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辺境伯令嬢フローラ 精霊に愛された女の子  作者: 加藤汐郎
第2部 ローレンの聖女
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第57話 五等爵位とルキアのランク

 皇帝や王の家臣には、五等爵位の階級がある。

 ただし大小国家の連合体であるアリスタ帝国は、同じ爵位でも直参じきさん陪臣ばいしんが存在しているからややこしい。要は皇帝直属か、連合する国王の家臣で非直属か、同じ爵位でも違いがあるのだ。


 公爵――。

 皇帝ないし国王の血筋。

 シュバイツは皇族の血筋であり、ブロガル王国は帝国から見れば直参で公爵家に当たる。統べる領地は大国の王と変わらず、陪臣の公爵と同じではない。ローレン王国内でグレイデルは公爵だけれど、帝国から見ればフローラの家臣だから陪臣となる。


 侯爵――。

 皇族や王族の血筋ではないが、有力諸侯に与えられる爵位。

 ただし皇帝の直参に、侯爵と呼ばれる爵位は存在しない。侯爵に相当するのが辺境伯、宮中伯、方伯と呼ばれる特別な伯爵だ。

 フローラが辺境伯であるように、クラウス候は方伯、マリエラ姫も宮中伯の家柄。つまり三人は帝国から見て大国の王であり直参、次の皇帝を誰にするか決める選帝侯の地位にある。直参公爵と同等以上の経済力と、軍事力を持つ諸侯と言えよう。

 ゲルハルトはローレン王国内に於いて侯爵だが、帝国から見ればフローラの家臣だからやはり陪臣となる。クラウス候とマリエラ姫とは、けして同格ではない。


 伯爵――。

 皇帝や国王から地域行政官に任命された爵位。

 フローラ軍の隊長たちがこの地位で、叙爵を受けアルメン地方を任され領主となったヴォルフもそう。

 なお領地と言うよりも、首都に準じた都市を任される伯爵も中にはいる。このケースでは都市伯とも、城伯とも呼ばれる。


 子爵――。

 伯爵の補佐役を担う爵位。

 伯爵が一人で広大な領地を管理するのは難しいため、区画分けして担当官に任命される爵位と言える。ローレン王国では伯爵の補佐という観点から、子爵ではなく準伯爵と呼んでいるが。


 男爵――。

 子爵の配下で自らも農作業を行なう、半民にして半貴族の地主。

 担当する地域から、税収を取りまとめる役割を担う。ファス・メイドの三人娘は庄屋の出だが、その庄屋こそが帝国では男爵や準男爵に相当する爵位と言えるだろう。男爵と準男爵の違いは、管轄する町や村の数によって分けられる。


 なお伯爵以下は城や都市の勤務で、領地を持たず屋敷に住まう者も多い。この場合は国王や領主から賃金が支払われる、俸給制の貴族と言えば分かりやすいだろうか。アウグスタ城で例えるなら、ケイオス(執事長)や近衛隊に衛兵隊がそう。


 騎士爵――。

 士分しぶんとも呼ばれ五等爵位とは別にある、世襲制ではない一代限りの準貴族。任命されるのは必ずしも武人とは限らず、民間人でも対象となるのが特徴の称号だ。ローレン王国軍は職業軍人の集団であるから、兵站部隊も男女の区別なく全て騎士爵としている。

 キリア隊長を筆頭にゲオルク先生、鍛冶職人に木工職人も、糧食チームにお針子チームも、軍団の装備と医療に食事を支える大事な存在。民間人だからと線を引かず戦う仲間として、敬意を持って接しなさいという意味合いが強い。


