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第56話 おめでとう!

「「「お誕生日おめでとう!」」」

「ありがとう!」


 ヨープスさんたちの家に元気な声が響く。今まさに誕生日会が始まったところで、誕生日であるリルちゃんは机の辺の短い側、お誕生日席に座っている。

 机の上には見たことのない料理がたくさん並んでいる。リルちゃんとボクの前にある小洒落たコップにはジュース、ヨープスさんとマリーさんのコップにはぶどう酒が注がれていた。

 リルちゃんはボクたちからのお祝いの言葉に少し照れくさそうな表情を浮かべ、それをごまかすように近くにあった料理を自分の取り皿に取り分ける。しかしリルちゃんの小さな身体では上手く取り分けることができずにポロポロと落としてしまった。

 リルちゃんは落とした料理を手で拾ってお皿の上に戻し、汚れた手でフォークを握ろうとする。すぐ近くに座っていたマリーさんが少しの間その様子を眺め、頃合いを見て料理を取り分けてあげた。ヨープスさんは持て余したリルちゃんに小さなタオルを渡した。

 リルちゃんは渡されたタオルを受け取って自分の手の汚れを拭った後、汚れてしまった机をきれいにした。リルちゃんの豪快な拭き方に、周りのお皿をひっくり返して二次災害が起きないかと心配していたが、特に何も起きずにすんで良かった。

 リルちゃんをはじめとして、ボクたちも自分のお皿に料理を取り分ける。和気あいあいとした空気で、なんでもない会話を楽しみながら食事を済ませた。


 食事が終わって落ち着いてきたので、ボクはリルちゃんに渡す誕生日プレゼントを取り出した。先日見つけた可愛らしい二人の人形だ。しかし包装が施されているので、リルちゃんからはそれが何かわからないはずだ。リルちゃんは目を輝かせながら、そのプレゼントを見ている。


「はい、改めてお誕生日おめでとう」

「ありがとう!!」


 ボクは手に持った二人の人形をリルちゃんに手渡す。リルちゃんは元気な声でお礼を言うと、大切そうに両手でそれを受け取った。


「あけてもいーい?」

「もちろん良いよ」


 待ち切れないという様子のリルちゃんに、ボクは口元に笑みを浮かべる。いそいそと包装を解くリルちゃんを見るとなんだかこちらまで楽しい気持ちになる。

 二人の人形が姿を表すと、リルちゃんは声にならない歓声を上げた。そしてすぐに二人を抱きしめて頬ずりをする。リルちゃんの柔らかそうな頬が優しく変形した。しばらくの間人形を眺めた後、リルちゃんは思い出したかのように口を開いた。


「ありがとう!」

「うん、どういたしまして」


 天真爛漫なリルちゃんの言葉は飾り気なく、どこまでも純粋できれいだ。まっすぐ向けられるその言葉は受け取るこちらが気恥ずかしくなってしまう。そんなリルちゃんを見習って、ボクもまっすぐ見つめて微笑んだ。

 リルちゃんの目は言葉と同じく、曇りないきれいな瞳をしていた。髪の毛と同じ栗色の目はどこまでも透き通っている。この瞳には世界が綺麗に写っているのだろう。


「そうだ!」


 リルちゃんは人形を胸に抱きながらボクを見ている。何かを思いついたのか、男の子の人形を机に置いて女の子の人形にもう一度頬ずりをした。そして栗色の髪をした人形をボクの方へ差し出した。


「ゔぇりどにあげる!」

「どうして?」

「ゔぇりど、リルとあえなくなっちゃう。でもおにんぎょうさんはリルなの! だからゔぇりどはリルといっしょ!」


 ボクはリルちゃんの言葉をもう一度自分の中で繰り返してみる。人形を自分だと思って持っていて、ということなのだろう。この人形がリルちゃんに似ているから買ったのだが、まさか自分に渡されるとは思わなかった。

 ボクは名案をひらめいたと自慢げな表情を浮かべるリルちゃんから人形を受け取った。この歳になって人形を抱えているのはなんだか恥ずかしいが、それ以上に嬉しい気持ちでいっぱいだった。


「ありがとうね」

「うん! ゔぇりども、おにんぎょうさんにゔぇりどいれて」


 再びリルちゃんから人形を差し出される。これは先程のリルちゃんと同じように、頬ずりをすれば良いのだろう。しかし流石に恥ずかしすぎる。人形を抱えているだけでも恥ずかしいのに頬ずりなどできるわけがない。


「ごめん、さすがに恥ずかしいよ」

「えー!? じゃあほかのゔぇりどちょうだい!」

「リル、そんなこと言っちゃダメでしょ? お人形貰ったんだから」


 リルちゃんはマリーさんに咎められ、わかりやすく眉を落とした。その表情を見て自分がリルちゃんに渡せるものがないか、自分の体をよく見てみる。

 身体の下には包帯がたくさんあるが、こんなものを渡すわけにはいかない。かと言っていま着ている服を渡すのもどうかと思う。そんなことを考えていると、ふと自分の首飾りに目が行った。


「それが良い!」

「良いものじゃないよ?」


 リルちゃんはボクの様子をよく見ていたようで、そんなことを言った。小さな頭蓋骨の首飾りなど悪趣味にも程がある。リルちゃんにしっかり見せるのもどうかと思うが、視線に耐えきれず服の中から首飾りを出した。


「ほらね? 嫌でしょ」

「ほしい!」


 これを渡して良いものかと思い、ヨープスさんに視線を飛ばすと、とても良い笑顔で頷いている。どうやら味方は居ないようなので観念して、藍色の髪の人形に首飾りを短く括ってつけてあげる。

 リルちゃんが満足そうなので、これで良いんだと自分を納得させる。頭蓋骨の首飾りは自分の中では消化不良だが、それ以外は楽しく誕生日、お別れ会を過ごした。

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