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8 決着の時

第1部の「マントラ・ウォーズ ~超常のレジスタンス~ 能力覚醒編」も是非お読みください。

 ジョディとカビーヤは互いに剣を中段に構えて対峙していた。


 第2師団兵士長のカビーヤは、師団をまとめる立場だったが、全神経をジョディに集中せざるを得なかった。

 前回と同じ轍は踏まん。前回は、気が付いたら、あいつの間合いの中に取り込まれていた……

 今回は、俺の間合いとタイミングで戦う。

 カビーヤはジョディのブラウンの瞳をじっと見据えて、出方を探ろうとした。

 ん?

 気のせいか、カビーヤはジョディが微笑んでいるように感じた。

 何なんだよ、その眼つき……吸い込まれそうになる。


 ジョディもカビーヤの出方を探っていた。

 さて、どうしますか?

 しびれを切らして先に動きますよね、カビーヤさん。

 ジョディは剣を構えたまま微笑んだ。


 カビーヤは逡巡し始めた。

 何で笑顔なんだよ……

 これから剣を交えるんだぞ。

 何なんだ、こいつ……恐怖心は無いのか。

 ってか、どんな精神状態でいるんだ?

 ……くそっ!

 カビーヤは、無意識のうちに、剣を上段に振りかぶると大きく踏み込んだ。


 やはり……

 ジョディは待っていたかのように身を横にずらしてカビーヤの剣をかわした。


 剣をかわされたカビーヤは、返す剣でジョディの胸部を下から上に切りつけたが、ジョディは上体を反らして、再びかわした。


 カビーヤの動きが予め分かっていたかのようなかわし方だった。


 俺の動作を読んでいるのか?簡単にかわされている。

 カビーヤは一旦間合いを空けるために後ろに引こうとした。


 が、しかし、ジョディは間合いを空けないようにすり足で素早く間合いを詰めた。

 それと同時に、剣を小さく振りかぶって、カビーヤの左右の肩に連続して切り込んできた。


 カビーヤは、後退りしながら、ジョディの左右からの攻撃を、剣を盾にして何とか防いでいた。


「ガキッ!ガキッ!ガキッ!ガキッ!」

 剣と剣がぶつかるたびに鈍い金属音が響いた。


 一撃、一撃に大きな威力はないが、連続で打たれるともたないな……

 カビーヤは、ジョディのペースに陥っていることに気づいていなかった。


 攻撃し続けていたジョディは、一瞬手を止め、足も止めた。

 戦闘には強弱が必要です。

 カビーヤさん。今、私は弱の状態ですよ。

 あなたは、どうされますか?


 そのカビーヤは、動きを止めたジョディへの対処を決めかねていた。

 うん?動きを止めた?

 何をする気だ?

 俺から仕掛けるか?それとも待つか?

 ここは待つべきか……


 最初はそちらから攻撃してきたので、今度は待ちますよね。

 ジョディはカビーヤの考えを見透かしていた。


 2人は暫し動きを止めた。

 動きを止めたカビーヤは、次の一手に頭を悩ませていた。

 動きを止めたジョディは、体力を回復していた。


 カビーヤは、この短時間の応酬で精神的に相当追い詰められて、脇や背中から汗が滴り落ちていた。

 俺の動きはすべてお見通しってか……

 予想出来ない攻撃が必要だ。

 ……よーし。

 カビーヤは、意を決すると、剣を頭上高く掲げた。

 ジョディが剣に視線を移した瞬間、カビーヤはしゃがみこむように体勢を低くすると、右足でジョディの左足を思い切り払った。


 えっ?

 ジョディはカビーヤの一蹴りに不意をつかれた。全くの想定外だった。

 体重の軽いジョディは、足元をすくわれて、その場に尻もちをついてしまった。


「よし、もらったっ!」

 カビーヤは勝ち誇ったように剣を振り上げた。


 ジョディは咄嗟に剣で防ごうとしたが、転んだ際に手放してしまい、剣は手が届かない先の方に転がっていた。

 ま、まずい……


 ジョディは、倒れたまま、転がるようにして、カビーヤが振り下ろした刃を避けた。


「くそっ!」

 カビーヤは、地面に突き刺さった剣を引き抜くと、再びジョディに斬りかかった。


 ジョディは、足を引き付けて、その反動で軽やかに跳ね起きると、カビーヤの剣を紙一重でかわした。

 自分の剣から距離が離れてしまって届かない……

 不覚だ。剣を落としてしまうなんて……

 早く剣を取り戻さないと。


 カビーヤはジョディの考えを見透かしたように、近くに落ちていた剣をジョディから遠くの方に蹴飛ばした。

「武器が無い丸腰で戦えるのかな?」

 カビーヤは勝ちを確信していた。


「……そうですね、非常に不利な状況ですね。」

 ジョディは、冷静さを装っていたが、この不利な状況を打開する糸口を見出せないでいた。


「容赦はしないっ!」

 カビーヤは、上段に振りかぶると、間合いを詰めて斬りかかってきた。


 ジョディは、カビーヤが剣の軌道を変えられないようにギリギリのところで身を翻して、その剣を避けた。


「ちっ!

