表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

思い出に上書き

作者: 三浦真秀

「オープンカーってズルい。ただのベンツじゃなくてオープンカー。絶対この先、上書き出来ない思い出だよ」

照明の落としたバーカウンターのソファに座りながら、アヤは未練たらたらに嘆いていた。

「それ、もう2年前に別れた人の話だよね?」

アヤの幼馴染のユウスケは、つまらなそうにピスタチオをかじった。

「そうだよ。しかも、絶対二股だった。妹と温泉旅行とか怪しいよね。妹紹介してくれないし」

「もっと真面目な人と付き合いなよ…」

「でもオープンカーでドライブして、夜空の東京タワー眺めて。あの時は幸せだったし、あれを超えられる?ベンツのオープンカーとか、ドラマで金持ちが乗るヤツじゃん」

「あ、すいません。黒ビール」

「ちょっと、ちゃんと聞いて」

「だってもう2年間何百回も聞いた話だもん」

「そうだっけ?」

「そうだよ。酔うと必ずこの店に来てさ」

アヤはピニャコラーダを飲みながら、不服そうな顔をした。

「もう。1人で飲むから帰っていいよ」

「拗ねた。かわいいな」

「は?バカにしてるでしょ」

「はあ…なんでそうなるかなぁ」

最初の頃はアヤの元カレを探してこの店に来ていたが、いつの日か常連客になり、毎週同じ席で同じ話をしている。

1時間ぐらいするとアヤは酔いがまわって無口になる。それがチェックの合図だ。


「アヤ、そろそろ帰ろう」

「なんで別れちゃったんだろう」

「また、その話にループか。今日は俺のに乗ってく?」

「あんたのは自転車でしょ!」

「飲酒運転になっちゃうから、どうせ乗れないけどね」

「真面目か」

「普通でしょ」

「付き合うならユウスケみたいな真面目な人がいいよね」

「付き合ってみる?」

「オープンカーじゃなきゃヤダ」

「自転車もオープンカーの一種じゃない?」

「全然違うよ!」

「はい、はい。おうちに帰りましょうね」

「ユウスケと付き合ったら、別れた時に誰に愚痴ればいいの?」

アヤは立っているのが不思議なくらい酔っていて、ユウスケの肩にもたれかかった。

「はぁ…無自覚にあざといな」

ユウスケはイラつきながらアヤを見つめた。

「ねぇ。どうせ明日には記憶にないとか言うんだろうけどさ。そろそろ付き合おうよ。2年間何百回も言ってるのに都合よく忘れるなよ…」

アヤはユウスケの胸に埋もれながら寝てしまった。


「はぁ…来週は絶対お酒を飲む前に告らなきゃ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