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第3話 目覚め

「やぁ、目が覚めたようだね」


 ボクが目を覚ましてから仮面の人はそういった。先程剣で刺されて意識を失ったことまでは覚えているが目の前には妙な仮面の人がいる。周囲を見渡すと鬱蒼とした森が広がっていた。見知らぬ場所で見知らぬ人の前で目が覚めたら、その人物を警戒するのは当然のことだろう。


「あなたは誰ですか?」


 仮面をつけた怪しい人物はゆったりとしたローブを着ていて、体格がわからない。声も中性的で性別を断定することは難しかった。鴉のような奇妙な仮面のせいでその人物を怪しむ気持ちは強かった。


「はは、申し訳ないね。自己紹介をしようじゃないか。俺の名前はクロウだよ。気軽にクロウと呼んでほしい。君を生き返らせた魔人さ」


 クロウは大したことないようにボクに関わる大事なことを話した。目の前にいる人物がボクを生き返らせたとのたまうのだ。ボクの中にあった疑念は一向に晴らされる気配がない。


「ボクを生き返らせたというのはどういうことですか?」

「まあまあ、そんなにがっつくなよ。君の自己紹介がまだだろ?」


 自分が生き返ったと言われ動揺するボクにクロウは落ち着いて自己紹介を促した。いきなりの展開にボクは冷静さを失っていたのかも知れない。

 少し深呼吸をして心を落ち着かせてから自己紹介を始める。


「ボクの名前は……わからないです。もしかしたら小さい頃はあったのかも知れないけど、今はわかりません。剣で刺されて意識を失って、目が覚めたらここでした」

「自己紹介ありがとう。意味通りの自己紹介という面では意味がなかったけど、これで仲良く接することができるね」


 ケラケラと軽く笑いながらクロウは言った。クロウは仲良く接するという言葉通り、馴れ馴れしく話を続ける。その雰囲気にボクはつられて笑みを零す。


「さて君を生き返らせたと言ったけどそのままだよ。あの場で殺された君の死体をここまで運んで生き返らせた。体はいつもどおり動くはずだ。今までの君と違うところを挙げるなら、君の魂だよ」


 クロウはボクの胸のあたりを指さして言った。ボクは自分の胸のあたりに手を当ててみる。すると胸に激痛が走り、思わずうめき声を上げてしまう。


「はは、大丈夫かい? 君の体の傷は最低限は直したけど、一度は貫通してるんだからもう少し優しく触ってやりなよ。肉体はそんな調子だけど、君の魂はアークの魂――魔人の魂と混じり合っている。だから君の魂は魔人側のものになっているんだ。その上で君に聞こう」


 軽口を叩きながら話していたクロウが急に真面目な空気を出して言葉を一度切った。クロウとのやり取りはこれが初めてだがとても嫌な予感がする。


「君には二つの選択肢がある。ここで人の子として死ぬか、魔人として二度目を生きるかだ。人の子として死ぬことを選ぶなら俺が一思いに殺してやる。魔人として生きることを選ぶなら魔人としての生き方を教えてやる。君はどうしたい?」


 クロウが問いかけた質問はボクにとっては大した問いではなかった。人としての尊厳を守って死ぬ? そもそもボクに人としての尊厳なんてものはなかった。それに処刑されたときは元が何であれ魔人として死んだ。人として死ぬなんてことは論外だ。

 故にボクの答えは決まっている。


「ボクは、死にたくない。生きたいです」

「それがどんなに険しい道でもか?」

「もちろん。生きているか死んでいるかわからないような人生はもうごめんです」


 暗い部屋に閉じ込められながらパンと水だけで生き延びる生活に比べれば、これからの生活は何か違うものがあるはずだ。


「はは、良い答えだ少年。それでは魔人としての生の門出に、君に名前を授けよう」


 さっきまでの真面目な雰囲気はどこに行ってしまったのだろうか、出会った最初のような様子で軽やかに語る。


「君の名前はヴェリドだ」


 ヴェリド。ボクは新たに与えられた自分の名前を口に出して噛みしめる。この名前でボクの新たな人生が始まるとなると、しみじみとした思いになるのは仕方ないことだろう。


「ヴェリド、突然だけど魔人に必要な能力ってなんだと思うかい?」

「すみません、魔人とか詳しくわからないんですけど」

「皆そんなものだよ」

「魔人のことだけじゃなくて常識とかもわからないんですけど」


 そうなのだ。今まで閉じ込められて育ってきたからボクは常識も知識も何もかもがわからない。だから魔人として必要な能力と問われても答えられない。


「はは、なるほどね。それじゃあ人々が御力と呼ばれる力を使っているのは知っているかい? 人と魔人の最大の違いは力の持ち方だ。彼らは神と呼ばれる存在から力を授かりその力を使う。魔人は神の力を持たず瘴気を使って自分の力を使う。簡単に言えばこんな感じ。人の頃の常識は役に立たないから知らなくても問題ない」


 ところどころうなずきながらクロウの話を聞いていた。御力という言葉は弟が生まれてから何回か聞いたことがあった。それは小さな頃に御力のない神敵と罵倒されていたことが原因だ。ボクが閉じ込められていたのは神からの授かりものである御力を持たなかったからだろう。

 そこでふと疑問が湧いてきた。御力を持っていないが、魔人としての力の使い方もわからないボクは何者なのだろうか。


「まぁ正確にはそれだけでは不十分といったところかな。というかこんな言い方をしたら他の魔人に怒られそうだけどね」

「そうなんですね。ところでボクは魔人としての力を持っていないんですけど、どうしてなんでしょうか?」

「生き返ったばかりだと言うのにそう早まるな、生まれてすぐの赤子が歩けないのと同じさ。まあ君は魔人としても普通ではないからすぐに使えるようになるよ。君の中に力は既にある。足りてないのは力が目醒めるきっかけだけさ」

「きっかけ?」


 なんだか嫌な予感がしてボクは思わず聞き返した。ボクの上擦った声にクロウはニヤッと口角を上げながら答える。


「ああ、君にはこれから死にかけてもらう」


 どうやらボクの嫌な予感というやつは当たってしまったらしい。

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