来てくれた先輩
こちらは百物語九十八話の作品になります。
山ン本怪談百物語↓
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芸能人Mの体験。
当時まだ若手のお笑い芸人だったMは、地方の小さな営業とアルバイトで生計を立てる苦労人であった。
そんなMを可愛がってくれていたのが、当時売れっ子だった落語家のKであった。
「Mちゃん、大変だと思うけど頑張れよ。Mちゃん面白いんだから絶対売れるよ」
芸に関してはとても厳しい人だったそうですが、親しい人にはとても優しい兄貴的な人だったそうです。
Mのことも大切に思っており、自分の家へ泊めたり旅行へ連れて行ってくれた時もあったそうです。
自分の営業をこっそり見に来てくれた時もあったそうで、Mにとっては本当に心の支えのような人でした。
ある日のこと、Mが地方の小さな体育館で営業の仕事をこなしていると、体育館の出入口に立っているKの姿を見つけました。
(Kさん、わざわざこんな地方の山奥まで…近くで仕事でもあったのかな…?)
Kのことを気にしながらいつも通りに漫才を進めていると、Mはこちらを見ているKと不意に目が合ってしまいました。
その時、KがMに向かって申し訳なさそうな顔をして「ジェスチャー」をしてきたのです。
最初に両手を合わせ、何度も頭を下げる。
次に左手で自分の首を何度も撫でる。
最後はMに向かって笑顔で一礼。
これを終えると、Kは名残惜しそうに会場から出て行ったそうです。
(何か言いたいことがあったのかな。後でマネージャーさんへ連絡しておこう)
営業は無事に終わり、控室で水を飲んでいると、慌てた様子でMのマネージャーが控室に飛び込んできた。そしてMに向かって衝撃的なことを言い放った。
「大変や、Kさんが移動中の事故にあって死んだ」
控室の中はざわざわとざわつき、Mも少しパニックになっていたそうです。
「いやいやそんなこと…だって俺さっきそこでKさんのこと見たでっ!?」
Mは確かに営業中にKの姿を見た。近くにマネージャーや関係者の姿もなかったので不審に思っていたが…
「そんなことはあらへん。Kさんは大阪から東京の劇場へ行く途中で事故にあったんや。こんな山奥に来るはずもないやろ。しかも事故にあったのは営業の30分前やで」
Mはマネージャーの言うことを素直に信じることができませんでした。
しかし、マネージャーからの次の一言で、Mは全てを理解したそうです。
「Kさんは交通事故で首の骨を折って死んだらしい」
Mはあの時のKのジェスチャーを思い出した。
首を何度も撫でるあのジェスチャー。
「わざわざ死んでから地方に来て、俺に『死因』まで教えてくれたんですよ。本当に面白い人でしたよ、Kさん」
Mは笑いながらそう語ってくれた。
泣ける怪談にも1回挑戦してみたかったのですが、今の自分の実力ではこれが精一杯です…
ちなみに良い話と思わせておいて…的な怪談は大好きです。