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投獄のロマン

「ほらよ、ここがお前さんのスイートルームだ。豪華すぎて涙が出るだろ?」


 兵士にそう言われ、圭が入れられた部屋は、廊下側に鉄格子の壁、その反対側に採光用の鉄格子の小さい窓。

 備え付けの硬いベッドと、トイレ用と思われる壷が置かれた6畳くらいの牢屋だった。

 縄で縛られた両腕は解かれ、鉄格子の外から南京錠がかけられる。


「なあ、ちょっと聞いてみるんだけどさ、領主に会えるのっていつになる?」


「さあな、これから領主様にお前を捕まえたって報告するから、早くて明日だろうよ。

それまで命乞いの台詞でも考えておくんだな、死ぬことはもう決定だけど」


「命乞いか、逆にそれアリだな」


「まあせいぜいむごたらしく命乞いすればいさ」


「そこはあえて高貴にだな。

『余の命を助けてたもうれ』

とかどうよ?」


「は? 恐怖で頭がおかしくなったか?」


「うん、そうだよね、兵士にノリツッコミとか無理だよね、俺が悪かった」


「変な奴だな」


「いや、まてよ、ここは王道でツンデレ風にだな。

『べ、べつにアンタなんかのために捕まった訳じゃなんだからねっ!

カカカカンチガイしないでよ! ただちょっとアンタに会いたかったっていうか//////

なんでもないわよっ! そんな目でコッチ見ないでよバカ!』

とかどうよ?」


「それ、命乞いじゃないだろ」


「そうか、命乞いもセットだよな。

『アタシは別にそん事しなくてもいいんだけど、でもアンタがどうしてもって言うなら。

その//////、命乞いしてあげてもいいんだからねっ!

