霜の降りるとき
それが起こったのは、氷点下の世界だった。
よく、背筋が凍る思いをした、などと表現されるその現象。
しかし私の場合は違った。
ことの始まりは早朝。
いつものようにベッドから身体を起こし、
いつものように着替え、
いつものように新聞を取りに外に出ようとする。
昨日勝利したファンの球団の紙面を見たいし、世間を騒がせているあの事件の続報が気になったりもしている。
はやる気分で手を掛けた扉の把手は冷たく、外の寒さを物語っていた。
昨夜の天気予報では暖かくなるとか言ってたじゃねえか、と内心思う。
そこで、とあることに気がついた。
寒すぎないか、と。
家の中だというのに、息が白いではないか。
予報では寒波がどうのこうの、気温差どうの、とも言っていたが、これはまるで冷蔵庫だ。
もう少し日が昇ったら、また取りに来よう。
そう思い、踵を返し、溜息を吐いたそのとき。
何かが見えた。
え。
目をしばたたかせるが、何も見えない。
見えるのはいつもの室内。玄関前の景色だ。
少し寝ぼけているのか、そう思い、再び溜息。
また何かが見えた。
そう、溜息、もとい、白い息の向こうだけに。
その顔はまさしく自分がよく知る人物で。
「わっわっ…。」
世間もよく知るあの事件の被害者で。
「ーーーー。」
びっくりした。
凍っちゃったんだ。
文字通り、全身が。
これが連日世界中を騒がしている、全身凍結事件。私の知り合いがそれに遭ってしまった。
でも、いま現れたのは間違いなく彼の顔だった。冷たい白い息の中に、私を誘うように。
原理は分からないが、そうやって伝染させていくらしい。
ってことで説明は以上だ。
トリガーは二つ。白い息と、知り合いであること。
ふふ、満たしたねーー。
冬のホラー企画のために書きました。
最近冷えますね。暖かくしてお過ごし下さい。m(_ _)m