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銀杖のティスタ  作者: マー
赫灼の匣
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13.魔界遺物


 状況整理のため、ティセと一緒に便利屋の事務所で情報を共有した。

 僕が受け取った「赫い匣」について、ティセに聞いてみることにした。 


「……その話、本当ですか?」


「はい。現実に持ってこれたのかはわかりませんが、夢幻から目覚める前に赫い匣を受け取りました」


 僕がガーユスから赫い匣を譲ってもらった話をすると、ティセは困惑していた。

 受け取った匣が本物なら、魔術師の世界において重要な代物らしい。


「詳細はわかりませんが、その赫い匣が唯一無二の貴重なものであることは確かです。良い機会なので話しておきましょう。魔術や呪術において『匣に力を込める』という手法は古代から存在していました」


 匣という形状には、魔術や呪術において大きな意味があるという。


 中に込めた異能の力を封じておきやすく、好きなタイミングで解き放つことができる。使いようによっては爆弾のようにもできるのだとか。


「例えば、人間世界でも異能の匣が存在します。インターネットのオカルト界隈で『コトリバコ』なんて呼ばれ方をしているそうですが」


「へぇ、そんなものが……」


「スマホで調べればすぐに出てきますよ。本当に便利な世の中になりましたね」


 試しに自分のスマホで「コトリバコ」とインターネット検索してみた。

 オカルト専門まとめサイトの文章を読んでみると、物騒なことしか書いてない。


「一族の断絶……即効性と不可避性……物語の閲覧者にも影響がある……?……材料は子供の指、へその緒、メスの動物の血……おぞましいですね……」


 見た目は「パズル上に組み合わさった精巧な作りの木箱」とされている。

 木箱に入れた子供の数に応じて呪いの強さが変わるという設定もあるらしい。

 フィクションとはいえ、その中身を想像したくない。


「ちなみに魔界を滅ぼしたオカルト兵器『呪害』は、この匣を原型としていると千歳さんから聞いたことがあります」


「これ、フィクションじゃないんですかっ?」


「半分はフィクションだそうですけどね」


「もう半分は事実ってことですか……」


「開ければ呪いを拡散させる凶悪な爆弾。匣の呪物には、そういったものが多いそうです」


 魔界を滅ぼしたというオカルト兵器・呪害も「爆弾」だったと聞いている。

 

 呪害がコトリバコの作成手法と同じだったとして、いったい何人の子供を犠牲にして作られたのだろうか。魔界を滅ぼす規模の呪いの匣となると、想像を絶するほどの命が使われたはずだ。正直、考えただけで気が滅入る。


「これらの前提を踏まえたうえで、赫い匣の正体について心当たりがあります」


「まさか、僕が受け取ったのも呪いの匣なんじゃ……」


「いいえ、ガーユスが所持していたことを考えると、呪術ではなく魔術的な代物ではないでしょうか。おそらく『魔界遺物(まかいいぶつ)』……かつて赤魔氏族が秘蔵していた氏族の宝。名称までは伝わっていませんが、氏族の長が代々受け継ぐ魔法の匣です」




 魔界遺物。

 それは、かつて「魔界の至宝」や「神の武器」と呼ばれていたもの。

 

 魔界を守る神々が「外界からの脅威」に備えて作り上げた兵器・武器であり、魔界に住まう魔族と人間に神様が与えた強大な恩恵という言い伝えがあるらしい。


 


「これが魔界に伝わる御伽話(おとぎばなし)です。魔法の匣には千の悪魔を討ち滅ぼす武器が封じてあって、それを使って魔界の英雄が外界からの侵略者を退けたとされています。そして、それらは実在するんです」


「ちなみに、実在すると確信する理由は?」


「簡単な話ですよ。私も所持していましたから」


「初耳ですがっ!?」


「キミが弟子になる前に手放しました。危険な魔界遺物なので、とある場所に封印しています。あまりに扱いづらく、普段使いできない代物でして」


 ティセは「銀魔氏族」と呼ばれる魔界生まれ・魔界育ちの人間種族の末裔。

 ガーユスと同じく、銀魔氏族にも一族に伝わる秘宝があったらしい。


 魔術師としての知的好奇心が抑えられず、ティセが所持していた魔界遺物について聞いてみる。


「ティセが持っていた魔界遺物は、どのような魔術を使えたんですか?」


「制御を誤ると、世界を滅ぼす魔術です」


 返ってきた言葉に自分の耳を疑う。

 ティセの表情は、ウソや冗談を言っている感じではない。


「大丈夫ですよ、安心してください。厳重に封印してありますし、もう私には使えないので」


 すっかり暗くなった窓の外を見ながら、ティセは寂しそうに笑った。


「神々が造り出した魔界遺物は、所有者を試す意思のようなものが宿っています。所有者が正しく力を使える者でない場合、絶対に使うことができません。私は、とっくの昔に銀魔氏族の魔界遺物を使う資格をなくしているのです」


 窓際に立って夜空を見上げるティセ。

 背中を向けているから、彼女の表情は伺い知れない。


 ティセにとって、銀魔氏族の魔界遺物は「滅ぼされた一族の形見」そのもの。

 それを扱う資格を失った彼女の絶望は計り知れない。


 僕に背中を向けたまま、ティセは話を続ける。


「仮に赫い匣が本当に魔界遺物だとすれば、ガーユスは『トーヤ君になら扱えるかもしれない』と判断したのでしょう。私との戦いで魔界遺物を使わなかったのも、私と同じように資格を失っていたのかもしれませんね……」


「ガーユスは、僕に氏族の宝を……そんなに大切なものを……」


 あの地下深い闇の中、樹木と化して孤独に佇むガーユスは、どのような心境で赤魔氏族の至宝を僕に託したのだろうか。この匣を受け取った意味どころか、使い方すらわからない。


「ひとつ教えておきます。キミに魔界遺物を扱う資格ができた場合、必ず赫い匣の名前がわかるはずです。覚えておいてください」


「そういえば、ガーユスから匣を譲ってもらったとき、ノイズが掛かったように名前だけが聞き取れませんでした」


「匣を扱える条件がどのようなものか、これから検証していくしかありませんね。一緒にがんばりましょう」


「……はい。よろしくお願いします」


 振り返ったティセは満面の笑顔を浮かべていた。

 こんな顔をするのは、無理して作り笑いをしているときだ。


(条件や資格、か……)


 ティセやガーユスのような上澄みの魔術師たちが扱えないものを自分が使えるとは思えない。


 赫い匣を扱う資格や条件とは、いったいなんなのだろうか。

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