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第二話 『命名 ウルトラアルティメットスーパーゴッドオブエクストリームカタストロフィックディストラクション』


「はぁぁ!? 何よその子供!?」


 何食わぬ顔で赤子を連れ帰ったエドワードだったが、案の定アンナに噛みつかれてしまった。

 大体の反応は予想していたため言い訳の準備はきっちり用意しており、毅然とした態度で対応する。

 彼がとった対策、それは、


「こいつは俺の息子だ」


――平然と嘘をつく作戦だ。


 さすがに無理があるか、と一度は思い悩んだエドワード。

 だが正直に拾ったと言っても、この赤子は捕虜になるか最悪お荷物として処分される。


 頭の回転が遅いエドワードにとって、嘘をつき通すのは苦手だった。

 すぐにバレるからだ。

 しかし、どうにかして自分の手で育てるために適当な嘘をつくことにした。


「いやいやいや、何言ってんのよ。アンタに子供なんかいる訳ないでしょ」

「本当に息子だとも。なあ、ディザスター」

「あーう!」


 話しかければ必ず元気な返事をする赤子を利用して、さも会話をしているかのように見せる。


「ディザスターって? その子の名前?」

「ああ。ウルトラアルティメットスーパーゴッドオブエクストリームカタストロフィックディストラクション。略してディザスターだ」

「どこにもディザスター無いじゃないっすか」


 テッドも訝しむようにジトっと赤子を見つめる。

 息子ということで押し切るつもりだが、当然信じる様子はみじんもない。

 アンナが呆れて「はぁ……」と溜息を吐く。


「どうせまた『面白そうだから、俺がこいつを最強に育ててやる!』とか考えて拾ってきたんでしょ。娯楽じゃあるまいし、簡単に育てるなんて言わないで、バカエド」

「……ち、違うぞ?」

「目が泳いでるわよ」


 図星を付かれ、遥か彼方を見つめるエドワード。

 あんなに指摘されてギクりとしたが、ここで折れては男の恥だと適当に話を逸らす。


「実はな……こいつは生き別れた隠し子なんだ。風の噂でこの町にいるとは聞いていたが、まさか見つかるとは思ってもみなかった。一目見た瞬間にわかったんだ、こいつは俺の息子だってな」

「はあ?そんな嘘、誰が信じると――」

「――あれは三年前、俺がこんな体になっちまう前のことだった」


 アンナの言葉を遮り、物思いにふけるような顔で虚空を見上げ堂々と語りだす。

 普段ちゃらけている彼の滅多に見せないそんな表情にただ事でない雰囲気を察し、アンナはゴクリと唾をのむ。


「俺が戦地で死にかけて一人彷徨ってた時に出会たんだよ――彼女にな」

「……彼女?」

「ああ、赤い髪のきれいな女性だった。まるで宝石のような目は今でも忘れられないさ」


 居もしない女性をありありと語る様を、テッドがジト目で見ているが、気にしない。


「敵国の人間なのに優しく看病してくれて、あいつの家にまで連れてってくれてよ。あいつがいなかったら俺は間違いなく死んでた。俺はその優しさに惚れちまったんだよ」

「……」


 真っ赤なウソを並べるエドワードだが、アンナは意外にも聞き入っている様子だ。


「だが所詮敵国の人間同士、結ばれることなんて許されなかった。いっそそのまま結婚でもしてそこで暮らそうと考えたこともあった。でも俺には国のために戦うっていう使命があった。そのために彼女と共に生きる道を諦めるしかなかったんだ。せめて悲しませないように別れも告げずに国へ帰った。国に帰っても一日たりともあいつのことを忘れたことはなかった。忘れようとしても駄目だった。だが二度と逢うことは出来ないと、そう思っていたが――さっき見つけたんだ」

「その女性を……!?」


 舌が絡まりそうになるのをグッと堪え、得意げに話すエドワードに、アンナが興味津々に食らいついている。


「ああ。まさかとは思ったが、あいつも俺を見て気づいたようだった。……でももう既に手遅れだった。瓦礫に押しつぶされて死ぬ寸前だったんだ。その隣で泣いていたのがこのボウズさ。あいつは俺に向かって『この子をお願い』とだけ言い残して息絶えたんだ」

「そう……なのね」

「母親譲りの赤髪に父親譲りの凛々しい顔立ち。こいつは間違いなく俺とあいつの息子だ。俺はあいつと約束したんだ。『このボウズを立派に育ててやるから、天国で見ててくれ』ってな……」


 言い切った。

 ありもしない話をよくもこうスラスラと言えたもんだと我ながら感心するエドワード。

 アンナはというと、切ない愛の物語に感動してうっすら涙を流している。


「そんなことが……ごめんなさい、はやとちりしてしまって。ただバカでだらしなくてモテない奴だと思ってたけど、アンタにそんな悲しい過去があったなんて。だからずっと女ができなかったのね」