 いつまで避けられるのか、見ものだな。」

 カビーヤは不敵な笑みを浮かべた。


 再び、カビーヤは、間合いを詰めると、上段からジョディの頭部を目掛けて思い切り剣を振り下ろした。


 ジョディは、上体を後ろに反らせて、カビーヤが振り下ろした剣の切っ先をかわした。

 そして、間髪入れずに後ろに下がって間合いを空けた。


 カビーヤは一度剣を下ろした。

 くそっ!

 防御能力も高いらしいな。

 単調な攻撃は無意味か……

 予測出来ない攻撃が必要だな。


 ジョディは全神経を防御に集中させ続けていたが、さすがに途切れそうになっていた。

 早くこの状況を打開しなければ、いつまでもかわし続けられないな……


 カビーヤは、呼吸を整えると、剣を握り直した。

 そして、剣を立てて、自分の顔の右側に構えた。


 八相の構え?

 攻撃を変化させる?

 ジョディは、正直、カビーヤの次の一手が読めなかった。


 出来る限り間合いを詰めて、かわすことが難しい位置と角度で切り込む。

 かわせるものなら、かわしてみろっ!

 カビーヤは、八相の構えのまま一挙に間合いを詰めると、剣を水平にして、そのままジョディの腹部に斬りかかった。


 横斬り?

 ジョディは、身をよじって剣をかわしたものの、十分には避けきれずに、戦闘服の脇腹の辺りを切り裂かれた。

 ふうっ。危なかった……

 後少しでも、ずれていたら斬られていた……

 戦闘服の斬られた部分に手を当てて、安堵のため息をついた。


 よーしっ!

 一気に畳みかける。

 カビーヤはジョディの左肩を斜め上から斬りかかってきた。

 ジョディはその刃をギリギリのところで避けようとしたが、カビーヤが剣を振り下ろすスピードを上げたために、一瞬タイミングが狂って、左の二の腕に斬り付けられてしまった。


「くっ!」

 ジョディは、激痛に顔を歪めながら、間合いを取った。


 ジョディの左腕からは、おびただしい量の鮮血が流れ出していた。

 その鮮血は左手の指先を伝って地面に滴り落ちた。

 痛っ!


「さて、そろそろケリをつけようか?」

 カビーヤは気持ちが高揚してきた。


 ジョディは、一瞬、カビーヤから自分の剣に視線を移すと、自分の剣までは絶望的な距離があった。

「……」


 カビーヤは、剣をしっかりと握り直すと、じりじりと間合いを詰めてきた。


 ジョディは、右手で左肩を抑えながら、間合いを詰めさせないように後ろに引いた。

 引きながら突破口を探っていたが、妙案は思い浮かばなかった。


 カビーヤは間合いを詰める歩速を徐々に上げてきた。


 打つ手なしか……

 ジョディは間合いを取ることをやめて立ち止まった。


「うん?潔く諦めたか?」

 カビーヤは上段に大きく振りかぶった。


 認めたくない戦いの結末が頭に浮かんだその時、ジョディの耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。


「……ジョディーッ!」


 ジョディは声のする方に視線を向けた。

 そこには騎馬のアシュウィンがいて、馬上からジョディを見つめていた。


「アシュウィンさん……」


「ジョディ、今行く。」

 アシュウィンは、剣を持たずに左腕が血まみれになっているジョディをみて、ジョディの劣勢さを悟った。


「いいえ、加勢は不要です。」

 ジョディは、カビーヤを見据えたまま、毅然として言い放った。


「……そ、そうか。でも、大丈夫なのか?」

 アシュウィンはジョディの意気地を感じ取った。


 ジョディは、答える代わりに、アシュウィンがジョディの剣を発見できるように、目配せで促した。


 アシュウィンは、ジョディの視線を追って、地面に落ちている剣に目を止めると、ジョディに小さくうなずいた。

 そして、両手の手のひらを広げて大きく深呼吸すると、アシュウィンの両手は黄金色に光り出した。

「バキラヤソバカッ!」

 マントラを発動させると、地面に落ちているジョディの剣は、命が吹き込まれたように、すぅーっと宙に浮き上がり、音もなく、ジョディの方に飛んで行った。


 ジョディは、飛んできた剣をしっかりと受け止めるや否や、右手で下段に構えた。

 ありがとうございます。

 ジョディは、アシュウィンに目で礼を言った。


 力強くうなずいたアシュウィンは、ジョディに気合を送るくらいしか出来なかった。


「そろそろ、決着の時ですね。」

 ジョディは下段に剣を構えたままカビーヤと向き合った。


 カビーヤは、上段の構えから、ジョディと同じく下段に構え直した。

 アシュウィンという奴、あいつは念動力を使えるのか……

「剣を取り戻したからと言って、俺の優位は変わらん。

 丸腰の奴を斬るのは、あまり気持ちの良いものではないしな……

 決着の時だ。」

 あいつは左腕が使えん。

 下段の状態からどう動く?

