filia mi
仕事が終わり会社をでてオレはいつも利用する電車に揺られスマホを開く。いつものように娘にLINEで『今から帰る』通知を送る。
家がある街に到着し改札を抜ける。
辺りは薄暗くなっていてオレの周りに同じような仕事帰りのサラリーマンがちらほら居た。
買い物客のピークがひと段落した商店街を歩いてるとよく見知った背中が見えた。
近づいていつもより低音ボイスで話しかける。
「未来。」
オレの1人娘だ。
「こんな遅くまで何してるんだ」
振り返った女の子はやはりオレの1人娘だった。未来じゃなかったらオレは変なおじさんだ。
「買い物と、バイトの面接」
高校の学生服を着た娘はしれっと答えた。
「バイトってなんで?」
うちの家族のルールではアルバイトは禁止している。夜遅くまでバイトをして帰りが遅いと危ないと思ったからだ。
「アルバイトは禁止だって…」
言ったじゃないか、そう言おうとしたら
「ビール」
未来はすかさずそう答えた。まるで勝ち誇ったように。
「え」
なんのことだ?と思った。
「焼き鳥」
未来は間髪入れずに発言する。
「あ」
「柿の種」
「う」
「ブリ大根」
「お」
全部オレの好物だ。まさかオレを買収しようとしてるのか?と考えを巡らせていたら
「さーて問題です。2週間後はなんの日でしょう?」
「え?」
突然すぎてわからなかった。なにより唐突過ぎるだろ。
「ぶぶー、時間切れ。正解はお父さんの誕生日でした。」
「…」
そういやそうだった。
「ね、アルバイトいいでしょ?1週間だけ」
まさかおれの誕生日のためにアルバイトを…?
未来へは毎月お小遣いをあげている。それだけじゃ足らないのだろうか。確かに今時の女子高生は友達との付き合いやその他もろもろで使ってしまうか。そういう理由なら、うん、と言わざるを得ない。
「特別に許す」
言葉には余裕を持たせているが内心はニヤニヤしている。
「よかった。」
誕生日については追及することはしなかったが。
「よく出来た娘でしょ?」
「誰に向かって言ってんの?」
すかさず未来のツッコミ。