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銀杖のティスタ  作者: マー
赫灼の匣
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21.紅い錠剤


 少年の名前は真神まかみ 士狼しろう

 狼魔族と人間のハーフであり、僕と同じ半魔族。


「オレのことはシローって呼んでください。あなたに会いたかったんスけど、こんな方法しか思いつかなくて」


「たしかに、これはちょっとやりすぎかも」


 ビルの壁に刻まれた巨大な爪跡を見て、僕は苦笑いするしかなかった。

 ちょっとした傷ならともかく、ここまで被害が大きいと器物損壊罪になる。


「すみません……トーヤさんやティスタさんだけを呼び出そうにも、便利屋には呪術師もいたから……」


「……そうだよね。気持ちはわかる」


 人間と魔族の共存が日常になった今でも、魔族や半魔族は呪術師を信用していない者が多い。千歳さんと会うことを避けたかったのだろう。


 千歳さんは、ガーユス封印のために奔走した呪術師として名前と顔が世の中に認知されている。シロー君が知っていてもおかしな話じゃない。 


 僕やティセだけとコンタクトを取るため、彼なりに考えた方法が魔族・魔術絡みのトラブルを起こすことだった。こういった場合、現場に来るのは大抵日本にいる魔術師。今の状況、ある程度は彼の狙い通りだったのだ。


「正直、呪術師だけじゃなくて大人も信用できなくて……でも、トーヤさんは信用できるっス。カノンもそう言ってましたから」


 シロー君の口からカノンさんの名前が出るということは、つまり――


「……なるほど。カノンさんの捜索依頼は、僕をシロー君の元に誘うためのウソだったってことなのかな」


「はい。回りくどい真似をしたうえに、騙して申し訳ないっス」


 シロー君が深々と頭を下げた。

 

 千歳さんには「お人好しすぎる」と言われそうだけど、困っているなら助けてあげたい。

 

「本題に入ろうか。僕に、何をしてほしいの?」 


「依頼を引き受けてほしいっス。今、誰を信じていいのかわからなくて」

 

 依頼内容によるが、できれば引き受けてあげたい。

 彼の表情を見れば、事態が深刻なのは明白だった。

 

「わかった。話を聞かせてもらうよ」




 ……………




 シロー君と一緒に、彼が今の根城にしているという廃ビルに向かう。


 場所は、街中から遠く離れた旧市街。

 開発があまり進んでいない地区で、廃ビル周辺には住人がいない。

 ビル内はそれほど荒れていないので、隠れ家にするなら悪くない場所だ。


「子供ばかりだね……」


 ビルの中に足を踏み入れると、未成年の子供たちが肩を寄せ合っていた。

 

 ざっと見て約30人。

 その中には制服姿の子供もいる。

 

 スマートフォンのライトしか周囲を照らせるものが無いみたいで、ビルの中は真っ暗。冷たいコンクリートの床に座る子供たちは、大半が疲れ切った表情をしている。


 異様な光景に緊張が走る。

 僕たちの知らないところで、間違いなく何かが起こっている。


「こちらっス」


 案内されたのは、会議室のような場所。

 その奥に、月明かりに照らされた人影が見えた。

 入室した僕を見て、見覚えのある少女が駆け寄ってくる。


「せんせー! 来てくれたんだね!」


 事務所に来たときと同じ笑顔で話しかけてくる。

 僕に捜索依頼をしたカノンさんだった。 


「カノンさん、ここにいたんだね」


「うん。騙すようなことして、本当にごめん……」


「大丈夫、気にしてないよ。それだけの状況なんだってわかってる」


「せんせーがいれば、百人力だよ。今の状況、ずっとは続けられないし」


 明るく振る舞ってはいるけど、カノンさんの表情からは不安が滲み出ている。


 この子たちがここまで手を尽くして、僕とコンタクトを取った理由を聞かなくてはいけない。ひとつずつ、シロー君に質問してみる。


「このビルに集まった子供たちは、ここで何をしているの?」


「避難っス。今、帰る場所がない連中なんスよ」


「家庭に居場所がない、という意味で?」


「正確には『帰る場所を奪われた』っスね」


 深刻な事態というだけではなく、緊急で解決する必要がある依頼だ。子供だけで身を寄せ合って避難する必要があるなんて、どう考えても普通じゃない。


「みんな、ある日を境に『自分の親の様子がおかしい』って気付いたらしくて。極端に穏やかになったかと思えば、急に怒りだしたり、周囲の物に八つ当たりしだしたり……酷い場合は、親から直接暴力を振るわれるヤツもいたらしいっス」


「なるほど。それだけなら警察や児童相談所に相談した方がいいけど……何か原因があるって気付いたってことかな」


「そうっス。これ、見てください」


 シロー君がポケットから出したのは、小さな袋に入っている深紅の結晶。

 形は錠剤のようで、水なしでも飲み込めるほど小さなものだった。  


「薬物……」


 薬物による急な性格の変化。

 御手洗くんの失踪事件のときに前例を見ている。


 錯乱状態の彼は、間違いなく何かを飲み込んだ。

 それが結晶のようなものだった覚えがある。

 この錠剤が同じものだとしたら――


「コレ、最近できた宗教組織が信者に配布していたものらしいっス」


「どこでその情報を知ったの?」


「オレ、狼魔族のハーフなんで鼻が利くんスよ。それを活かして、いろいろと調べたっス」


 どうやらシロー君は僕が思った以上に優秀であると同時に、危険なことに首を突っ込んでいるようだ。


「このビルに避難してる子供全員、家族から紅い錠剤を無理矢理飲まされそうになったって聞いてるっス。何なのかわからないけど、明らかにヤバいものっスよ」


「警察には相談した?」


「ちゃんと通報したヤツもいたらしいっスけど、警察って家族間のトラブルに積極的に介入はしてこないし、家出したところで自宅に連れ戻されるだけっスから。根本的な解決はできないし、状況が悪くなるだけっス……」


「……うん、確かにそうだ」


 思っていた以上に危険な状況。

 早急な解決のためには、多くの人手がいる。


 しかし、シロー君たちは大人を信用できていない。

 こんな回りくどい真似をしてまで、僕だけとコンタクトを取ったのだから。


「シロー君。キミは気が進まないかもしれないけど、提案がある」


 悔しいけど、僕ひとりで解決できる範疇を超えている依頼と判断。

 僕が最も信頼している者たちを助っ人として呼ぶことにした。


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