 俺から動けば、あいつの術中にハマる可能性がある。

 待つか……


 ジョディは、左肩が脈を打つような激痛の波に襲われたまま、出血が止まらずにいた。

 これ以上長引くと、ますますこちらが不利になる。

 短時間で決着をつけなければ……

 ジョディは、息遣いが徐々に荒くなってきていた。


 少しずつ間合いを詰めるジョディに対して、カビーヤは少しも動かずに不動のままだった。

 間合いを詰めていたジョディは、カビーヤの間合いに入る手前で足を止めた。

 2人は、互いの間合いに入っていない状態で対峙したままだった。


 こちらから仕掛けるしかないようですね。

 ジョディは血に染まった左の手のひらを軽く閉じた。


「どうした?諦めたのか?

 レジスタンスにも潔さが必要だ。」

 カビーヤはジョディを挑発し始めた。


「……いいえ。こう見えても、私は諦めが悪い人間ですからっ!」

 ジョディは、そう叫ぶと、左手の手の中に溜まった鮮血をカビーヤの顔めがけて勢いよく投げつけた。


「うっ!くそっ!」

 ジョディが投げつけた鮮血がカビーヤの両目にかかって、カビーヤの視界を塞いだ。

 視界を塞がれたカビーヤは、咄嗟に2、3歩あとずさった。


 ジョディはカビーヤがひるんだ一瞬の隙を見逃さなかった。

 勢いをつけて宙に飛び上がると、右手一本で上段に剣を振りかぶり、カビーヤの胸元に斬りかかった。

 その刃は、胸当てもろとも、カビーヤの胸の辺りを切り裂いた。


「ぐふっ!」

 カビーヤは胸元から血しぶきを噴き上げながら崩れ落ちた。


 ジョディは斬り付けた勢い余って、ズザザザーッと砂煙を舞上げながら地面に転がり倒れた。


 戦いの行方を見守っていたアシュウィンは、勝敗が決した瞬間、ジョディの元に駆け寄っていた。

「ジョディ!

 大丈夫かっ?立てるかっ?」


「は、はい。大丈夫です。何ともありません。」


「何ともなくはないだろ?」

 アシュウィンはジョディを優しく抱き起した。


「だ、大丈夫です。一人で起き上がれますから。」

 ジョディは、そう言いながらも、アシュウィンの肩を借りて起き上がった。


「……え?」

 アシュウィンは思わず声を上げてしまった。


「どうかしましたか?」

 ジョディが心配そうにアシュウィンの顔を見た。


「い、いや。何でもない。変な声を出して、すまない……」

 アシュウィンは、ジョディを起こすと、そそくさと離れた。

 ……柔らかかったよな……確かに。

 ……間違いない。しっかりとこの手に感触が残っている。

 ……女性の胸だよな。

 ?

 どういうこと?

 まさか、ジョディって……女?


「アシュウィンさん、お願いがあるのですが……」


「は、はいっ!何でしょうか?」


「私の腕の傷口、止血してもらえませんか?」

 ジョディは、そう言って、自分のパンツのベルトを取ると、アシュウィンに差し出した。


「は、はい。止血させていただきます。」

 アシュウィンは妙に緊張してきた。

 ベルトを受け取ると、ジョディの左腕に巻いて止血した。

 よくよく見ると、腕もしなやかで肌もきれいだ。

 女性……だよな。

 てっきり男だと思っていたけど、俺が知らないだけなのかな。


「ありがとうございます。」

 ジョディは、アシュウィンに礼を言うと、愛馬にまたがろうとした。


「その傷じゃ、馬を乗りこなすのは無理だよ。俺の後ろに乗って。」


「そうですね。では、お言葉に甘えて。」

 ジョディは、素直に応じると、アシュウィンの馬にまたがり、アシュウィンの腰の辺りに右腕を回した。

「すみません。つかまっていても、いいですか?」


「は、はい。」

 アシュウィンは柄にもなくドギマギしてしまった。


励みになりますので、応援コメントなどをお待ちしています。


よろしくお願いします。

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