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銀杖のティスタ  作者: マー
銀杖の魔術師
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32.学院での授業


 エドガー先生に案内してもらって、魔術学院3年生の教室へと足を踏み入れた。


 教室の内装は普通の勉強机と椅子、教壇には大きな黒板。壁には年季の入った振り子時計や絵画などが飾ってある。


 事前に話を聞いていた通り、魔術学院の生徒は30人と人数は決して多くない。中でも3年生は更に少ないようで、教室の中には7人ほどしか生徒はいなかった。


 エドガー先生に続いて教壇に立って、生徒達へ挨拶をする。


「はじめまして、こんにちは。今日から短期留学生としてお世話になる柊 冬也です。よろしくお願いします」


 僕の自己紹介を聞いて、生徒達は反応無し。僕の顔をじっと見ながら、固まったまま動かない。無視したというより、緊張しているといった印象を受ける。


「冬也様、あちらの席へどうぞ」


 あまり歓迎されていないのかもと不安になっていると、女子生徒のひとりが緊張の面持ちをしながら話しかけてきた。


「同級生なので……様付けなんてしなくても大丈夫です」


「いえ、滅相も無いです! あのティスタ様のお弟子様ですし……」


 国定魔術師の弟子というのは、僕が思っている以上に立場が上みたいだ。彼等の緊張がティスタ先生に対する敬意と考えると、僕の師匠はやっぱりすごい御方らしい。




 ……………




 簡単な自己紹介を終えた後、生徒達と一緒に授業を受けることになった。


 エドガー先生の授業は丁寧でわかりやすい。中にはティスタ先生から教えてもらった内容もあったが、これはこれで復習になる。


(僕、弟子入りして半年で3年生の授業と同じ内容を聞いていたのか……?)


 こうして授業を受けていると、僕は普通の魔術師が習う段階をいくつか飛ばして魔術を学んでいたことに気付く。


 僕の身体に流れる魔族の血のおかげなのか、魔術的な知識の吸収は自分でも早いとは感じていた。普通の高校生の授業は並くらいの成績だったけれど、魔術関連の知識は自然と頭の中に入って、忘れることはない。


 今日の授業、特に「魔術工学」の分野はまだ習ったことがない内容だったので勉強になる。ノートを取りつつ、自分なりの解釈を交えてメモをしていった。


 休み時間なると、隣に座っていた男子生徒が文字をびっしりと書き込んだ僕のノートを興味津々な様子で覗いてくる。


「……すごいっすね」


 学院に来てから初めて生徒から話しかけてくれたのは、活発な印象を受ける黒髪短髪の男子生徒。魔術師というより、体育会系に見える容姿をしている。


「エドガー先生の授業、とても勉強になります。あまりこうしたジャンルを学んだことがなかったので」


「あ、敬語じゃなくていいっすよ」


「ありがとう。僕にも気軽に話しかけてくれると嬉しいよ」


 話しかけてくれた彼が3年生のクラスの中心人物のようで、おかげで他の生徒達とも気軽に話すことができるようになった。


 話を聞いてみると、クラスメイト達が委縮していたのは半魔族の僕に対する遠慮だったという。


「話は聞いていると思うけれど、魔界を滅ぼしてしまったのって人間だし……今の人間の世の中だと魔族や半魔族ってとても苦労していると聞いてたからさ……」


「お気遣いありがとう。僕自身は、魔界で暮らしていたわけではないから気にしていないよ。他の魔族や半魔族も、僕が出会った限りではそういったことを気にしている様子はなかったし。今の生活を維持するのに精一杯って感じだったから」


 便利屋の所員として魔族と接触する機会は多かったが、人間への復讐を考えている者はいなかった。むしろ、人間の世界での生活を良いものにしようと努力している。


 無くなったものを数えるよりも、今あるものを大切にするべきと考えている魔族が大半なんだと思う。


 魔術学院に通う見習い魔術師達は、歴史の授業で人間のかつてどのような過ちを犯したのかを知っている。呪いによる魔界の滅亡や魔術の悪用は、彼等にとっても許しがたいことだという。


 こうして話してみないとわからないこともある。彼等のように魔族や半魔族の身を案じてくれる優しい人間だっているんだ。




 ……………




 初日の授業を終えて、本日から寝泊まりをする学生寮へ。窓の外に広がる雪景色を眺めながら、今日の授業を思い返していた。


 クラスメイトは親切にしてくれるし、魔術の勉強は楽しい。ティスタ先生が言っていた通り、魔術学院は魔術を学ぶうえで最適な環境だ。


「……他の人達もああだったら良かったのにな」


 自分の通っていた高校では味わえない楽しさがあった。周囲に受け入れてもらえることがこんなに嬉しいことだなんて思わなかった。


 心というものは麻痺していくものだ。僕は半魔族であることが原因でいじめや暴力を受けることが「普通」だと感じていた。魔族の血が流れているから仕方ない、我慢していればいいと自分に言い聞かせていた。


 自分に優しい世界もあるのだと知ると、自分や周囲がどれだけおかしかったのかわかる。ティスタ先生や他の魔術師達が人間に対して感じていた失望も今なら理解できる。


 自分の思考が嫌な方向へと向きかけているのに気付いて、気を紛らわすために今日の授業の復習をしてから寝ることにした。


 黙々とノートを見返していると、部屋の扉からノック音が聞こえてくる。


「トーヤ君、私です。今、大丈夫でしょうか?」


「先生? はい、どうぞ」


 扉を開けると、水色のパジャマの上に白のカーディガンを羽織ったティスタ先生が両手にホットココアの入ったマグカップを持って立っていた。


「寝る前に、ちょっとお茶をしながらお話をしませんか?」


「ぜ、ぜひっ……」


 普段は見れない先生の女性らしい服装を見て、心臓が跳ねあがる。夜の一室で憧れの女性とふたりきり。断れるわけがないし、緊張しないわけがない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 先生、まさかの夜這。
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