第55話 不吉な予言
私達の手持ちとカゲロウさんの荷物にあったもの、ありったけの止血の薬を使って、やっとカゲロウさんの出血は止まった。
血の気を失い、すっかり青い顔をしているカゲロウさん。私達がしたのは応急処置に過ぎず、すぐにでも教会か病院に運び込む必要があるだろう。
「俺は、病院のある町まで荷馬車を出して貰えるよう村長達に掛け合ってくる。サイキョウには教会はないから、病院に連れてくしかない」
「解った。じゃあ私はここでカゲロウさんの様子を見てるよ」
「頼む」
そう言ってサークは立ち上がり、小屋を出て行った。残された私は、カゲロウさんの顔から吹き出る汗をタオルでそっと拭う。
「……ぅ……」
「!!」
不意に微かな呻き声がして、カゲロウさんの瞼がゆっくりと持ち上がる。カゲロウさんは開ききらない目で、私の方に視線を向けた。
「ぬしは……魔物は……?」
「大丈夫、倒したよ。あの男の子も無事だよ」
「……そうか……」
私の言葉に、カゲロウさんの顔に安堵が広がっていく。それから顔だけを動かし、辺りを見回した。
「……ここにいるのはぬしだけかえ?」
「うん、サークはカゲロウさんを病院に運ぶ準備をしてるよ。男の子は……カゲロウさんが怪我したショックで動けなかったみたい」
「……そうか。丁度良かった……ぬしだけに、話したい事があったゆえ……」
そう言って、カゲロウさんは真っ直ぐに私の顔を見る。……私だけに、話?
「何? カゲロウさん」
「……娘よ。妾はお主に一つ、嘘を吐いておった」
「嘘?」
「本当は、知っておったのじゃ。近くお主達が、妾の前に現れる事を。妾にはそれが『視えて』いた……」
告げられた言葉に、思わず息を飲む。カゲロウさんが、私達を視た……つまりそれは、私達に近々、避けられない災いが訪れるという事だ。
「で……でも、じゃあ、何でサークのいる時に言わなかったの?」
浮かんだ疑問を、私は素直に口にする。もし私達二人に危機が迫ってるなら、サークだって聞いておいた方がいい筈だ。なのに、何で私だけに……?
「それは……あの男に聞かれる訳にはいかなかったゆえに」
「……どういう事?」
「娘よ……あの男を信用するでない」
カゲロウさんが青い顔に、真剣な表情を浮かべる。そして、細いけどハッキリとした声で言った。
「妾に視えたのは、あの男がぬしに刃を向ける光景。あの男は遠くない未来、必ずぬしを裏切ろうぞ」
「……え……?」
そう告げられた瞬間。脳裏にサークの笑顔が浮かんで、儚く消えた。