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ビブロスにて

あれから数日、イシスはエジプトから離れたビブロスにいた。そこの国の王室で乳母として仕えていた。




―イシスが棺を追う為に様々な情報を得たていた。そしてとある人間に聞いた所、棺はビブロスに流れ着いたとの事を聞いたのだ。

イシスはその在処を見つけ出したのだが、オシリスの豊穣の力が木製である棺に幹を作ってしまい、あまりに見事だったその木を王族が切り倒して城の柱にしたのだと言う。

イシスはそれを知り、少しばかり悩んだ結果、ある決意をした。


―ここは他国…私が神と言えども

「柱をくれ」とは簡単には言えない…やむを得ないわ、時間はかかろうとも兄様の棺を返してもらわないと…!


イシスがビブロスの宮殿へ訪れると、皆同じような柱ではあったが、イシスにはオシリスの棺のある柱を一目で察した。


―オシリス兄様…絶対に、私が生き返らせてあげますからね…


「貴方、ビブロスの人ではないわね?どこの方かしら?」


突然イシスに優しい口調の女性が話し掛けて来た。イシスは驚き振り向く。


「あ…あら、申し訳ありませんわ…もしや…王妃様ではございませんか?」


「はい、私はこのビブロスの国の王妃、何やら貴方から神気を感じたので、少し不思議に思い話し掛けてみたのですが…驚かせてしまったかしら?」


イシスは一瞬考える。そして王妃に微笑みかけた。


「それは汗顔にございますわ。私はエジプトから来たのです。家は王族でしたけど、私の旦那が病で亡くなって、王宮にいると苦しく感じて、どこかで私の本当の居場所があればと思い旅をしていたのですわ。」


その時の王妃は真剣に話を聞いていた。なにやら感じたものがあったらしく、その後も話は続いていた。

遂には王妃と親しくなり、一日で王妃の末の王子の乳母の地位を得たのだった。




そして今に至るのだが、イシスはまだ赤子である王子を抱いてオシリスの棺の入った柱の前へ来ていた。【テフヌト】は【太陽】を呑み、【月】を産んでいた。


イシスは眠る王子を抱いたまま柱に撫でるように柔らかく触れる。




オシリス兄様…



遅くなってごめんなさい…



イシスは…



イシスは貴方を相変わらず愛しております…



兄様は…愛にお変わりはないですか…?



未だに…



あのセトを許すおつもりですか…?



今、この王子を焼べながらこの生命を与えます。



大丈夫です。死なせません。



私の神気を与えて、不死にします。

イシスは神術で焔を出だす。



「焔なる神【ベス】へ捧げん…人々の創造主【クヌム】の子の代償に御前の神気、与えん事を願う…【ベス】よ、受け取り給え…―」



「…―イシス!?貴女…私の子に何をなさるおつもりなの!!」


「!!…お…王妃様…どうしてこちらに…!?」


「不意に目を覚ましてみたら、何やら明るいものが見えたのです…貴女は王子を…私の子をどうするおつもりだったですか!お話なさい!」


―ああ…見つかるなんて…【アトゥム】様…私はもう、オシリスに会えないのですか…?


イシスは力なく崩れる。それに驚き、幼い王子は目覚めと共に泣き始める。


静かな宮殿に赤子の泣き声とイシスの小さな嗚咽が響いた。


「…私は、エジプトから参りました、【誕生】を司りし女神【イシス】と申します。騙してしまって申し訳ありません。」


「女神様…!?何故エジプトを統べる女神様がこの様な異国の小さな王国へ?」


王妃は当然驚く。乳母として仕えていた旅の女性が女神であれば誰しもが驚くはずだ。


イシスは泣きながら話を続ける。


「あなた方の王宮にあるこの大きな柱には、私の最愛の兄であり、夫である【豊穣】の神【オシリス】がいるのですわ。」


「なんですって…!そのような話…いるならばすぐに分かるじゃありませんか!!」


「…亡骸になってしまっているのなら…分かるはずもないかと…」


王妃はイシスの涙の激しさが増した事に気付き口を塞いだ。


「柱の中の棺だけでも私は取り出したい…けれど、いくら女神である私であっても柱をよこせと言う願いは無謀であると思いました。ゆえに、乳母となって王子を不死にする変わりに私の夫を蘇らせようと思いこの儀式を行ったのです…けれど王妃様、今、貴女に見られてしまった事によってこの儀式は失敗に終わってしまった…更に、大切な貴女の王子にこのような荒々しい仕打ち…決して許される事ではないでしょう…」


だから、もうオシリスは戻る事は無い…そう言いかけた時、王妃がイシスの肩に触れた。その手はとても優しかった。




「それは、さぞ辛い思いをなされたでしょう…私は…この子を生んですぐに王が戦で死にました。女神様のお気持ちは痛い程に伝わりますわ。分かりました。この柱は、貴女様へ捧げます。私の代わりに幸せになって下さいませ…」



「!!…ありがとう…ありがとうございます…!!」



喜びに涙するイシスに、王妃は優しく抱き締めた。

【王座の間】



「セト様!!イシス様がオシリス様の遺体を見つけ、今エジプトへ戻っている途中だとの報告が!!」


「…へぇ、意外と早く見つけたものだな姉上…だが、俺がエジプトを支配するのには十分だったがな。今更戻った所で、何が【始まる】ものか。何が【終わる】ものか。まだ何もかも全て【続いて】いる…俺がこの王座に座っている限りは…な…ふふ…」



そう、やっと俺の欲しかったものが手に入ったんだ。全て、今まで掌から零れていったものも、これから手に入れるものも何もかも全て!!



今更あの男が戻った所で、この王座から俺が離れる事は絶対に無い。何故なら、俺の後ろには…



「王座は暖かいか、愛しき【我が孫】よ」


「ええ、至極にございます。【ラー】様…」



俺の後ろには俺の唯一の味方、ラー様がいるのだからな…!



「それは何よりだ。汝には世界を治めし力がある。それは、優しさのみにあらず。愚かなる人間共には、汝のような猛き【力】の神が相応しき。なれども凡愚なる神々や人間共は人当たりのよい汝が兄【オシリス】を選んだ。彼の子とて悪しき子にあらず。だが儂は王座は厳しきと睨んだ。オシリスは汝に力と知恵に負けた。彼とて死すには惜しい者であった。だが、過ぎし事はやむを得ぬ。今は前を見るべきぞ。汝に、王位が努めあげられるか否かは今後に期待しよう。」


「それは不要な心配にございます、ラー様。俺はエジプトを統べる【王】となる。それは当然の事、統べる力なき者はこちらに座る事は不可にございます…世界は、我が手中にあり!!」


「…頼りにしておるぞ、【最愛なる孫】よ…」



朝を迎えると、ラーは舟に乗ってテフヌトの体に宿る。



「…ふん…【最愛なる孫】…貴様は我らを【忌子】扱いして殺そうとした分際で、いいご身分な事だ…まぁいい、姉上側に付かぬだけまだマシ、か…」




だが、もし姉上がオシリスを蘇らせたら厄介だ。今の内に姉上を見張って置くとするか。


「…姉上には恨みは無いが、いざとなれば消えて貰わねばならないだろうな…まぁ、もはや俺にはどうでもいい話だ…全てを手に入れた今の俺にはな…くくく…はははは…あはははははは!!!!」




オシリス…お前が蘇ると言うのなら、俺は何度でも殺してやろう



姉上…貴女が邪魔をすると言うのなら、俺は何度でも遮ろう






そう、所詮、この世は弱肉強食


弱き者は強き者に侍るがいい!


そう!全て!


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