028 圭の想い
「信じる信じないはリーゼ次第だけど、今から話すことは、俺にとっては全部本当だ。
まず、俺は元々人間だ、こことは違うすごく遠い国、日本って国にいた。
そこで俺は罪を犯したんだ。取り返しのつかない罪を。
そしてその罪を償うために、魔族になることを選んだんだ。
これはもう呪いだよな、人間から魔族になるなんて。
でもこの罪を償うにはそうするしかないんだ。
俺の罪を償う方法はひとつ、この世界の人間を魔族の脅威から救うこと。
魔族に対抗するには同じ力を持った魔族でしか太刀打ちできない。
だから魔族になるしかなかったんだ。
魔族からこの世界を救うことができたら、俺の呪いは解ける。
本当の意味で人間に戻ることができるんだ」
「納得したよ、やっぱり人間だったんだね」
「俺の目的は魔族を倒すこと、いや、魔王かな。
だからこの先の旅がどれだけ危険かわかるだろ?
魔族の体になったからわかるけど、この能力は人間のそれとはレベルが違いすぎる。
もしリーゼを連れていったとしても、魔族相手に守りきれる自信がない」
「うん……」
「そしてもうひとつ、リーゼが知りたがってた俺のスキルだ。
いまのとこ俺のスキルは3つ。
1つ目はパンツを作れる。
2つ目はパンツとかの衣類を収納できる。
そして3つ目は、パンツを頭に被ると本来の人間の姿に戻れる。
ただし、そのパンツには条件があって、女が履いたパンツじゃないとダメなんだ。
完全にふざけた呪いだろ?
ほかにもこれから覚えていくスキルがあるけど。
おそらく似たり寄ったりの変態じみた制限のかかったスキルのはずだ。
ほんとに厄介だよこのスキルは。
ちなみに変身できる時間は、パンツを女が履いた時間の20分の1。
リーゼから貰ってるパンツは、24時間履いてるから、変身できるのは1時間ちょっとだ。
徴税官の時に人間の姿を見たろ? あれがパンツの力を使った姿だ」
「それじゃ幻惑の魔法って言ってたのは」
「嘘だよ、説明しにくいから、それらしい嘘ついた」
「そうか、あれが、ブルーレットの本当の姿……」
「この先、魔族とやりあうには、おそらく大量のパンツが必要になると思う。
そもそもこんなスキルが用意されてる時点で、魔族の姿だけじゃダメなはずだ。
人間の姿じゃないとダメな制約がこれから出てくると思う。
それも全部ひっくるめて、俺にかけられた呪いなんだ。
今はまだ魔族に出くわしてないから余裕があるけど。
実際魔族に会ったら、今みたいに誰彼助けてる余裕なんてなくなるかもしれない」
「そうだね、うん。
ブルーレットの目的は魔王を倒して、人間に戻ることなんだよね?」
「まとめるとそうなるな」
「そしてこれからもパンツが必要になる」
「ああ、そこは触れないでよ」
「わかった、やっぱり一緒に行く」
「え? ちょっと、話聞いてた? 危険だから連れて行けないって俺話したよね?」
「うん、それでも行く。それでもし私が死ぬことになっても後悔はしない。
いつかブルーレットが人間に戻ったときに、私はその隣に立っていたいの。
それに私の履いたパンツが必要なんでしょ?
だったら私を使ってよ、恩返しさせてよ」
「俺が魔王を倒してから、村に戻るってのじゃダメなのか?
必ず村に帰るから」
「ダメ。ねえ、ここまで言ってわかんないの?
魔族とか人間だとかそんなことどうでもいいの!
私はブルーレットと一緒にいたいの! 添い遂げたいのっ!
わかれよバカ!」
「バカですか」
「うんバカ、でもそんな変態に惚れた私もバカだよ」
リーゼから視線を外し、天井をじっと見つめる圭。
もしリーゼの兄が生きていて、村に家族が揃ってたら。
リーゼはこんなこと言わなかったのではないだろうか。
大切な家族が1人1人といなくなり。
そして自分を救ったヒーローが目の前に現れた。
寄りかかれる家族に代わるものが現れた。
それに自分の人生を預けたい、そう思ってしまっただけではないのか。
惚れたと勘違いして。
弱い子供が、この先を生きていくのに強い者にしがみつく。
それはとても当たり前のことだ。
リーゼは「助けた責任を取れ」と言った。
考え方を変える。
1人を救えなくて万人を救えるのか?
答えは『否』だ。
1人さえ救えない者にこの世界を救うことなどできない。
やりもしないうちから、出来ないと言うのは逃げだ。
人の命がかかってるから連れて行けないだと?
いつから俺は万能の神になった。
これからも魔族に殺される人間は後を絶たないだろう。
その全てをとめられるほど俺は万能なのか?