ほら、早く! アタシのこと、殺すって言いなさいよ! この鈍感朴念仁!』

よし、これで完璧だな。

いくら相手が領主でも、これなら胸ズッキューン確実だ」


「俺もいろんな亜人見てきたけど、お前相当ヤバイな、ダントツでヤバイよ」


「領主もそう思ってくれたらいいんだけどな。

まあ、一介の領主にそんなボキャブラリーは望めないか。

牢屋に入るなんて初めてだからさ、そのぐらいのテンション許してくれよ。

てかここマジで牢屋なんだな、リアル牢屋だよ。

ネットがあったら【牢屋に入れられた、安価で行動する】とかやりたいな」


 圭の頭に文字が浮かんでいく。


 1 パンツ職人

 鉄格子に南京錠で閉じ込められた、安価頼む

 安価>>5


 5 名無し

 ヘアピンで鍵あけろ、ハゲならスレ落とせ


 6 パンツ職人

 >>5 すまん、パンツしか持ってない


 7 名無し

 パwwwンwwwツwwwwwww


 8 パンツ職人

 再安価>>10


 10 名無し

 パンツ被って瞑想


 11 パンツ職人

 >>10 すまん、もう被ってる



「むふふふふ、これはこれでいいな」


「お前なにさっきから笑ってんの? ついに壊れたか?」


「そういう年頃なんだよ、気にしたら負けだ」


「お、おう、まあ、あれだ。

たまに見回りがくるけど、ちゃんとおとなしくしてろよ」


「ああ、おとなしくしてるよ」


 意味不明な会話を終わらせ、兵士は牢屋から出て行った。

 牢屋を観察してみると、部屋数は不明だが、廊下に対して片側は壁で、もう片側に個室が並んでいる造りのようだ。

 廊下の出口のほうに、鍵付きの鉄格子の扉があり、出入り口はそこだけ。

 その扉の外側に椅子があり、看守が1人座っている。


 圭の力を持ってすれば、鉄格子や壁を破壊するのは造作も無い。

 だが、待ってれば領主に会えるというのに、わざわざ壊して騒ぎを起こす必要もない。

 そう思いベッドに横になる圭。

 手から白いパンツを出し、鉄格子の小窓から飛ばす。

 一応リーゼにはパンツを持たせているが、こっちから飛ばせるならそれに尾行させるほうが手間が省ける。


 宿に向けて飛んでいくパンツの視界、その画像が圭の脳裏に映りこんでくる。

 使役のスキル説明に書いてあった通りだ。

 圭の視界の届く範囲で飛ばしたときには無かったが。その外に離れるとちゃんと画像が送られてくる。


 タイミング良く、宿の近くまで飛んだところで、丁度リーゼが宿に入る姿が見えた。

 俯瞰からの映像では、リーゼに尾行の類はついてないように見える。

 おそらくだが、宿に宿泊しているという情報は、相手に知られているだろう。

 動くとしたら夜だ、日中に人をさらうような真似はしないはずだ。

 それまでにリーゼには逃げてもらう。



 その宿の中。

 リーゼは部屋に入るとすぐにセーラー服から着替えた。

 この服では目立ちすぎるからだ、荷物の中から適当な服を出すも、どれもしっくりこない。

 荷馬車の中に農婦スタイルの作業服があったのを思い出した。

 宿をぐるりと囲む生垣から、隠すように裏手にとめられている荷馬車に乗り服を着替えた。

 圭から預かっている金貨の袋は荷馬車の荷台下に隠す。

 身を隠すにしても銀貨と銅貨があれば十分だ。


 荷馬車から宿に戻り、リーゼは宿の主人にしばらく部屋を留守にすると伝える。

 荷物や荷馬車はそのままにしておいて欲しい旨も伝え、先払いで銀貨10枚、10泊分を渡した。

 10日以内に戻ってきたら、差額は返って来る約束だ。

 

 一応念のため、誰かが訪ねてきたら、部屋は引き払ったと言うように、対応を頼んだ。

 その分のチップとして銀貨1枚渡したら『たとえ領主が来てもシラを切る』と言ってくれた。


 これで準備は出来た、最低限の着替えと、幾らかのお金を持って宿の裏手から抜け出すリーゼ。


 その姿を白いパンツが捉える。


「俺のパンツは1キロ先の得物だって逃さないぜ、我が娘よ」


 独房でそんな声がしたとか、しなかったとか。


 宿の裏手から、民家に囲まれた複雑な細い路地に入り、そこを走り抜けるリーゼ。

 その歩みに迷いはなく、目指すべき場所の目星はつけているように見えた。

 どれだけ複雑な路地に入り込んでも、空から追尾して見失うなんてことは無い。


「まだ、居てくれるといいけどな、ノームさん」


 リーゼのつぶやきは圭に届かない。

 数年前、兄とこの街に2ヶ月住んだ時に、2週間程度世話になった人、それがノーム。

 少ない兄の稼ぎでなんとか泊まれる場所をと、雨露を凌げる場所を探して、一時的に厄介になった家。


 街の中でもわりとガラの悪い地域で、ゴロツキや孤児がひしめく場所である。

 官憲や兵士でさえ滅多に見回りに来ない、そんなスラム街とも呼べるボロイ家ばかりの住宅街。

 2階建てや3階建ての集合住宅がひしめく路地には、建物同士を結ぶロープがかけられ。

 そのロープに洗濯物がいくつもかけられてる。


 リーゼはそ木造3階建ての建物の前で止まった。

 むき出しの外階段を登り、2階にある3軒のドアの1つに手をかける。

 その時、リーゼの肩に白い鳥のようなものが止まった。


 自分の肩をみるとそれは見覚えのある布だった。


「ブルーレット? 近くにいるの?」


 あたりを見回すも、あの魔族の姿はみえない。


「そうか、場所だけ確認しに来たのかな」


 パンツの意図を察したリーゼは、ドアをノックする。

 すると同時にパンツは再び空へと飛んでいった。


「ノームさん! いますか!」


 ドアの中から中年の女性の声が返ってくる。


「はいはい、どちらさまですか?」


 ドアを開けながらその女性が顔を出す。


「あれれ? えーと、どこかで見たことあるような」


「リーゼです、覚えていますか?」


「あー! リーゼちゃんリーゼちゃん! 思い出したわよ!

見ない間にこんなに大きくなって!