「謝るつもりねえだろ、お前」


 謝ると思いきや、遠回しに悪口を叩く年下後輩についイラっときたエドワード。

 しかし、事実でもあるため言い返す言葉もない。


 そして、さっきから横でテッドが「絶対ウソっすよね……」と小さな声で呟いているが、エドワードが人差し指を口に当てて「しっ!」と釘を刺す。


「後で酒でも奢ってやるから、黙ってろ!」

「……まあ俺はいいっすけど。ほんとに子供育てるんすか?」

「ああ、本気だぜ。俺がこいつを最強にするんだ」

「ほんとにそう思ってたんすね……。じゃあ父親として恥かかないように鍛錬しましょうよ。エドさんはちゃんと鍛えたら強くなれるんすから」

「ま、そのうちな」


 適当な返事に少し不満な表情を見せるテッド。

 聞こえない程度の音量でコソコソ話す二人怪しく思ったアンナが「何の話してるのよ」と割って入ろうとする。


「いや、子供の名前どうするか相談してたんすよ」

「は?いや、さっき言ったろ。こいつはディザスターだって」

「エドさん、さすがにそれは無いっすよ。子供がかわいそうっす」

「そうね、とてつもなくカッコ悪い。いかにもアンタがつけそうな名前だわ。」

「お前らなあ……」


 考えうる限り最高に強そうな名前を付けたつもりのエドワードだったが、全面からダメだしされてしまった。

 アンナは相変わらずだが、いつもはエドワードに優しいテッドにまで言われてしまうと気が滅入る。


「とりあえず強そうな名前にしたいんだよ。こいつは俺が強い男に育てるって決めたからな」

「強い男にするんだったら、実際に強い人の名前を使えばいいじゃない」


 アンナが腕を組み、自慢げにフフンと鼻を鳴らす。

 彼女にはどうやら、いい考えがあるようだ。


「――その子の名前はアンナよ」

「男だっつってんだろ。アホか」


 自信満々に見当違いなことを言うアンナを一蹴する。

 こんなポンコツでも、自分で強いと公言できるほどの実力者なのは否めない。


「ストロング、とかどうっすか」

「それは安直すぎねーか?」


 次いでテッドが案を出すが、あまりに淡白すぎるので却下した。


 その後もいくつか候補を挙げた二人だったが、エドワードはどうにもしっくりこない様子だった。


「……やっぱり破壊の申し子ウルトラアルテ――」

「絶対にない」

「絶対ないっす」

「うー」


 エドワードの言葉を遮って、二人は口をそろえて否定する。

 さらには抱きかかえている赤子まで納得のいかない表情をする。

 こうまで反対されてもなお自分のセンスに自信を持っている彼だったが、このままでは一向に決まらない。


「めんどくさいし、もういっそ、私たちの名前からとったらいいんじゃない?」


 ついに名付けをメンドクサイと言い出したアンナだが、そこを否定する人間はこの場にはおらず、二人はひとまず彼女の意見に乗る。


「アンナとテッドとエドワードで……アッドワード、絶妙にダセえな」

「いや、実際強いのは俺とアンナっすから、アドでいいんじゃないっすか」

「アド……いいわね! 可愛らしくて強そうな名前で!」

「いやちょっと待て、俺は!?」


 匙を投げるかのようなアンナの提案はいい発想だと思ったが、テッドによってエドワードの存在が消されてしまう。

 アド――可愛らしい名前で申し分ないのだが、自分の名前が入っていないことに不満なご様子のエドワード。


「まあ、アドもエドも似てますから、三人いるようなもんっすよ。アド、いいじゃないっすか」

「あ、ああ……まあそれでいいか」


 無理やり丸め込もうとするテッドだったが、これ以上いい案が出る気配もなく仕方なしに承諾する。

 かなり適当に決まってしまったが、こんなものだろう。


「よーし、今日からお前の名前はアドだ!」

「あぉ?」

「おう、そうだ!アドだ!」

「あおー!!」


 三人とも、頑張って自分の名前を言うアドの可愛さに見とれてしまっていた。

 特にアンナは顔がとろけそうなほどデレデレだった。

 「ママでちゅよー」なんて言ってアドと遊んでいるアンナ。

 二十歳にして独り身を拗らせている女性にとってアドくらいの子供は愛おしくて仕方ないのだろう。


「私もアドに剣を教えてあげたい。アドの母親のためにも、アドを強く育てなきゃね」

「お、おう……」


 テッドが何やら横から白い目でこちらを見ているが知らないフリ。

 アンナを騙していることに少しだけ罪悪感を覚えつつも、人間だれしも時には嘘も必要だからな、と自分に言い聞かせる。


「しかし、子供か……」


 いつ死んでもおかしくない兵士という仕事をしている以上、命に執着のある人間は少ない。

 エドワードも実際に一度死にかけたことがあるし、死を恐れることはなかった。

 だから彼にとって人生はすぐに諦めがつくものだったし、『今』を存分に楽しむように生きてきた。


 しかし、子供を育てるといった目的があるだけで彼のこの先の人生に一つ小さな意味ができた。

 きっかけは単純、面白そうだったから。

 アンナの言った通り、娯楽の様な感覚なのかもしれない。

 しかし、そんな刹那主義の彼が初めて未来を楽しみだと思ったのだ。


 かつてない高揚感がじわじわと込み上げてくるのを感じ、エドワードの子育て奮闘記が始まった。



数ある作品の中からこの作品を見つけていただき、ありがとうございます。

毎日投稿の励みになりますので、少しでも面白いと感じていただけたら『ブックマーク』と、下にある☆☆☆☆☆から評価してもらえると嬉しいです。

作者が跳ねて喜びます。

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