表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/55

雌雄決戦開始(2)

「ほほほっ、その減らず口、いつまで叩けるか見物ですわね。オーサー!」


 ミリシアに名を呼ばれ、オーサーは「はっ」と短く返答した。


「あなたの『火の騎士』たる所以、とくと見せておあげなさい」

「……承知しました」


 オーサーはニヤリと笑むと、先程から手にしていた長い鞭を大きく振るう。その様子を目にしたエルーは傍にいる一葉に忠告した。


「イチ、事前に話していたことですが、『火の騎士』は、文字どおり火の力を操る宝機を持つ騎士。一度、彼が戦場に出れば、その場は焦土と化すとさえ言われています」

「……っちゅうことは、あの鞭が宝機やらか」

「そうです。今まで相対した『土の騎士』、『水の騎士』の宝機とは、段違いの力を持つとされています。やっかいですね……」


 そこでエルーが眉を深く寄せる。だが、一葉は懐からあるものを取り出し、彼女に見せた。


「イチ、それは何ですか?」


 差し出されたものを目にしたエルーが不可解そうに小首を傾げる。


「こら水筒や。残りの騎士は、火ぃ操ると事前に聞いとったさかいな」


 一葉は水が入った水筒を大きく振ってみせた。エルーはハッとしたようにポンと手を打つ。


「なるほどです! 火には水を……たしか、あなたの使う五行の理ではそうでしたね」

「この大広間やらに水があるっちゅう保証はなかったさかいな。念のため持ってきといて正解やったわ」


 一葉に言われ、エルーはふと周囲を見渡した。確かにこの大広間には、水気があるものが見当たらない。この場で戦いがあることを前提にそうされたのか、きれいに設えられていたはずのテーブルや椅子などがすべて端に寄せられている。


「水気があるものが見当たりません。まさか……」


 エルーはある方向へ目を向けた。その視線の先はマツリカだった。彼女から逐一エルーたちの動向の報告を得て、一葉が秘術を扱うことを事前にミリシアは知っていたに違いない。そのエルーの内心に気づいたかのように、ミリシアが不敵に笑んだ。


「まさか、このわたくしが何の策もなしに、あなたたちをこの場に引き入れるとでも思って? あなたの『比翼の鳥』が妙な術を使うことは、逐次情報を得ていましてよ」


 どこまでも用意周到な姉を前にし、エルーは改めて背筋に冷たいものが流れるのを感じた。


「わたくしは、メイアのように早まって自爆したり、ファルナのように何も考えずにただ敵を迎え撃ったりしませんわ。火には水……そんな簡単な道理、このわたくしが気づかないとでも思いまして? この場で水に関係するものは事前にすべて排除しましたわ」


 ミリシアの言葉に思わず一葉は感心する。


「ほう。ほかのお姫さんとは違うて、少しは考える頭があるようやな」

「イチ、大丈夫なのですか? その……水筒の量だけの水で」


 エルーに少し不安げな視線を向けられ、一葉は「ふむ」と顎に手をやった。


「ここは短期決戦といきたいとこやが、果たしてあちらさんがどう出るかやな」


 すると、こちらの考えを読んだかのようにミリシアが忠告してくる。


「ああ、そうそう。オーサーはこの国のスラム街出身でね、みなしごだった彼はあらゆる手段を使って生き残ってきましたのよ。お父様と同じ実力主義のわたくしにとって、オーサーはうってつけの人材でしたわ」


 そこでミリシアは一旦言葉を切った。


「オーサーは勝利するのに手段を選びませんの。行く手を阻む敵を倒すためなら、もてる力を尽くし必ず成し遂げますわ」

「『獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす』っちゅうわけか。って、わしらは兎ちゃうがな」


 一葉が呟いた東方のことわざを耳にし、エルーは何か問いたげに小首を傾げる。だが、一葉は彼女に応えず前方を注視した。


「どうやら、あちらさんから仕掛けてくるようやぞ、お嬢」


 そう言われ、エルーも前方に視線を向ける。すると、その先では「火の騎士」オーサーが宝機である鞭を構え、戦闘準備を始めていた。


「お嬢、わしの後ろに下がっててくれや。何が来るか、わからへんさかいな」

「は、はい、わかりました」


 戸惑いつつエルーは首肯すると、一葉の背後に下がった。


「じゃあ、戦闘開始といきますかね」


 オーサーは短く言うと、構えていた鞭を大きく振るうポーズを取る。


『……宝技・火炎の砲弾』


 その言葉とともに、オーサーが振るった鞭の先を勢いよく床に叩きつけた。すると、鞭の先から無数の火の弾が出現する。


「おらあっ、食らいやがれえっ!」


 オーサーが再び鞭を振るうと、出現した火の弾が一葉たちに向け射出された。その弾の一つ一つが煌々と光っていて、かなりの熱量を持つことが容易に見てとれる。一連の様子を見ていた一葉は一つ息をついた。


「あれを食ろうたら丸焦げ確実やわ。まあ、あちらさんが火ぃ使うのは織り込み済みやが」


 一葉は手にした水筒の蓋を開けると、水を数滴床に垂らす。そして、五行の呪を唱え始めた。


『我、五行の知者なり。五行の理に従い、清き水が壁となり、我に向かいし炎を防ぐことを命ず!』


 一葉が呪を唱え終わるのと同時に、彼らの前に水でできた防壁が展開する。その様子を目にしたミリシアがさすがに驚いたのか、切れ長の瞳を大きく見開いた。


「あれですの? メイアやファルナの『比翼の鳥』を破った、妙な術とやらは……」


 その呟きを聞きつけ、一葉が少し不服そうに言う。

「妙な術とは誤解もええとこや。五行の理は東方に古うから伝わる由緒正しき術なんやぞ」


 そうしているうちに、「火の騎士」オーサーが放った火の弾が次々と水の防壁にぶつかっていく。だが、それらは防壁に当たった途端に蒸発していった。己の放った技が不発に終わったことを知り、オーサーが舌打ちする。


「ちっ、俺の十八番を防ぎやがるとは……」

「十八番やろうが何やろうが、水の気がある限り、あんなん何遍でも防いだるわ」


 一葉は不敵に言うが、オーサーがなぜかニヤリと笑んだ。


「へえ、『水の気がある限り』ねえ……」


 その言葉を聞いたエルーは不意に嫌な予感を抱く。そして、ある想像が頭に浮かんだ。


「イチ、ダメです! その水筒に入った水だけでは……」

本日からまた「鳥かごの姫……」の更新を始めます。どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