どうしたの突然」


「実は……」


「まあまあ、とりあえず入りなさい」


 玄関先で話そうとするリーゼを、ドアを開け家の中に迎え入れるノーム。

 その姿はぱっと見40代くらい、細身でスラリとし、黒い髪は背中まである。

 スレンダー美人ではあるが、着ているものが貧民街相応で、つぎはぎのスカートにセーター。

 それにエプロンと三角巾を付け、家事をしている途中のような格好だった。


「本当に久しぶりね、あの後どうなったのかちょっと心配だったのよ」


 三角巾とエプロンを外し、テーブルの上にたたんで置いた。

 テーブルをはさみ2人が椅子に座る。


 ノームが言うあの後とは、2人がお金が続かなくなり、この家を去った後の事だ。

 リーゼはエッサシ村に流れつき、そこで今まで世話になった事をかいつまんで話した。


「あらあら、そうだったのね、大変だったわねぇ」


「うん、それで今は村を出て旅をしています、この街に寄ったので、何日か泊めてもらえませんか?

お金はちゃんと払います」


 当時、兄と2人でノームの家にお世話になった時、交渉したのが一泊銅貨3枚。

 2人で300円程度である、勿論素泊まりで、食事は自分達で調達した。


「いいわよ、主人が帰ってきたら私から話しておくから」


「ありがとうございます。できれば食事付きで1泊大銅貨2枚でお願いします」


「あらあら、あの時に比べたらずいぶんとお金持ちになったわね。

そんなに高くて大丈夫なの?」


 貧乏人が集まるこの一帯では、日に大銅貨2枚の出費は、大きなお金とも言える。

 しかし一般的な宿から比べたら、食事付きで大銅貨2枚はかなり破格だ。

 安い宿でも食事付きなら大銅貨4枚は取られる。


「先払いでいいですよ、5日分渡しておきます」


 テーブルの上に置かれた銀貨1枚。

 それに目を見開くノーム。


「あらあら、銀貨なんて見たのいつ以来かしら」


「5日を越えたらまた追加で払います」


「わかったわ、お部屋の用意するからすこし待っててね」


 キッチンから続く2ある扉の一つに入り、物置と化した部屋を片付けるノーム。

 その姿を見届け「ふぅ」と短い息をつくリーゼ。

 これでしばらく身を隠す場所の確保は出来た。

 昔兄と必死になって、街の中を這いずり回っていたことが、役に立つなんて人生わからないものだ。



 一方、独房の圭は。

 使役パンツを牢屋に戻し、一安心していた。


「さてと、リーゼはこれで安心だ。

あとは領主と会うだけだな。

朝に魔力はほとんど使ったし、今日出来ることはなさそうだけど……。

あ! 魔力といえば明日のパンツとブラ、どうすっかな」


 圭は毎朝ブラウン服店に品物を卸そうと思っていた。

 この街に居る間は毎日店に行くと約束したのだ。

 事情はどうあれ、連絡もなしに約束を破るのは気が引ける。

 せっかくこの街でパンツとブラを広める土台ができたのに、これでは意味がない。


「んー、まいったな」


 パンツを飛ばすことは出来ても、メッセージを伝えることは出来ない。

 そういえば、この世界に来てから言葉は通じたけど、文字は共通しているのだろうか?