違う、そう思ったとしたらそれは驕りだ。
なら手の届く範囲だけでも、守ればいい。
手の届く範囲で、この運命に抗えばいい。
結果として全ての人を救うことは出来ない。
でも多くの人は救える。
難しく考える必要なんてなかった。
「ケイ・オクダ、俺が親から貰った本当の名前だ、人間の時の名前」
頭の中を整理したら、気が楽になって、気が付いたらそんな台詞を吐いていた。
「ケイ、それがブルーレットの本当の名前……」
「ブルーレットは俺が魔族になった時に自分で付けた名前だ。
もし、俺が目的を達成して、その時に隣に立っているのが、リーゼだったら。
ケイと呼んでくれると嬉い」
その言葉に全ての返事が込められていた。
意味を察したリーゼの顔が思いっきり笑顔になる。
「うん! わかった!」
勢いよく圭に抱きついたリーゼは、そのまま腕の中で幸せをかみしめる。
この幸せを絶対に手放したりはしない。
たとえ魔王が敵だろうと、そんなの関係ない。
添い遂げてみせる。私の人生はこの男のためにあるのだ。
「これからもよろしくね、ブルーレット」
「ああ、これからもよろしくだ」
2人は抱き合ったまま眠りについた。
そして夜が明け朝。
「おはようリーゼ」
「うん、おはようブルーレット。
なんか照れるね、あはははは」
照れ笑いのリーゼをぼんやりと見つめる圭。
これが朝チュンってやつか!
これがリア充の朝チュンってやつか!
爆ぜろ俺!
なんてな、そんな勘違いには騙されませんよ。
伊達に童貞25年もやってないよ。
イケると思ったら勘違いだったって自己嫌悪。
その数は両手じゃ足りないんだよ。
『あ、ゴメン、勘違いさせちゃったね、そういうつもりじゃなかったんだけど』
思い出すだけで死にたくなる!
いい加減学習するさ。
リーゼの言った「惚れた」だの「添い遂げる」だの。
寄りかかれる相手に安心しているだけの、勘違いかもしれないのだ。
いずれ本人も気付くかもしれない。
それまでは『保護者』を貫くと決めた。
25にもなってこっ恥ずかしい勘違いなど御免だ。
旅が終わってもリーゼが同じ事を言ったら、その時は真剣に考えよう。
その時まで俺はお父さんかお兄さんだ。
リーゼは昨日と同じドレスに着替え、寝巻きは圭が収納する。
適当に朝食を済ませ。先ずは昨日の服屋へ行く。
「おお、お待ちしておりました!
ささ、どうぞこちらへ」
「ああ、約束通り、パンツ500枚持ってきたよ。
ちょっと更衣室借りるね、そこに荷物出すから」
圭は更衣室に入りカーテンで目隠しすると、一気に500枚のパンツを収納から出した。
実はこの収納、1枚出すのも100枚出すのも一度に出来る、ストック分を際限なく手から一気に出せるのだ。
但し収納するときは手に触れているのが条件なので、一気にというわけないはいかない。
「おまたせ、更衣室に置いてあるから確認してくれる?」
「はい、ではさっそく」
更衣室に入る店員、メリッサは山積みになったパンツに悲鳴を上げる。
「ぬおおおおおお! なんじゃこりゃ! すげー! すげーよ!」
興奮しまくりのメリッサを、オーナーがたしなめる。
「メリッサ君、お客様の前ではしたないですよ」
「でもオーナー、これ見てくださいよ! 500枚ですよ500枚!
圧巻ですよ! 鼻血ものですよこれ」
「だからはしたいですよ、ここは品位ある店なんですから」
ウキウキで山盛りのパンツをカウンターへ運び、数を数える店員。
やはり腐ってもプロの店員だ。
色の仕分けから数えるスピード、普段から大量の衣類を扱ってるプロの手捌きそのもだった。
「はい、5色で100枚ずつの500枚、確かにいただきました。
それでは代金のほうを、お受け取りください、銀貨25枚です」
「はーい、銀貨25枚受け取りましたー」
財布係のリーゼが銀貨用の巾着に納める。
「ところでオーナーさん、ちょっと聞いてみるんだけどね。
この店は自分の工房で服を作ってるんだよね」
「はい、当店の服は委託販売以外の商品は全て当店のオリジナルです。
そちらのお嬢様がお召しになられているドレスもそうですよ」
「なるほど、もしもの話しなんだけどね。
一角狼の毛皮、それも傷ひとつない完全な1匹分の1枚物が手に入るって言ったら、金貨何枚で買う?」
「え? 一角狼の毛皮ですか! 当店でも何回かは扱ったことは御座いますが。
傷ひとつない完全な物なんて聞いたことないですよ。
ウチで扱ったことのあるのものはせいぜい、帽子などに加工できる程度の大きさです。
それでも仕入れ値で金貨1枚以上します。
それが1匹分の1枚物となると」
「天井知らずの値がつくよね」
「はい、ウチで仕入れるとしたら、金貨25枚から30枚でしょうか」
「それじゃ、仕入れてくるから金貨30枚用意できる?」
「え? あるのですか?」
「あるんだなこれが、どうせ卸すならちゃんとした服屋に卸したいと思ってね。
どうかな、買ってみない? これだけ高い服売ってるんだから資金はあるよね」
「是非! 是非譲ってください! 今お持ちですか?」
「いや、早くて明日の午後だな、卸せるのは3枚だけど、何枚買う?」
「3枚もあるのですか! 信じられない、こんなお話がウチの店に!
