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銀杖のティスタ  作者: マー
銀杖の魔術師
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64.枯死封印①


 眼前で繰り広げられる高位魔術師の戦い。その最中、ガーユスの意識が僕から完全に外れたタイミングで背後から不意打ちを加えた。


 僕個人は、ガーユスを単独で倒せるほどの実力は持っていないし、ティスタ先生のように正面切って戦うだけの経験は無い。卑怯な手であっても、背後からの奇襲や罠を遠慮なく使うつもりでいる。


(準備はできた。あとは――)


 ここからは持久戦。先生との戦いで魔力が減っているとはいえ、相手は魔術師最高峰の実力者。気を抜けば命は無い。


「次の相手は、キミってことでいいのかな?」


 ティスタ先生を守りながら戦おうとする僕を見て、ガーユスが笑う。


「トーヤ君、私のことはいいので……相手に集中して……」


「大丈夫です」


 先生の身を赫灼の魔術から守るため、魔術除けのヒイラギを生成する。


「足手まといになった師匠を守るなんて、キミは本当にお人好しだね」


「…………」


 ガーユスは小馬鹿にするように笑っているが、以前のように僕を取るに足らない小僧とは思っていない。彼の身を包む魔力が前回戦った時とは比にならないほど多いのは、僕個人を警戒すべき対象として認識しているからだ。


 先程のような不意打ちが通用することはもう無い。


 魔力切れで動けないティスタ先生を守るためにも、意識を僕だけに集中させなくてはいけない。


「同じ半魔族という身の上だし、キミとは本当に仲良くしたいと思っているんだ。改めて俺と――」


 ガーユスの言葉を最後まで聞かず、魔術を行使。地面に手をついて魔力を流し込み、樹木でガーユスを雁字搦めにして捕らえた。


「……まったく、師匠と似て話を聞かないな。自然魔術で俺は止められないよ」


 ガーユスは全身に魔力を滾らせ、体に絡みつく樹木を赫灼の魔術で消し炭にしようとする。以前は容易に灰にされたが、今回は着火しても簡単に燃え尽きない。


「……驚いたな。炎熱防御の魔術か?」


 赤魔氏族の末裔が教えてくれた「熱と炎から身を守る魔術」を付与した樹木は、5秒ほど燃え尽きずにガーユスを捕らえ続ける。


「短い期間で対策してきたか。俺の魔術について、しっかりと調べたみたいだね」


 嫌味ではない、本気の賞賛。ガーユスが不気味なほど優しい笑みを浮かべる。


「じゃあ、本気でいこうか」


「……っ……!」


 手のひらをこちらに向けて、収束させた魔力を炎に変えて放つ。


 眼前に迫る紅蓮の業火を防ぐため、多数の樹木を生成。水分を多く含む樹木と炎熱防御の魔術を組み合わせた防火林でガーユスの放った火炎を凌いだが、同じ手段を何度も使えない。


 ティスタ先生の「銀の魔術」のように効率良く魔術を組み合わせているのではなく、魔力行使2回分の魔力を強引に合わせる力業。僕の魔術の扱い方は、かなり燃費が悪い。


「はははっ! 俺の本気の炎を防げる魔術師なんて滅多にいない! 誇っていいぞ!」


 ティスタ先生とあれだけ派手に戦った後だというのに、ガーユスの魔力量は余裕がある。強大な魔術出力を保っていることを考えると、少なく見積もって残り魔力は4割程度といったところ。


 逆転の布石は既に打ってある。ここからが正念場だ。


「他者を見下して、暴力で解決しようとするのは迷惑ですよ……!」


「暴力による解決は、愚人共がやってきたことだ。キミは、海外で生きる魔術師や魔族、俺達と同じ半魔族が……どのような扱いをされているか知らないだろう!」


「ぅぐっ……!?」


 樹木で作り上げたバリケードは、ガーユスの放った炎で徐々に崩れていく。防戦一方、ここで引けばティスタ先生も無事では済まない。


「人間の実験動物になった同胞を何人も見てきた! 廃人となった魔術師や魔族を見たことがあるか!?」


「あなたの一族も、赤魔氏族(せきましぞく)も……?」


「そうさ、俺の一族は人間世界のためにと魔術を広めた挙句、最期は使い捨てにされた! だから――」


 ガーユスが赤魔氏族を滅ぼしたのは自分の意思ではあったが、無闇に殺しをしたわけではない。


 赤魔氏族の末裔が見せてくれた手記の中には、歴史の記述もあった。過酷な人体実験に利用されていた赤魔氏族の魔術師は、死んだ方がマシと言えるほどの状態で生き永らえた者が大半だった。ガーユスは、そんな同胞達の介錯をしていた。


 数々の犯罪行為や殺戮を許すことではないが、凶行に至る理由は今の世界と人間にある。彼は「人間の悪意と環境が産み出した化け物」だ。


 今の彼は、ティスタ先生に出会えなかった僕の未来の姿。あの時、先生に助けてもらえていなかったら、僕もガーユスと同じ存在になっていのではないかと思う。


 人間への恨みに身を任せてしまった、あったかもしれない未来の自分の姿。


 彼の境遇には同情をするし、行動に理解もできる。歯止めが利かなくなってしまったのだろう。振り上げた拳を簡単に降ろせないのは、人間も、魔族も、半魔族も同じなのだ。


 自分の手で一族を殺した罪悪感、人間への怨嗟、人間と慣れ合う魔術師や魔族への嫌悪から、引き下がれないところまで来てしまっている。


 それでも、これ以上好き勝手を許すわけにはいかない。ガーユスは、僕が大切にしている者達を傷付け、殺したのだから。


「どうした! 俺を殺しに出てきたんじゃないのか? このままだと、キミの大切な師匠も死ぬぞ!」


 夥しい量の火球が樹木のバリケードを焼き削っていく中、燃える樹木からいくつかの燃える塊がガーユスの周囲に散らばっていく。


 地面に転がったのは、木の実。小さなカボチャのように見える塊は、実在する樹木「スナバコノキ」の実を魔術で再現したもの。


 スナバコノキの別名「ダイナマイトツリー」は、熟すると爆発しながら種を撒き散らす実をつけることから名付けられた。


 実が炸裂した時の威力は驚異的で、時速240キロのスピードで種を飛び散らせる天然のクレイモアである。


「なん――」


 ガーユスが異変に気付く前に足元のシードグレネードは熱によって破裂。飛び散った植物の種は、数多の銃弾のようにガーユスへ襲い掛かる。


「が、はっ……ぐっ……!?」


 予想外の攻撃を受けたガーユスが攻撃の手を緩める。


 最初の一撃にしても、今回の種の爆弾にしても、同じ不意打ちは何度も通用しない。僕が今から使う「最後の一手」も失敗すれば次は無い。ガーユスは、間違いなく対応策を講じてくる。


 唯一無二のチャンス、先生が消耗させて、僕が隙を作った。ガーユスを封じるなら、間違いなく今この瞬間。エルフが未来に遺してくれた封印魔術行使のため、魔界の言語での詠唱を開始する。


『……――――……』


 人間の世界で知る者は少ない「魔界の言語での詠唱」と「両手を使った相印」を組み合わせることによって行使が可能になる封じの魔術――古のエルフが遺した封印魔術・枯死(こし)封印(ふういん)


 目の前の魔術師を封じるため、自分の中にある全ての魔力を解放した。


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