 そもそも文字をちゃんと見たことないし、文字自体を見ることがない。

 この世界の文字普及率はかなり低いのではないだろうか。

 フェルミ商会で会頭が木簡に文字を書いていたが、ちゃんと見ていない。


「てか、書くものがないじゃん俺。

ダメだ、連絡の取り様がない」


 ベッドに身を投げ出したまま、圭は手から黒いパンツを出し。部屋の中を飛ばす。


「これだけじゃ、意味ないよな」


 飛ぶパンツを視線で追いながら、そのパンツを廊下へと飛ばしてみる。

 視界からパンツが消えると、パンツ視点の映像が脳内に映る。

 暇つぶしに廊下の様子を見ると、牢屋の個室は全部で5部屋あり。

 圭は入り口から3番目。真ん中の部屋にいた。

 今のところ圭以外は牢屋に誰も入っていない。


「ん? 一番奥の部屋は、窓壁が2面あるな、つまり建物の角ってことか。

あとは看守の動きを把握すれば行けるかも」


 圭が何か思いつたようだ。



 翌朝未明。まだ陽も昇らない真っ暗な時間に圭はブラウン服店の前に立っていた。


「娑婆の空気は美味いなぁ~」


 リアルで一度は言ってみたい台詞を口にして圭は満足顔だった。


「まさか、投獄と脱獄を一度に体験できるとは、領主さまさまだな」


 店の中を覗くと、当然真っ暗で誰もいない、もちろん入り口は施錠してある。

 店の裏手にまわると2階へと続く外階段があり、どうやらそこが住居スペースのように見えた。


 2階のドアをノックする、早朝なので寝ていたら起きるかどうか賭けではあったが。

 ノックし続けること5分くらいで、部屋の中から灯りが漏れるのが見えた。


「こんな朝っぱらから、誰ですか」


「ブルーレットだ、非常識な時間ってのはわかってるんだが、ちょっと開けてくれないか」


「え? ブルーレット様ですか! 今開けます」


 出てきた寝巻き姿のオーナーは、圭を家の中に入れ、従業員用の部屋で寝てるメリッサを叩き起こした。

 どうやらメリッサは住み込みで働いているようだ。


「あれ? ブルーレッロ様じゃないれすか」


 寝起きで呂律が回っていないメリッサ。目をこすりながらフラフラしている。


「こんな朝早くにごめんね、ちょっと色々やらかしてさ。

暗い時間しか来れなくなったんだよ、今日の分、納品したいんだけどいいかな」


 その台詞を聞いたメリッサは「パンツ!」と叫んで目をクワッと開いた。

 ちょっと怖いですよ、メリッサさん。

 さすが自称パンツの伝道師、といったところか。


「それでどうしようか、またパンツとブラ、300ずつでいい?」


「それがですね、パンツはもちろんなんですが、ブラのほうも昨日一日であっという間に。

用意していた15種類以外のサイズのお客様も居まして、一応予約という形でオーダーを受けました。

作ることってできますか?」


「もちろん可能だよ」


 メリッサから詳しく話しを聞くと、BやFは多少売れ残ったが、C・D・Eが全然足らず。

 さらにスポブラも完売、少数でGやHの予約が数件。


 下着にかける女子の情熱というか、一瞬で噂が広まる女子ネットワークに驚いた。

 この世界にスマホとかLINEってないはずだよな?


 メリッサと生成するブラの数を、売れ筋に合わせて調整する。

 今日はスポブラ込みでブラ350枚、パンツ250枚生成した。

 パンツは先行販売していたので、ブラの販売量を追い上げる枚数に調整する形となった。


「それでは今日の分で、金貨1枚です」


 金貨を受け取り、オーナーに明日以降の話をする。


「今日はこんな時間になったけど、明日は正直何時に来れるかわからない。

ちょっとゴタゴタしてて、最悪来れないかもしれない、とだけ言っておくよ。

なるべく来るようには頑張るけど、来れなかったらごめんね」


「わかりました、こちらも無理言って卸していただいておりますので。

どのようなご事情かはわかりませんが、お越しいただける時で一向に構いません。

今後も取引の程、よろしくお願いいたします」


「ああ、頼むよ」


 早朝の納品を終えた圭は、日の出前の闇夜にまぎれて牢屋へと戻った。

 官憲詰め所の裏手から、壁に穴が開いた場所をすり抜けて牢屋へと入る。

 そこは独房の一番奥の部屋、真っ暗の中、天井から床に縦にはめられた鉄格子を、飴細工を曲げるかのように手で曲げる。

 廊下へと出た圭は曲げた鉄格子を元のまっすぐに戻し、同じ手順で真ん中の自分が入れられた部屋に戻る。

 自分のいる部屋の壁を壊すとすぐにバレると思った圭は。

 看守が見回りにいかない、一番奥の部屋の壁を壊すことにしたのだ。

 看守が見回りに来るのは入り口から圭の部屋までである、それより奥は誰も留置されていないから行く必要がないのだ。


 いずれ壁の穴はバレるが、それは数日後の話だ。

 なにくわぬ顔でベッドに横になった圭は、呼び出しがかかるまでのんびり待つことにした。


寝起きのメリッサはちょと可愛かったみたいです。

まあ、すぐにパンツで台無しですが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほっこり良い人が能力を持ってるストーリー大好きです。パンツにブラにコスプレ服に萌え要素満載続きも楽しみにしています! [一言] おにいちゃんがんばって!これ書くためにここの会員登録しました…
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