しかし、今ご用意できる金貨はせいぜい70枚くらいです、買えて2枚ですね。
もっと資金があればいいのですが」
金貨70枚、それだけでも2000万円相当だ。
高級服屋ってのはそんなに儲かるもんなのだろうか。
「わかった、それじゃ明日中に毛皮2枚持ってくるから。
金貨60枚お願いね」
「ありがとうございます、こんなお話、一生に一度あるかないかの取引です。
それがあればこの領だけでなく、王都相手にも商売ができます」
「それはよかった、また明日来るね」
「はい、お待ちしております」
服屋を後にする圭とリーゼ。
「凄いね、あの毛皮が金貨60枚になるなんて」
「これからの旅を考えるとね、資金は多いに越したことはないよ。
もちろん全部持っていくわけじゃないよ、村にも分けるから」
「村長びっくりするね、「この村に金貨なんかいりません」って言うかも」
「ああ、そうかもしんない。
でも置いていくけどね、なにかあったときお金は絶対あったほうがいいから」
そして街でフラフラしながら時間を潰して、辿り着いたフェルミ商会。
「お待ちしておりました、ブルーレット様」
「ああ、品物は用意できた?」
「はい、全て荷馬車に積んでおります、ご確認されますか?」
「いや、量が量だから見たくない、そちらを信用して代金だけ払うよ」
「ありがとうございます、商会にとって信用は第一ですからね。
それではお代金のほうですが、金貨1枚に銀貨6枚です。
端数は値引かせていただきました」
36万円相当の買い物だった、何を買うかは圭は聞いていない。
すべて村長とリーゼにお任せしたのだ。
これで村が豊かになるなら安い買い物だ。
「リーゼ、支払いお願い」
「はい、金貨1枚に銀貨6枚」
「確かに受け取りました、ご利用ありがとうございます。
そういえば、昨日とお召し物が違いますね。
ブラウン服店からお荷物が届いておりました。
このドレスもそちらでお買い求めになられたのですか」
「ええ、店の名前ブラウンって言うのかあそこ、知らなかった」
「貴族様がお召しになられるような素敵なドレスですね、とてもお似合いですよ」
「ありがとう、普段は農婦の格好なんだけどね、オシャレしろってブルーレットが」
「似合うだろ? 可愛いだろ? リーゼだからな!」
親バカの気持ちがちょっと分かった圭。
だが可愛いと誉められたリーゼは顔を赤くしてニヤニヤと口元を緩める。
「可愛いって……/////////」
そんなリーゼの気持ちをつゆ知らず、圭は荷馬車の方へと歩く。
荷台を確認した圭が「げっ」っと声を上げた
荷台ビッシリの商品、それはつまりリーゼが入るスペースがないという事だ。
「リーゼ、荷台はダメだ、御者台に乗るしかなさそうだぞ」
「マジですかブルーレットさん」
「マジですよリーゼさん」
「怖いしおしりが痛くなるんですよブルーレットさん」
「我慢してくださいリーゼさん」
「ううー、我慢する」
「とりあえず、追加で布団買って座席に乗せるか、そして毛布にくるまれリーゼ」
「そうする、帰ったらご褒美ほしい」
「ご褒美?」
「添い寝に腕枕、あと寝るまで頭なでなでを要求する」
「段々要求がストレートになってきたな、お父さんちょっと怖いぞ」
「誰がお父さんやねん」
布団を追加で買い、圭の指示でドレスから普段着に着替えたリーゼは、毛布お化けと成り果て、御者台のヌシとして8時間君臨した。
昼に出て、村に着いた頃にはすっかり陽も暮れ、各家々に明かりが灯っている時間だった。
暗いので荷物を降ろすのは明日にした。
リーゼにキモイと評判の方法で、Lサイズを含むパンツ700枚を生成した。
800枚にしなかったのは、魔力切れを起こしてリーゼより先に寝たら、リーゼが怒ると思ったからだ。
そして圭はリーゼの要求通りに、添い寝と頭ナデナデをするのだった。
本文中に一体何回「パンツ」と出てくるのか。
いつか数えてみたいなぁ。
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