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銀杖のティスタ  作者: マー
赫灼の匣
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24.宗教施設潜入②


 午前0時。


 車を走らせること2時間。

 到着したのは、鬱蒼とした山道。


 車で行けるところまで行って、あとは徒歩で山を登る。

 素人が夜の登山をするのは自殺行為だが、僕たちにはシロー君の嗅覚がある。

 狼魔族の特別な鼻は、目的地である宗教施設まで最短ルートを割り出せる。

 

「……千歳さん、山中に目的地の施設がありました。フクロウの使い魔で視界共有したので、間違いないです」


 こういうとき、夜目が効くフクロウの使い魔は役に立つ。

 静かに飛行して隠密行動をしながら偵察ができるからだ。

 

「ここからは歩きになる。準備はいいか?」


 千歳さんは、車のトランクから白鞘の妖刀「紅鏡(こうきょう)」を取り出す。


 僕も、魔術の行使に使う植物の種の数を確認する。

 種のストックは30個。

 事前に魔力を込めているので、遠隔でも植物を使った魔術を行使できる。


 事前確認を終えて、山道に足を踏み入れようとする僕たちをシロー君が止めた。


「時間がもったいないっスよ。この距離ならオレに任せてください」


 そう言って、シロー君は僕らの前に出る。

 こちらに背を向けたまま、全身に魔力を漲らせた。


「ちょっと待っててもらえますか」


「うん、いいけど……なにをするの?」


「変身するっス」


 言葉の意味がわからなくて首を傾げていると、千歳さんが無言で頷いた。

 これからなにが起きるのかをわかっているようだ。




地狼(ちろう) 疾駆(しっく)諸相(しょそう)


  


 聞き慣れない詠唱と同時に、シロー君の魔力が膨れ上がる。

 全身から溢れ出る魔力が、彼の体を包み込んでいく――。


「……大したもんだ。キミの歳で完全な変化もできるのか」


 千歳さんが嬉しそうに呟く。


 僕は、ただ唖然とすることしかできなかった。

 文字通り、シロー君が「変身」をしたからだ。


『すみません、お待たせしたっス』


 目の前には、体長2メートルを超える灰色の巨狼。

 闇夜に光る金色の瞳はオオカミそのもの。

 言葉は、直接脳内に響いているかのように聞こえる。


「シロー君……だよね?」


『そうっス。驚かせてすみません。滅多に使わない魔術なんスけど、今は緊急事態っスから。ふたりとも、どうぞオレの背中に乗ってください』


 千歳さんと一緒に巨狼と化したシロー君の背中によじ登る。


 ……信じられないほど触り心地が良い。

 まるで高級毛布みたいだ。


「これイイ~……ウチに欲しいかもぉ……」


 千歳さんは、さっきまでの緊張感がウソみたいにシロー君のモフモフな背中に顔を埋めている。


『ちょっと千歳さん、顔を擦り付けるのやめてほしいんスけど』


「おっと失礼。魔性の毛並みだったもんで、つい……」


『変なこと言ってないで、どこでもいいから捕まってください』


 巨狼化したシロー君は、身を屈めて力を溜める。

 魔力によって、漆黒の狼爪(ろうそう)が白く発光する。


『口を閉じててくださいね……舌を噛むかもなんでッ!! 行くっスよ!!』


 合図と共に「ドンッ!!」という衝撃音が山中に響く。

 次に目を開けたときには、僕たちは闇に包まれた森の中にいた。


「ちょ、速っ、シロー君……!!」


 自分が風になったような気分をはじめて味わった。


 目的地に最短で向かうための効率的な疾走。

 車と同じくらいのスピードで、木々の間を駆け抜けていく。

 狼魔の健脚は、過酷な山道をものともしない。


「ははは、こりゃいいや! シロー君、タクシーでもやったらどうだっ!?」


 巨狼と化したシロー君の背中にしがみつきながら、千歳さんが冗談を飛ばす。

 こんな状況でなければ、僕も今の状況を心から楽しんでいたと思う。


『また変なこと言って!……ほら、着きますよ!』


 本来なら昇るのに1時間は掛かるはずの山道をたった5分で登り切って、一気に目的地の宗教施設の前まで到着した。


「いやぁ、キミを連れてきて正解だったよ」


『そりゃどーも。問題はこっからっスけどね』


 施設前に到着した途端、僕たちの進路を遮るように人影が現れた。

 ざっと見て30人前後。

 全員、フードの付いた黒いローブを着込んでいて顔は見えない。


 明らかに歓迎はされていないようだ。


「大歓迎じゃん。トーヤ君ってば人気者~」


「こんな状況で何を言っているんですか、もう……」


 千歳さんの楽しそうな様子にちょっと呆れつつ、シロー君の背中から降りる。


 施設入口の大きな門を守るように展開する黒いローブの集団は、両手を僕たちに向けて差し出す。


「ふたりとも、私の後ろへ」


 前に出た千歳さんは、白鞘から刀を抜いた。

 月明かりを浴びた深紅の刀身が妖しく光る。


「私は優しいから念のため聞いておくけど、あんたらは被害者? それとも加害者か? 前者だったら優しく痛め付けてやる。後者なら死ぬ手前まで痛め付けるけど……さて、どうするよ?」


 千歳さんの持つ妖刀が紅く光りはじめる。

 今度は月明かりの反射ではなく、本当に刀そのものが発光していた。

 同時に、千歳さんの瞳と髪が血のように紅く染まっていく。


「私なぁ、子供に迷惑を掛ける輩が本当に大嫌いでさ……今日はマジで機嫌が悪いんだ。スピード解決するためにも本気でいくからな」


 かつて、銀杖の魔術師ティスタ・ラブラドライトと対等に渡り合った呪術師・宝生 千歳の全力。


 彼女の身から迸る呪力は、味方であるはずの僕とシロー君を戦慄させた。


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