「見てミューレ、中玉トマトがこんないっぱい」

「こっちは長ナスだよジュリア、もう夏野菜の季節なんだね」

「ヨハネス司教と聖堂騎士の皆さんに、野菜たっぷりのカレーやシチューを作ってあげたいね」


 ケイトの提案に、いいねいいねと頷くミューレとジュリア。そこへ私は八宝菜がいいわとキリアが話しに加わり混ぜっ返し、それもいいですねと三人娘がわいきゃい。

 野営が延長されたため、近くの町へ買い出しに来たキリアと三人娘。朝市は産地の新鮮食材が揃うから、地域住民に影響が出ない程度でどんどん買い込んでいく。


 フローラにグレイデル、そしてシュバイツにヴォルフは未だ就寝中。そんな訳で護衛にはシーフ二人と、ケバブにダーシュが入りましたよっと。ダーシュはキリアに頼まれたからだが、ケバブは勝手に付いて来たとも言う。


「ローレン軍はあとどのくらい野営するのかね? ジャンさん」

「多分あと二日だな、店主。穀物類は余剰があるなら、いくらでも買うぞ」

「ローレン貨幣で現金払い、永遠に駐屯して欲しいですね」

「おいおい無茶言うなよ、女王さまの戴冠式で法王領に行くんだから」


 遺跡調査でジャンとヤレル、この町に滞在したことがあるようだ。朝市の売り子たちとも顔馴染みのようで、うちの店も見ていってよとお声がかかる。

 シーフの二人は傭兵としてフローラと契約しているけれど、その活躍には目を見張るものがある。叙爵してローレン王国の貴族にすべき、そんな声が隊長たちからちらほら聞こえて来ていた。当のジャンとヤレルは、どんな風に考えているのやら。


「あれ見ろよミューレ、美味そうなカボチャだな」

「ヤレルさまは、どんな風にして食べるのが好きですか?」

「天ぷらもいいし煮物もいいし、コロッケも好きだぜ」

「よし買いましょう」


 良い雰囲気になってるなとダーシュが、まるで夫婦のお買い物ねとキリアが、思念を交わし合いぷくくと笑う。ジャンにケイト、ケバブにジュリアはと言えば、シモンズとレイラの披露宴に使う食材探しに夢中。

 従軍司祭の二人はヨハネス司教が進行を務め、軍団から祝福され無事に夫婦となっていた。だが人面鳥騒ぎで披露宴がまだ行なわれておらず、兵士たちが酒宴を今か今かと待ち構えているのだ。


 ちなみにシモンズとレイラ、ルキアのランクが白でディフェンスシールドを使えない。ジャンとヤレルのように青のルキアを取得しようと、二人は一念発起したみたいだ。


 赤のルキア――。

 初級であり、精霊と交信を行ない加護を授かれるようになる。シーフ養成学校では最低でも、赤を取得しないと卒業できない。聖堂騎士も赤の取得が必須で、武人であれば誰でもなれるって訳じゃない。


 白のルキア――。

 初級を脱し、加熱や冷却が可能に。お布施による依頼で肉や魚を冷凍する、教会運営の収入源にもなっている。

 罠や結界を解除する、ディスペルもこのランクから。ただしグリジア王国の元宰相ガバナスが使うような悪しき呪詛となれば、フローラみたいなとんでも性能でないと解呪は無理。


 青のルキア――。

 物理防御である、ディフェンスシールドを発動できるように。加えて魔力を検知する霊的能力が、このランクから大幅に上昇する。


 緑のルキア――。

 魔法防御である、マジックシールドが使えるように。更に回復魔法の基本であるヒールも、このランクから扱えるようになる。


 紫のルキア――。

 法王も含め神官と呼ばれるのがこのランク。完全回復魔法である、レストレーショントゥハースを発動できる聖職者だ。物理防御と魔法防御の複合である、デュアルシールドを展開する大技も会得している。


 いずれにしてもランクが高い術ほど肉体と精神の消耗が激しく、高齢者ではおいそれと使えない。自身の命を代償として削るようなものだから、使いこなせるのは若いうちと言えよう。


 グレイデルは紫のランクに到達しており、フローラは六属性の精霊さんとお友達だからもっと上になるはず。もしランクに名前を付けるとしたら、究極? 至高? 黄金? のルキアだろうか。

