表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星空の小夜曲~恋と未来と、少女の決意~  作者: 由希
第2章 中央大陸編
83/188

第67話 海から這い寄るもの

「……ん……」


 沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。そこで私は漸く、自分が夢を見ていた事を認識した。

 ゆっくりと、重たい瞼を開ける。すると目に飛び込んできたのは、薄暗い船室の木の天井だった。


「……何だか、懐かしい夢見ちゃったな……」


 瞼の裏にぼんやりと残る、夢の残滓に頬が緩む。あれが、サークをハッキリと意識し始めた切欠だったんだよね……。

 船室は一人一部屋構造になっていて、サークとは久々に別々の部屋だ。私は大きく伸びをすると、いつもの旅装に着替えて甲板へ向かった。



「んー、いい風!」


 甲板への扉を開け放つと、気持ちのいい潮風が体を包み込む。さっきまで船内にいたから、遮る物のない朝の太陽が少し眩しい。

 今日もきっと、あの人はあそこにいる。そう確信を持って、私は船首へと歩を進める。


 人が多いとは言え見晴らしのいい甲板は、人を探すのも容易だ。私はすぐに、目当ての人物を見つける事が出来た。


「サーク!」


 こっちに背を向けた、その人の名を呼ぶ。私の声に振り返った美貌のエルフの青年――サークは、私に気付くと小さく手を振った。

 私は人にぶつからないようにしながら、小走りにサークに駆け寄る。そして隣に並んで立ち、遠い水平線を見つめた。


「陸、まだ見えないね」

「ああ。着くのは今日の昼頃の予定だしな」


 再び海に視線を戻したサークが、私の言葉に頷く。その横顔を、私は海を見るフリをしながらそっと覗き見た。

 サークは海を見るのが好きだ。前に船に乗った時も、こうして一日中船首で海を見ていた。

 理由を聞いたら、「海の向こうを想像するのが楽しいから」だって。いかにもサークらしい理由だよね。

 かくいう私も、海は好きだ。正確に言うと、海を見ているサークを見るのが好きだ。

 だって、海に反射した太陽の光がサークの紫の瞳に映り込んで、本物の宝石みたいにキラキラ輝くから。これはきっと私と――亡くなったひいおじいちゃまだけが知ってる、秘密の宝物だ。


「どうだ? 久しぶりに中央大陸に戻る気分は?」


 飽きる事なく輝く紫の瞳を見つめていると、不意にサークが振り返ってそう聞いてきた。急な事に、私は不自然な感じで目を逸らせてしまう。


「ま、まだ実感が沸かないかなっ」

「まぁ、最初はそんなもんだ。そのうち「ああ、帰ってきたな」って気になってくる」


 幸いサークは私の様子には気付かなかったようで、ポンポンと私の頭を撫でてくる。う……いつになったらこの子供扱いなくなるのかな……。


「まぁまずは、先に中央大陸に渡った色ボケ神官とコンタクトを取る事からだな。多分ギルドに言伝てがあると思うが……ん?」


 不意に、サークが海面に目を向ける。私も釣られるように、船の下を覗き込んだ。

 見えたのは、船の周りを取り囲むように沸き上がる不自然な泡。……これは!


「おい! 魔物が来るぞ!」


 そうサークが叫ぶと同時。海中から無数の青色の手が生え、船にしがみついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