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第59話 『四皇』ノア

「な、何だこれは!?」

「これじゃ広場を出られない!」


 突然広場を封鎖され、辺りに混乱が巻き起こる。私達もまた突然の事に反応出来ずにいると、何もない空間からピンク色の髪の少女が現れ、物見やぐらの上に降り立った。


「……あれは!」


 その姿は、決して忘れはしない。少女は私達を見つけると、どこか狂気めいて見える笑みを浮かべた。


「アハッ、久しぶりィ、子ねずみちゃん達♪」

「――ビビアン!」


 少女――ビビアンを、私はキッと睨み付ける。ビビアン……今度は何をするつもりなの!?


「何だ、あの娘は!? クーナ、お前達の知り合いなのか!?」

「詳しく話してる暇はねえが、アイツは敵だ! 色んな国で騒ぎを起こしてやがる、その元凶だ!」

「何だと!?」

「アレェ、新しいのが増えてるジャン。手駒に使えるカナ?」


 まるで品定めをするように、私の背後のベルを見るビビアン。そんなビビアンに、私は叫んだ。


「ビビアン! 一体何が目的なの!」

「決まってるデショ? アンタ達をコッチに迎える準備が整ったのと、それと……」


 そこまで言うと、ビビアンは右手をスッと地面に向けた。そして、その空色の瞳を剥き出さんばかりに開く。


「カミサマの為の祭りなんて目障りなモノを、ブチ壊しにするタメ! 『エントの城壁フォレストキング・ウォール』!」


 ビビアンの叫んだ言葉と同時、広場を覆った太い蔓が私達の周囲から飛び出してきた。……まずは、この蔓を何とかするしかない!


「『我が内に眠る力よ、爆炎に変わりて敵を撃て』!」

「風の精霊よ、このクソ忌々しい蔓を切り飛ばせ!」

「くっ、状況は飲み込めんがやるしかないか!」


 私の炎とサークの風の刃が、それぞれ逆方向の蔓を吹き飛ばす。それによって開いた隙間からベルが飛び出し、私達と同様に蔓に襲われている人々の救援に向かった。


「クーナ、手を休めるな!」

「うん! 『我が内に眠る力よ、爆炎に変わりて敵を撃て』!」


 私は何度も解放の言葉を唱え、蔓が密集した場所に炎を放って焼き尽くしていく。私の撃ち漏らしは、サークとベルが協力して刈り取った。

 そうして漸く蠢く蔓が見えなくなった時には、辺りは燃えたり千切れたりした紫の蔓で埋め尽くされていた。


「ハァ、ハァ……」

「フーン、アレを凌いじゃうんだ。その辺のどうでもいいのが二、三人くらいは死ぬと思ったんダケド」

「いつまでも高みの見物してねえで、そろそろ降りてきちゃどうだい? 大人として、悪ガキにはキッチリお仕置きしねえとなぁ!」


 曲刀を肩に乗せながら、サークがビビアンを挑発する。ビビアンはそれに、ニンマリとした笑みを返した。


「イ・ヤ! ビビアンをどうにかしたきゃ、ソッチから来ればァ?」

「……生意気な女だな。ああいうのは私も好かない」

「ベツにアンタ達に好かれなくたってイイし! ビビアンにはノアがいればそれで……」

「……何を遊んでるの。ビビアン」


 その時突然、この場にいる誰のものでもない声が響く。見るといつの間にか、ビビアンの隣に一人の少年が立っていた。

 髪の色は、ベルより少し昏い金髪。顔の上半分を目に細い穴の空いた白い仮面で覆ったその少年は、この場には場違いな程の穏やかな笑みを浮かべている。


「ノア~ッ! やっと来たァ!」

「お待たせ、ビビアン。駄目じゃないか、ちゃんとターゲットを捕縛するように言っておいただろ?」

「エヘヘ、ゴッメーン! すぐに終わらせたらタイクツって思ってつい♪」


 仮面の少年を見た途端、ビビアンは今までとは打って変わった無邪気な笑顔を浮かべて少年に抱き付く。そんなビビアンの頭を片手で抱き、ペットにするように撫でながら、少年は仮面の下の目を私達に向けた。


「やぁ、君達がビビアンから報告のあった人達だね」

「……誰だ、テメェは」

「お初にお目にかかる。僕の名はノア、唯一神ヴァレンティヌス様にお仕えする『四皇しこう』が一人」

「唯一神ヴァレンティヌス……何だソイツは、そんな神の名は聞いた事がないぞ」


 一応神職に就いているベルが、戸惑いの声を上げる。聞いた事がなくて当たり前だ。それこそが多分、今この世界を侵略しようとしてる異神の名なんだから。


「フフ、ならば今覚えるといい。……大いなる畏敬の念と共にね」


 そう言って、少年――ノアが左手を高々と掲げる。その手に怪しげな赤い光が宿った時、サークが焦りの声を上げた。


「あれは!? 不味い、クーナ、逃げ……!」

「逃がさないよ。『絶対なる皇帝の威光グランドシャイン・エンペラー』!」


 ノアの手の光が一気に膨れ上がって弾け、辺り一帯を包む。光は私達だけでなく、広場にいた全員を包み込んだ。


「!!」


 その光の眩しさに、私は思わず目を閉じる。光の奔流は暫く瞼の裏で荒れ狂い、やっと治まった時には、目を開ける前からチカチカと視界が明滅するほどになっていた。


「何だったんだ? 今の光は……」


 ベルの困惑の呟きを聞きながら、そっと目を開ける。辺りには一見、何か変化があるようには見えなかった。

 ――いや。


「……おや。二人、効いていない奴がいるね」


 ノアの降らせたその言葉に、気付く。私とベル以外は、サークですら、全員その場に棒立ちになっている事に。

 そして一つ、重大な事を思い出す。異神の手先には、人を操る力を持つ者もいるという事――。


「……ベル! 今すぐサークから離れて!」

「何?」


 私が叫んだのと、サークがベルに向かって動き出したのはほぼ同時だった。そのまま斜めに振り下ろされた一撃を、ベルは辛うじて長剣で受け止める。


「ハッ、俺の一撃を止めるとはな!」

「何をする、野良エルフ! 気でも触れたか!」

「違うね。本当に仕えるべきなのは誰か気付いただけさ!」

「『我が内に眠る力よ、爆炎に変わりて敵を撃て』!」


 ベルとつばぜり合うサークに、私は腕の炎を消して全力の火球を放つ。サークはそれを見て素早く曲刀を引き、大きくバックステップを踏んで火球をかわした。


「オイオイ、ひでぇなクーナ。焼け死ぬとこだったじゃねえか」


 軽やかに着地しながら、不敵に笑うサーク。その声色も仕草も、私のよく知っているそれなのに。


「でもまぁ、お前がそうやってヴァレンティヌス様の邪魔を続けるってんなら……」


 サークの曲刀の先が、私へと向けられる。それは、まるで悪夢のよう。

 でも、これは現実。そして、私は、これから――。


「……ここで死んで貰うしかねえよなぁ。なぁ、クーナ?」


 ――最悪の相手と、戦わなければならないのだ。

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