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銀杖のティスタ  作者: マー
赫灼の匣
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27.真実の一端


「僕のうしろに隠れてっ!!」


 背後のシロー君に向けて叫ぶ。同時に、懐から取り出した数個の植物の種を斜め上に、ひとつは地面に放り投げる。


 事前に準備していた魔力を込めた種子。

 僕が魔術の行使をする際に媒介として使うものだ。 


 植物の種に事前に魔力を込めてあって、好きなタイミングで内包した魔術の発動できる。本来ならトラップのような使い方をするが、今はそんなことを考えている余裕がない。


 数個の種のうち、ひとつは地面に落ちて、その場に数本の樹木を生成する。

 樹木の盾を使って、飛来してくる結晶の槍から身を守った。


 攻撃を防ぎきってすぐに、僕は後退することを選択。

 今の状況で操られた人々を助け出すことはできない。 


「シロー君、一旦身を隠すよ……!」


「はいっス!」


 斜め上に投げた植物の種は、淡い光を放った後に「ぽんっ」と音を立てて控えめに炸裂。種の中から、視界を覆うほどの大量の綿毛が溢れ出した。


 風に乗って種子を運ぶガマやタンポポなどの構造を再現した自然魔術。

 目くらましになるだけではなく、僕の魔力を広範囲に散布できる特性がある。

 その魔力を通じて、相手がどの位置にいるのかある程度わかる。


 それに加えてシロー君の嗅覚もあるので、藤堂 悟道に操られた人々の位置は確実に認識できる。 


 綿毛が充満して視界が遮られた礼拝堂から出て、施設内の廊下を走る。

 シロー君は、背後の様子を確認しつつ追撃を警戒してくれている。


「逃げるのはイイっスけど、ここからどうするんスか!?」


「もし追ってくるなら相手をするしかない。どちらにせよ、操られた人たちを放っておくわけにはいかない」


 黒いローブの人たちが意思に関係なく操られているなら、拘束して動きを封じるしかない。


 そのために必要なのは――


「距離を取りたいから、施設の外に出よう。可能なら森の中で迎え撃ちたい」


 僕の植物を操る魔術を最大限活かせる場所に誘導したい。

 幸い、ここは山奥の施設なので周囲に植物が多い。


「なにか考えがあるんスね、わかったっス。それじゃ、ショートカットで!」


 そう言って、シロー君が立ち止まった。


 足を肩幅に開いて立ち、軽く膝を曲げた体勢のまま深呼吸した。握り締めた拳に魔力を集めて、正拳突きの構えでコンクリート製の壁に鋭い視線を向ける。 


「はァッ!!」


 シロー君の気合の雄叫びと共に「ドンッッッ」という鈍い音が響く。

 放たれた拳は、目の前の分厚い壁を容易くぶち破った。

 狼魔族が生来持っている強靭な肉体と膨大な魔力を掛け合わせたパンチ。


 パンチが壁に当たると同時に魔力を前方に放出することで、インパクトの衝撃から拳を守りつつ、威力を高めている。


「……すごいね」


 素直に感心しつつ、シロー君が作ってくれた壁の大穴から施設の外に出る。

 それと同時に、背後から気配を感じた。


「ヤバい匂いがするっス、離れて!」


「……っ……!」


 背筋が凍り付く悪寒を感じながら、シロー君が壁に空けた穴に視線を送る。

 牧師のローブに身を包んだ老人が笑顔を浮かべながら歩いてくる。


「まったく、困るよ。壁の修繕費、払ってもらえるんだろうね」


 藤堂 悟道。

 飄々とした老人のフリをしているが、明らかに普通ではない。

 さっきの「聞き取れなかった言葉」といい、わからないことばかりだ。


(なんでもいい。情報を引き出しておかないと)


 結晶病による洗脳を解くヒントも欲しい。

 千歳さんが合流するまでの時間稼ぎもしたい。

 無駄だとわかったうえで、問答をしてみることにした。


「悟道さん。あなたは、兵隊を作って戦争でもする気なんですか?」


「今更どうしてそんなことを聞くのかね」


「……正直に言うと、僕は今の世の中に辟易しています。幼いころから魔族や半魔族に対する差別意識に晒されてきたからです。あなたが宗教的な力を使って世の中を変えようとしているのなら、話を聞いてみるのも悪くないかなと思って」


「ふむ……」


 意外にも、彼は僕の話を聞く気になってくれている。

 ウソは得意ではないが、ここは上手く芝居をするしかない。


「柊 冬也……キミの言う通りだ。我々は、日本を、世界を、人類の未来を変えるための準備をしている。より良い人間社会を目指しているよ」


「あなたの言葉に噓偽りがないのなら、僕はあなたに協力をしてもいいんじゃないかと思っています。もちろん、誰かの意思を奪い、洗脳をする方法は許すことはできませんが……」


「協力とは、具体的にどのような?」


「僕の師匠は、国定魔術師であるティスタ・ラブラドライトです。協力を仰げば、あなたの目指す『より良い人間社会の構築』の役に立てるのではないかと」


「なるほど、良い提案だ」


 藤堂 悟道は、パチパチと両手を叩きながら笑っている。

 しかし、その目には明らかに敵意が宿っていた。


「しかし、残念だが……我々の目指す『より良い人間社会』には、魔族と半魔族は含まれていないんだよ」


「なぜですか?」


「その理由は、キミたちには伝わらなかっただろう?」


「さっきの『認識できなかった言葉』ですか」


「そういうことだ。残念だが、我々ではキミたちに真実を伝えることができない。なぜなら、私が呪術師だからだ」


「……ご自分が呪術師であることは認めるんですね」


 彼の口振りからして、僕とシロー君が認識できなかった言葉は「魔族と半魔族が関係していること」であり「呪術師は口外できないこと」なのだろうか。


 背後で僕たちの会話を聞いていたシロー君は、会話に割り込んできた。


「ふざけんな。どうせ、お前たちに都合が悪いことだからオレたちに伝わらないだけだろ」


「く、はははっ! 我々が、呪術師が、世界の真実を隠していると?」


「違うのかよ」


「……ふざけるなよ、狼魔の小僧。元はといえば、貴様の父親がはじめたことだッ!! 世界の真実を隠しているのは魔術師ッ!! 我々はその仕組みに抵抗しようとしているに過ぎないッ!!」


 藤堂 悟道は、鬼気迫る表情で声を張り上げた。

 内に秘めていた怒りを発散するかのように、僕たちを捲し立てる。


「国定魔術師『リリエール・オーベンリーン』と『剣狼マカミ』がこの国に何をしたのか、貴様らは知る由もあるまい!! 人間を騙しているのはヤツらだ!!」


「オレの、親父が……?」


 剣狼マカミ。

 狼魔族最強の戦士であり、シロー君の父親であり、国定魔術師。


 そして、リリエール・オーベンリーンという名前は――


「リリさん……?」


 ティセの師匠であり、僕にとっては大師匠にあたる。

 純粋な魔族であり、ガーユスとも渡り合えるほどの実力がある魔術師だ。


 どうしてふたりの魔術師の名前が今出てくるのか、まったく理由がわからない。

 しかし、考える暇はなさそうだ。


「奴らのペテンに気付けない愚か者共め……身を以って教えてやる……」


 藤堂 悟道は、懐から何かを取り出した。

 それを足元にばらまき、両手で印を結んだ。


「トーヤさん、気を付けて! ヤバいのが出てきそうっスよ……!」


 僕の持つエルフの鋭敏な感覚とシロー君の狼魔族の嗅覚は、これから出てくるであろう脅威の存在を捉えていた。


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