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銀杖のティスタ  作者: マー
銀杖の魔術師
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54.赤魔氏族の末裔


 車で迎えに来てくれた兄弟子と一緒に病院へと向かう。


 入院している魔術学院の生徒達は経過良好とのことで一安心。お見舞いに向かう途中、生徒の保護者と学院の教師達が僕を出迎えてくれた。


「本当にありがとうございます……なんとお礼を言ったらいいのか……」


 保護者の方々は、僕に向かって深々と頭を下げる。


 中には亡くなってしまった生徒の保護者もいる。ご遺体の修復と衛生保護をしたのが僕だと聞いて、辛い状況の中だというのに挨拶に来てくれたのだ。


 命を失ってしまった彼等にできるのは火傷跡を消してあげることくらいだったけれど、決して無駄な行いではなかったと思いたい。


 保護者の方々に挨拶を済ませた後、病室へと向かった。




 ……………




 集中治療室から通常の病室へと移った生存者、彼女の名前はエイミー。留学時に彼女と会話をする機会は少なかったが、同じ教室で授業を受けたこともある。


「お呼び立てして申し訳ないです……」


 エイミーさんは、僕の姿を見てベッドから起き上がる。


 彼女も生死の境を彷徨っていたが、生存者5名の中で最も火傷が少なかった。現在は起きて話ができるくらいに回復している。


「順調に回復しているようで安心しました」


「あなたのおかげです。本当にありがとうございます」


 挨拶を終えた後、本題に入る。


「両親や先生から話を聞いて、今の状況を把握しています。お時間を取らないように簡潔に……」


 エイミーさんは、古びたメモ帳を僕に渡してくれた。


「これは?」


「祖母が遺してくれた手記です。赤魔氏族の魔術に関する記述があります。今のトーヤさんのお役に立てるのではないかと思って」


「どうして、その情報をあなたが――」


 まだ火傷が少し残るエイミーさんの顔を見て、僕は思い出す。


 彼女は、留学中にティスタ先生が行った魔術実習の時、火球の魔術を使っていた女の子。ガーユスほどの規模ではなかったが、火を操る魔術を身に着けていた。


「もしかして、キミは赤魔氏族の末裔?」


「はい、そうです。祖母が赤魔氏族で、孫の私にも赫灼の魔術が扱えます。ガーユスに比べると魔力は少なく、未熟ですが……」


「そうか、だからキミが最も軽傷だったんだね」


 赫灼の魔術を扱う魔術師は、熱から身を守る手段を身に着けていると予想していたのは正解だった。彼女が炎で身を焼かれても致命的な火傷を負わずに済んだのは赤魔氏族の末裔だったから。


 そして、ガーユス襲撃時にエイミーさんの周辺にいた4人の生徒が生き残った理由も同じ。彼女が赫灼の魔術で熱防御をしたから、致命的な火傷を負う前に周囲の見習い魔術師達は生存した。


「私の未熟な魔術では……みんなを守れませんでした……」


「……いいえ、あなたのおかげで助かった命がある。どうか自分を責めないで」


「ありがとうございます。赤魔氏族の赫灼の魔術は、本来なら門外不出なのですが……今はそんなことを言っていられないと思ったんです。手記には、赫灼の魔術の特徴と欠点が記してあります」


「読ませてもらうね」


 ガーユスが隠蔽しようとした赤魔氏族の魔術の特徴・弱点。あらゆる推測が確信に変わる。


 赫灼の魔術は、自分の周囲で一定以上の熱エネルギーを確認した瞬間に物理的防御から熱防御に特化した魔力を纏うようにプログラムされている。ガーユスに限らず、攻撃の瞬間に必ず隙が生まれる。カウンターが有効ということだ。


 戦いの最中、僕が最後の抵抗のつもりで放った魔術がガーユスに命中したのは、物理防御が熱防御に変わる瞬間と偶然重なったから。


 赫灼の魔術は一族相伝だったので、赤魔氏族以外は弱点を把握していなかった。ガーユス自ら赤魔氏族を滅ぼし、格上の相手との戦闘を極力避けていたのも理由だろう。


 弱点はわかったが、並の魔術師では一瞬で炎に焼かれて反撃すらできない。ティスタ先生やリリさんくらいの実力者でないと、ガーユスとは勝負にもならない。


 突破口を開くには、この情報を活かさなくては。


「……ありがとう。とても参考になった」


 彼女に向けて深々と頭を下げた後、手記の内容を自分のメモ帳に写させてもらった。これらの情報を無闇に拡散しないと約束もした。


 病室を出る前、エイミーさんは僕に向けて震える声でお願いをしてくる。


「手前勝手なお願いで申し訳ありませんが、私達のような者がまた出ないように、どうかガーユスを止めてください……」


「魔術師として最善を尽くします。今はゆっくりと休んでください」


 赤魔氏族の末裔として、エイミーさんも責任を感じている。彼女の言葉を深く胸に刻み込んで、今後の方針を固めるために行動を開始した。


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