第66話 「どこにいても、必ず見つける」
サークはそれから、半年に一度くらいの頻度で家を訪れるようになった。その度に私はサークに遊んで貰ったり、昔の冒険の話を聞かせて貰ったりした。
一番よく遊んだのはかくれんぼ。私はいつも隠れる側で、サークはいつも探す側。
私がどこに隠れても、サークは必ず私を見つけて。それが悔しくて、何度も何度もサークにかくれんぼを挑んだ。
『お前がどこにいても、必ず見つけてやるよ』
それがかくれんぼの時の、サークの口癖。実はサークが精霊に私の居場所を聞くというズルをしていたのを知ったのは、それからずっとずっと後の事だったけど。
本当なら、他愛のない軽口として風化する筈だった言葉。けど――。
――ある出来事を切欠に、この言葉は、私にとって絶対に忘れられない言葉になるのだ。
十歳の頃の話だ。小さな頃から大事にしていたぬいぐるみが、もうボロボロだからとお父様に捨てられてしまった事があった。
私は物凄く怒って、お父様と生まれて初めて大喧嘩をした。そして遂には馬に乗って、家を飛び出してしまったのだ。
けれど、メチャクチャに走り回ってしまったのが悪かった。気が付くと私は――自分がどこにいるのか、どうやって帰ればいいのかすらも、全く解らなくなってしまっていた。
『……ひっく……ぐす……』
小さな丘の上の大木。その根元に座り込んで、私は一人泣いていた。
帰りたくなくて、ひたすら馬を走らせたのに。いざ本当に帰れないと解ると、途端に心細くなって。
そのうちお腹も空いてきて。涙が溢れて、止まらなくなって。
皆のいる家に帰りたいって。そればかり考えながら泣いていた。
『帰りたいよぉ……お父様、お母様ぁ……』
そう呼んでみても、誰も返事をしない。当たり前だ。ここには私しかいないのだから。
『兄様ぁ……ひいおばあちゃま……会いたいよぉ……』
傍らの馬が、泣きじゃくる私の頬を舐める。それでも、私の涙は止まらない。
そうして、私は。一番会いたい人の名前を呼んだ。
『……サークおじさまぁっ……!』
『クーナ!』
聞こえる筈のない声に、顔を上げる。涙で滲む視界の向こうに、こっちに向かって駆けてくる人影が見えた。
『おじさま……?』
『良かった……! 怪我はないか!?』
駆け寄ってきた誰かは、目の前にしゃがみ込むと私を優しく抱き締めた。その温もりに――目の前にいるのは、間違いなくサークだと確信したのだ。
『おじさま……何で……?』
『今日ここに着いたんだ。そしたらお前が馬に乗って飛び出してったって聞いて……すぐに探しに出たんだよ』
『……どうして、ここにいるって解ったの……?』
不思議に思って、私が聞くと。サークは少し乱暴に頭を撫でて。
『言ったろ。お前がどこにいても、必ず見つけるって』
そう、力強く笑うのを見て。私はまた、大泣きしたのだった。
ひとしきり泣いた後、私はサークの誘導で無事に家に帰る事が出来た。お父様もお母様も、兄様まで半泣きで、私は皆に揉みくちゃにされた。
この日以来、私には夢が出来た。サークに認めて貰えるような、立派な大人になる事。その為に、昔からの憧れだった冒険者を本格的に目指す事。
初めて自覚した想い。サークと、ずっと一緒にいたいという想い。
どんな時でも私を見つけてくれるサークの為に、私、心に誓ったの。
サークが「見つけて良かった」って思ってくれるような、そんな、サークに相応しい女性になる事を――。