第78話 氷界の王
「クリスタ……?」
男の人が言った耳慣れない言葉に、頭の中に疑問符が浮かぶ。この人……何の事を言ってるの?
「っ、テメェっ!」
「サーク!?」
けど私と違い、その単語を聞いたサークの表情がサッと変わった。そして素早く男の人との距離を詰め、曲刀を振り下ろす。
「おっ、速いねェ!」
男の人はそれに嬉しそうに笑うと、体を捻り紙一重で曲刀をかわす。そして掌を拡げ、掌打をサークのお腹目掛けて繰り出してきた。
「……っ」
その瞬間、サークの顔が一気に青ざめる。咄嗟に後ろに大きく飛んで掌打をかわしたサークに、男の人は心底愉快そうな笑みを浮かべた。
「ほォう! 異世界の人間がオレ様の力に気付くかよ! さてはテメェ、精霊使いだな?」
「テメェ……その手は一体何なんだ!」
額に脂汗を浮かべながら、男の人を睨み付けるサーク。……あんなサークの様子、見た事がない。
対照的に、男の人の笑みはますます深くなる。そしておもむろに、私の方を振り返った。
「そういや『神の器』ちゃんに自己紹介しておかねェとなァ。オレ様の名はバルザック。テメェらの言う異神、ヴァレンティヌス様に仕える『四皇』が一人よ」
「『四皇』……!」
その名前を聞いて、私はすぐに身構える。この人もあのノアと同じ、敵幹部の一人……!
けど、この人……私を見てクリスタって言った? クリスタってもしかして、私の事なの?
「オレ様のもう一つの通り名は『氷界の王』。……そこの精霊使いはもう勘付いてやがるようだから、特別に見せてやる」
そう言って、男の人――バルザックが、すぐ側の木に触れる。すると――。
「……!」
思わず、目を見張った。木が……バルザックの触れた部分から、氷に覆われていく!
発生した氷は枝の先、落ち切っていない葉の一枚一枚まで逃す事なく包み込み。木はあっという間に、木の形をした氷像へと姿を変えた。
唖然とする私に、バルザックは、獰猛な笑みを浮かべて言った。
「オレ様の触れたものは、総て凍り付く。それが――この通り名の由来だ」