 もっとも眠り姫となり、寿命を縮めるのは聖職者と変わらない。精霊界に行って桃源郷の桃を食べるのが、酒宴と合わせる定例行事になりそうだ。精霊女王ティターニアと精霊王オベロンは、待ってましたと大喜びしそうだが。


「あれ? 音楽が聞こえてくる」

「最近この町に来た吟遊詩人さね、ジャンさん。何でも法王庁へ行くんだそうで」

「ああ、吟遊詩人の管理局か」


 それって何をするところなのとケイトが尋ね、代わりに答えてくれたのはキリアであった。吟遊詩人は楽器の演奏や歌声で、魔法を発動できるんだそうな。

 回復や防御に特化した聖職者のルキアとは系統が異なり、コンフュージョ(混乱)ンやチャーム(魅惑)バインド(金縛り)といった精神系を得意とする。


 法王庁の管理局で三級以上に認定されれば、聖職者と同じく大陸全土へ聖地巡礼の旅に出ることが許される仕組み。吟遊詩人の楽曲は各地に残る神話伝承から創作されるため、大陸巡りが吟遊詩人にとっての憧れになっているとキリアは話す。


「あなた達のカンカカーンカン音頭も、ある意味で精神系かも」

「ひどいわひどいわ、キリアさま」

「だってお腹がよじれて行動不能になるんだもの、ケイト」


 憤慨する三人娘に、ころころと笑う兵站隊長さん。精神系にも陰と陽があるんだぜと、ちゃっかり試食でもらった林檎を頬張るダーシュがフォローを入れる。近接戦闘に於いて、相手に一瞬でも隙を与える、その効果は絶大なんだとか。


「中央広場でやってるから、皆さん行ってくるといいヤレルさん」

「ありがとう店主、後でまた来るから」


 そんな訳で広場に来てみれば、買い物に来た町人や村人たちが、みんな手を取り踊っていた。アップテンポの曲で、聞いてるこっちもウキウキしてきちゃう。


「踊ろうか、ミューレ」

「はいヤレルさま」

「俺たちもどうだい、ケイト」

「もちろんです、ジャンさま」

「よっしゃ俺たちも行くか、ジュリア」

「背中にそれだけ武器を背負ってて……まあ聞くだけ無駄か、いいわよケバブ」


 軽快なステップを踏み、手を取って踊り出す三組のカップル。

 奴隷を脱し精神的にも肉体的にも成熟し、胸は膨らみ体の線が丸みを帯びてきた三人娘。以前の幼児体型とは違い、もはや立派なレディである。お針子チームが彼女らのメイド服を、二回新調しているのだから。

 若いっていいわねと、目を細め頬に手を当てるキリア。そんな彼女に俺と踊るかって思念が、聞こえてきたりして。振り向けばそこに、見知らぬ若者が立っていたりして。


「誰?」

「ダーシュだよ」

「……ごめん、もう一回」

「いつから出来るようになったか覚えてないが、俺は人の姿を採れるんだ」


 それなりの衣装を着せたら貴族で通るような、美青年に目をぱちくりのキリア。


「普段からその格好でいればいいのに」

「やなこった、この姿でいると疲れるんだ」


 ダーシュに手を取られ、広場の中へ引っ張られるキリア。恰幅の良いおばちゃんと踊るイケメンが、わんこ聖獣とは誰も気付かない。


「体は大丈夫なのか?」

「あら、あなたには分かるのかしら」

「生き物は生命力を体から発するんだ、オーラっていうのかな。それが俺には見えるから、お前さんが心配だ」

「ふふ、私は今ここで死んでも悔いはないのよ」

「悲しむ者がいっぱいいるぞ」


 そうねと微笑みキリアはステップを踏む、天寿を全う出来れば本望だわと言いながら。天寿がどこにあるか分からない、俺はどうしてくれるとダーシュは困惑する。

 広場は踊る者たちで活気に溢れ、生を謳歌するように輝いている。もちろんキリアも輝いているのだが、ダーシュにはそれが花火のように映っていた。

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