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第61話 へぇ……

「ヴェリドはどうしてその子を守ってるのかしら?」

「そんなのお前には関係ないことだ」


 ヴェリドは身体の傷のせいで骨剣を正面から受けることができない。そんなことを知ってか知らずか、サーノティアは新たにもう一本の骨剣をスカートから取り出し、双剣を振るう。ヴェリドは二本の剣を魔剣で丁寧に流しながら反撃の機会を伺う。


「つれないわね……。私ね、ヴェリドのことはたくさん知ってるの。クロウがヴェリドを生き返らせたのよね? ヴェリドが竜を倒したことも、ヴァンに裏切られたことも、ぜーんぶ知ってるわ。だから教えて? ヴェリドの心のこと!」


 サーノティアはリルリットを直接狙うことは諦めて、ヴェリドに骨剣を投げる。骨剣はヴェリドの瘴気で軌道を逸らされ、街の壁に突き刺さった。

 ヴェリドは剣を投げ終えた後の無防備なサーノティアに魔剣を叩きつけるも、彼女の腕で防がれる。人の体を斬ったとは思えない手応えに、ヴェリドは顔をしかめた。瘴気で衝撃を打ち消しながら魔剣を運用しているヴェリドにとって、予想外の衝撃は致命的だった。

 金属に打ち付けたかのような感触に、ヴェリドは腕の傷の痛みを強く感じた。サーノティアの魔力がわからない中で、ヴェリドの思考は加速する。


「人のことを聞く前に私のことからよね。良いでしょこの腕。なかなか便利なものよ。防御面はもちろん、単純に叩きつけても強いのよ? だけど女の子が強さを求めるのはどうなのかしら? 私は可愛いものが好きなのに」


 サーノティアは魔剣を受け止めた後、そのまま反対の腕でヴェリドへ殴りかかろうとする。しかしヴェリドは虚空から魔剣を生み出してサーノティアの肩へ突き刺し、サーノティアの動きを封じる。そして壁際にまで追いやり、黒く重い言葉を発した。


「何が目的だ? 返答次第ではお前を殺す」

「へぇ……」


 サーノティアはヴェリドの強い言葉に思わず笑みが溢れる。気が緩み零した笑みではなく、その様に耐えきれず溢した笑みは、明らかに追い詰められているのにも関わらず余裕を感じさせた。

 一方のヴェリドは口では殺すと言ったもののそれを実行できるかどうかは怪しかった。もちろん魔剣で彼女の首を斬ってしまえば、それだけで彼女は死ぬのだろう。

 しかし心情的にそれができるかどうかは別問題だった。人を殺すことにヴェリドは極端な忌避感を持っていて、それがどのような人間であろうと関係ないのだ。どれほどの悪人であろうと、自らの手で命を奪うことに恐怖心を抱いてしまう。


「殺せないわ。強がっててもわかるんだから。手が震えているもの」


 サーノティアの言葉の通り、魔剣に添えるヴェリドの手は震えていた。忘れることなどできるはずがない。肉を斬る感触が、人肉の柔らかさが、時折引っかかる骨の感触が、全てがヴェリドの思考を罪の意識で塗り替えるのだ。

 しかしヴェリドは己の罪に震えながらも新たに創り出した魔剣を握り、サーノティアの首元を薄く斬りつけた。そしてサーノティアの白い肌に真紅が滲む。

 殺しを嫌うヴェリドがそこまでするのは、守りたいものがあるからだ。自分自身がどうなってでも、自分の大切なものは守りたいという強い意志がヴェリドにそうさせた。


「もう一度聞く。目的は何だ?」

「言ったはずよ。リルちゃんを殺しに来たのよ。正確にはアークを宿した人を殺しに来たの。だからヴェリドを殺しても良かったのだけど私にはできなかったわ。実力の話もそうだけど、貴方とは仲良くなりたいもの」

「アークって何なんだ? 集めて何になる? 誰の指示だ?」

「いずれわかる、なんて言えば怒られてしまいそうね。それでも私から言えることはアークを集めればその答えがわかるということくらいかしら。深く言えないのは許してちょうだい。これも言いつけなのよ。誰からというは、わかるでしょ?」

「今ここで死ぬか、話すか、どちらか選べ」


 ヴェリドは魔剣をサーノティアの首に深く押し当てる。斬りつけられた首筋から魔剣の中腹へと血が流れて切っ先まで伝っていった。震える手の振動によって、魔剣の切っ先から血液がポタポタと雫として落ちていく。


「さっきも言ったけど私の目的はリルちゃんを殺すことなの。私が瘴気でリルちゃんを殺すのとヴェリドが私の首を斬るの、どっちが速いと思う?」

「やってみろ。ボクがすぐに殺してやる」

「それじゃあ――」


 サーノティアはヴェリドの言葉に笑みを返す。サーノティアの灰色の濁った瞳が、怒りと恐怖と罪の意識が混ざり合うヴェリドの瞳をまっすぐと見つめていた。


「――お言葉に甘えて」


 その言葉と同時だった。

 サーノティアは視線を外してリルリットへ向ける。

 ヴェリドは、魔剣を一思いに振り抜く。

 壁に刺さった骨剣が動き、刀身が姿を見せる。

 サーノティアの首が身体と分離し、宙に浮く。

 宙に浮いた首が地に落ちる。


 緩やかな時間が再び加速しだし、ヴェリドの認識に世界の速さが追いつき始める。首を失った胴体は噴水のように血を吹き出し、地に落ちた首は無様に転がる。


 しかし骨剣は未だに動き続け、リルリットへ向かう。止まらない骨剣はリルリットの命を狙っている。

 地に落ちた首の持ち主の名はサーノティア。そして彼女は黒い鴉にこう呼ばれていた。血肉の少女、と。

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