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銀杖のティスタ  作者: マー
銀杖の魔術師
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58.ふたりの休息


 先生が米に洗剤を使おうとした時はどうなることかと思ったけれど、無事に夕飯は完成した。料理の経験が少ないだけで下手というわけではないようだ。


「ごちそうさまでした、先生」


「いえいえ、結局手伝ってもらっちゃいましたし」


 ふたりで夕食を済ませて、食後の休憩中に急な訪問の理由を聞く。祖母から僕の警護をしてほしいとお願いされたそうだ。


「おばあ様から正式な依頼としてトーヤ君の警護を請け負いました。今日からしばらく一緒に生活させてもらいます」


「おばあちゃん、いつの間に……」


 一時的とはいえ、憧れの女性と同じ場所で過ごせる。平和な状況だったら楽しめただろうけど、ガーユスのことを考えると気を抜けない。


「落ち着いたことですし、再確認をしましょう」


「例の件ですね」


 ガーユスの動向は未だ掴めず、いつ、どこに現れるかわからない。いっそ相手が現れやすい環境とタイミングを自分達で作ってしまおうと考えた。リリさんが戦線から一時離脱した今のタイミングをガーユスが見逃すはずがない。


「前にも話しましたが、以前戦った時は私と千歳さんでギリギリの戦況でした。今回もガーユスが同じような戦い方をするとは思えません」


「はい、あらゆる事態を想定しておきます」


「ガーユスが現れた時、不測の事態で千歳さんと分断された場合でも「予定通り」に事を進めます。私が最初にガーユスの相手をします。私が殺されそうになっても合図を出すまで絶対に待機していること。約束ですよ」


「…………わかりました」


 あらゆる事態を想定して打ち合わせをしてきた。


 ガーユスとの戦い方は、2度戦ったティスタ先生が一番理解しているし、一番槍に適任なのは自分だと言っている。


 僕がガーユスと戦った時は、市民や街を守ることに徹するしかなかった。先生なら人々を守りながらガーユスと互角に渡り合える。


「できる準備はすべてしたので、あとは体を休めて英気を養いましょう。夜も一緒にキミの警護に当たるので、安心して寝てくださいね!」


「……一緒に寝るってことですか?」


「当然です。そのために来たのですから」


 一緒の部屋で憧れの女性と寝ることになるとは思っていなかった。緊張して寝れなくなったら本末転倒だが、断れる空気ではない。




 ……………




 寝室に2枚の布団を並べて敷いて、ティスタ先生と一緒に夜を過ごす。ティスタ先生はわざわざ自分で布団をくっつけてくる。


「せっかくなら魔術の小話でもしながら寝ましょうか」


「は、はい……」


 好きな女性が寝着姿で隣の布団に入っていると考えると落ち着かない。当の本人は、僕の気も知らずに魔術の話をはじめた。


「日本に来て千歳さんと一緒に便利屋を開業した頃の話です。昼の休憩時間、私はテレビを見ながらお昼のコンビニ弁当を口に運んでいました……」


 ティスタ先生が便利屋として駆け出しの頃の話。布団の中で仰向けに寝ながら先生の話に耳を傾ける。


「当時、とある老夫婦のお話を放送していたんです。体を壊してしまった夫、介護をする奥さんのドキュメンタリーでした。感動する内容で、テレビに視線が釘付けになったのですが――」


「……なにかあったんですか?」


「そのドキュメンタリー、実は粉末青汁の通販のCМだったんです! 真面目に見て損をしましたよ!」


「よくありますよね、そういうの!…………魔術は関係ないですね」


「……あ、確かに。すみません、他の話にしましょうか。千歳さんが仕事先からヤバい呪物を持ち帰ってきて、事務所の中が1ヵ月もポルターガイストに悩まされた話とか。私の仮眠室まで影響が出て最悪でした」


「イヤな依頼ですね」


「半ば押し付けられたらしいので、貧乏くじを引いたんですよ。箱型呪物だったんですけど……中身を確認したら干からびた人間の指が大量に出てきて、生きた心地がしませんでしたねぇ……」


「うわぁ……でも、魔術は関係ないですよね……」


「……確かに。こうして思い出してみると、魔術絡み以外だと散々な目に合ってますね」


 便利屋での様々な経験をいくつか聞かせてもらったが、人生経験豊富な先生の話は面白くて不思議が多い。


 これからも先生と一緒に過ごせば退屈しない。魔術師として、便利屋の一員として頑張っていきたいという思いが強くなっていく。


「……そろそろいい時間ですね。寝ましょうか」


 布団から起きた先生が、寝ている僕の額に人差し指の先を当てる。


「キミとお話をしているのは楽しくて、つい喋り過ぎてしまいます」


「僕も、です……」


 指先から放たれた青白い光を見て、眠気が強くなる。見習い魔術師だった頃、入院中の僕に使った誘眠の魔術だ。


「……おやすみ、トーヤ君。明日も頑張ろう」


「はい、おやすみ……ティセ……」


 ほとんど知る者のいないティスタ先生の愛称を呟くと、先生が頬を赤く染めながら頷く。大好きな人に見守られながら、僕は久しぶりに深い眠りについた。


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