴェリドたちは無理やり振り切って逃走することにしたのだった。

 その際に戦いの形を取ってしまえばヴェリドたちの印象は圧倒的に悪くなってしまう。焼け石に水かも知れないが、魔剣を抜かずに純粋な肉体強化のみで彼らを振り切った。リルリットの存在も相まって、騎士たちを振り切るのはなかなか骨が折れるが、近場の森に入って彼らを撒いた。

 このまま街道を歩き続ければ、フェアスに着く前にお縄になっているだろう。既に追っ手がヴェリドたちを捕捉しようとしているのだから。リルリットへの負荷を考えると長期的に森に入るのは気が進まなかったが、そのまま街道を外れた森の中を進むことにした。

 色々理由をつけて殺しをしない理由を語ったが、それ以上に、不要な殺しはしないというヴェリドの信条が影響している。殺すという行動は理性というタガを外してしまえばいとも簡単に実行できてしまう。

 リルリットを守るために殺しをためらうことはない。しかし不要な殺しはヴェリドの望むところではなかった。


 ヴェリドとリルリットの二人はどことも知れぬ森の中を手をつなぎながら歩いていた。握るリルリットの小さな手と子ども特有の体温の高さは、ヴェリドを安心させると同時に不鮮明な恐怖を与えた。リルリットがいなくなってしまったらという恐怖を感じるからこそ、ヴェリドはリルリットの手を強く握った。森の中で手をつなぐのは明らかに非効率だと二人ともわかっていたが、あえて口に出すことはなかった。

 非効率とは言っても、襲ってくる魔獣程度なら片手でどうとでもなる。もともと左腕はヴァンの魔力が蝕み、戦闘ではろくに使うことはできない。日常的な動作なら不都合なくこなせるが、大きな力が加わる場面で使うのはもっぱら右腕だった。

 リルリットが歩くにはなかなか険しく、一人では超えられないようなところがあると、その時はヴェリドは両の手を差し出してリルリットを支えた。

 幼いリルリットを連れていることもあって、移動中の休憩はこまめに取った。リルリットほどの年齢ならば不平不満を口に出すほうが自然だが、リルリットは道中弱音を吐くことは一切なかった。

 移動に疲れ果て、愚痴をこぼす余裕がなかったことも理由に挙げられるが、一番の理由はリルリットが聡明な子だったことだ。彼女は幼いながらも自分の置かれた境遇を理解し、自分にできることを精いっぱい努力していたのだ。


 この旅を通して二人の絆は今までと比べてより強固なものとなった。片や家族に捨てられた忌み子と呼ばれた少年、片や幼くして両親が殺されたアークを宿した娘。辿ってきた道は違えど、これから二人が進む道は同じ険しい道である。

 二人は森を抜け、身を遮るものが何もない街道を駆け足で移動する。しばらく同じ調子で移動していると、正面に今まで見てきた外壁とは比べ物にならないほど大きな壁がそびえているのが見えた。

 それは箱庭の祖が作り上げた箱庭を守る防壁であった。その雄大な姿にヴェリドたちは圧倒される。二人は我に返って先に進むと巨大な防壁の影の下に大きな街が見えた。

 ヴェリドが知っているフェアスの村とは似ても似つかない規模の街だったが、アークの記憶にある巨大な箱庭の外壁がその街だと訴えかけていた。


 そうして二人は最果ての街フェアスにたどり着いた。

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