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第52話 うるせえ奴ら

 聖女が部屋に入ってきた時には、既に騎士の四人は全員揃っていた。彼らは聖女が入室すると同時にその場で立ち上がり、恭しく礼をする。聖女の隣に立つクロウは小さな声で、愛されてるねぇと聖女を茶化した。その声は彼らの耳にも入るが、怪訝そうな顔をするだけで何も言わない。

 彼らが全員、箱庭に忠誠を誓っているわけではなかった。しかしそれが聖女を敬わない理由にはならない。ある者は打算、ある者は恐怖、ある者は家のため、そしてある者は目的のために聖女に礼を払うのだ。


「楽にしてください。言いたいことはあるかと思いますが、しばらくお待ち下さいね」


 穏やかな声が静かな部屋に行き渡り、聖女が己の席に座ると、騎士たちは並べられた椅子に座りだした。クロウもちゃっかり用意された椅子に座るが、それでも一席あまっている。


「それではディアフォン、よろしくお願いします」

「それじゃあぁ、オジサンの報告から始めるよ。瘴霧の森の竜に関して、無事討伐を確認したんだけど、魔猿が殺したわけではなかったねぇ」


 会議と言っても真面目な会議ではなく、ディアフォンなどはこの場でもふざけた口調はやめようとしない。前まではミアが静止役だったが、彼女が死んでからは彼を止めるものはいなくなった。とは言え、最近ではサイアードがその枠を担いつつあるが、今日はその役割を担うことはなかった。

 ディアフォンに続いて他の者もそれぞれ報告をしていく中、クロウは退屈そうに指遊びをしていた。クロウからすれば教会が何をしていようと関係ないからだ。それに彼らが何をしているかは自身の眼で確認している。


「はい、皆さんありがとうございます。それでは私のほうからお話させていただきます。まずは皆さんが気になるであろうこの人のことから」


聖女は自身の隣に座るクロウに目をやる。


「彼はクロウ、一応性別は不明ということで通していますが、便宜上彼と呼ばせてもらいます。皆さんにはこれから彼と行動していただくことがあると思うので、その点お願いします」

「どうも、クロウだよ。よろしく頼むよ」

「女の子じゃないのかぁ、残念だなぁ」


 ディアフォンはブレずに、セクハラ発現をかますがここに女性は聖女の一人しかいない。ディアフォンとて、流石に聖女を欲求のあて先にすることはない。ただ、彼が聖女に従う理由が俗心であるのは間違いない。


「どういうことかしっかり説明してくれよ、聖女様。表の騎士でもないやつがここにいるんだ? 仮面をつけてる胡散臭いやつとは仲良くできそうもないぜ」

「確かに自分も気になりますね。彼は何者なんですか?」


 言ってることはまともだが粗悪な態度の彼はベイゼル。彼は幼い頃から教会に所属しており、御力にも恵まれた優秀な人間だった。

しかしなんと言っても口が悪い。彼が問題を起こしたのは一度や二度のことではない。表に立たせると問題ばかり起こすので、裏方の聖女直属という役に就けられた。

 ベイゼルに同調するのはサイアード・ニアレイジ。彼も幼い頃から教会に所属している。聖女が特別彼を気にかけており、サイアードは異例の速さで直属の騎士となった。ヴェリド、もとい名もなき少年を救済の儀にて救った(ころした)のが彼の騎士としての初任務であった。


「はは、違いないな。仮面をつけているのは俺の顔が醜悪だからさ。教会の人間ではないというのも正しい。聖女サマとは古くからのつきあいでね、今回の案件も俺が持ってきたものだ」

「醜悪でも良い。そのツラ見せろ」

「とくとご覧あれ」


 クロウは案外すぐに仮面を外しその顔を見せた。ベイゼルはその顔に驚き、そっぽを向きながら自身の紅の髪を掻きむしる。クロウは再び仮面を装着すると、手をヒラヒラと横に振った。


「悪かったな」

「お前さん、その雰囲気で素直に謝れるのか。偉いね」

「なんだお前、舐めてんじゃねぇぞ!」

「男って面倒くさいよね。君もそう思うだろ? ディアフォン・ブリース、だったか?」

「皆、一旦落ち着こうよ〜!」


 ベイゼルは怒りに任せて拳を机に叩きつけた。そのせいで石でできた机にひびが入ってしまう。威圧する目的でもあったのだろうが、クロウは涼しい顔のまま、両手を上げてわざとらしくため息をついた。

 ベイゼルの机叩きの被害はすぐ隣の席に及んでいた。慌てふためいているのは、ここにいる騎士の中では一番の新入りであるジーン・ヌイ。元々は近くの街で役場の職員をしていたが、何故か中央に呼び戻されてしまった。

 そもそも彼は生まれはヌイの血筋ではない。彼は辺境の村で生まれ育ち、数奇な運命を辿ってヌイの養子となっていた。養子になったのに中央では働かず、隣町で事務員をしていたのだから、こういった政治の場には慣れていないのだ。


「全くもってその通りだよぉ。それに比べて女の子は最高! なんて言ったってあの――」

「はいはい、その辺にしてください」

「まったく最近の若いのは……。ていうかオジサンの名前はどこで知ったの?」

「それ言いたかっただけですよね? いつもはやらないじゃないですか」


 サイアードの言葉が冷ややかな視線とともにディアフォンに突き刺さる。サイアードは一番の年少者ではあるものの、他の三騎士たちと対等の立場にある。


「さっき聖女サマに聞いといた。君とは馬が合いそうだからね。それに君は前に俺のこと見たことがあるはずだし」

「うーん、どこかであった?」

「こうすればわかりやすいかな? 瘴霧の森で見たことがあるはずだ」


 クロウはそう言うと自身の身体から鴉を生み出してディアフォンに見せる。それを見て気づいたようでディアフォンは眉をピクリと動かした。


「なるほどねぇ」


 騎士たちがグダグダ言っているのを、聖女は若干げんなりした表情で見ている。クロウを連れてきた時点でこうなるのを予見していたが、それでも嫌なものは嫌なのであった。

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