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第51話 占い師カゲロウ

 村長さんから教えられた場所にあったその小屋は、いかにもあばら家という感じの小さく、粗末な作りだった。こんな所で文句も言わずに暮らしてるなんて、占い師って実はいい人なんじゃないかな……?と思ってしまう。

 占い師の事を怖がっているのか、辺りに人の気配はない。私達は、並んで引き戸の前に立った。

 まずサークが、トントンと引き戸をノックする。けれど、中からの返事はない。


「……いないのかな?」

「とりあえず開けてみるか」


 次いでサークが、引き戸に手をかけ開ける。その、次の瞬間。


「っ、危ねえ!」

「ふえっ!?」


 突然サークが、私を抱き抱える形で前に立った。直後に聞こえる、水の弾ける音。


「ヘヘッ、ザマーミロ!」


 サークの体越しに、聞き覚えのある幼い声が響く。今のは……さっき会った男の子?


「……っ、冷てえ……」

「サーク!?」


 微かな呟きにサークの顔を見上げると、濡れた髪からポタポタと雫が垂れていた。それを見た私は、すぐにサークから体を離す。


「体、濡れてる! 大変!」

「チェッ。そっちの奴は濡れなかったのか」

「……あなた!」


 ふと、サークの影に隠れる位置に立つ、両手に桶を持ったさっきの男の子の姿を見て、私はやっと何があったかを悟った。あの子が、桶に入れた水を私達にかけたんだ!


「何でこんな事するの!」

「お前達をカゲロウさんに会わせるもんか! また水をかけられたくなかったらさっさと帰れ!」

「……そうはいかねえな。俺達はどうしても、そのカゲロウとかいう占い師に用がある」


 濡れた体をそのままに、サークが男の子に向き直る。その顔を見て、男の子の顔がビクリと強張った。


「……な、何だよ。そんな顔したって怖くないぞ!」

「大人の邪魔をするからには、それなりの覚悟があるんだろ? ここに占い師はいねえようだが、居場所を知ってるなら吐いて貰おうか。でないとこっちも荒っぽい手段を取らせて貰うぜ」


 その言葉に改めて小屋の中を見回すと、男の子の他には誰の影も見えなかった。小屋には他に部屋はないようだし、人が隠れられるようなスペースも見当たらない。


「し、知らない……」

「嘘を吐くと為にならないぜ、坊主」

「本当だ! おれがここに来た時には、カゲロウさんはもういなかったんだ!」


 目尻に涙を浮かべながら、叫ぶように答える男の子。やった事はいけない事だけど、流石に脅しすぎかなと止めに入ろうとしたその時。


「お客人、そのわらしをあまりいじめんでやってくれんかの」


 私達の後ろから、不意に女の人の声がした。その声に、その場にいた全員の視線が私の背後に向く。

 そこにいたのは、とても美しい女の人だった。絶世の美女って、こういう人を言うのかもしれない。

 長く垂らした、雪のように白い髪。真紅のアイシャドーが塗られた、知性的な光を湛える深紫の瞳。

 女の私でも見惚れてしまうほどの美貌の持ち主が、そこにいた。


「お主達、妾に用なのじゃろう? 上がっておくれ。話は中でゆっくり聞こう」

「カゲロウさん、コイツらはカゲロウさんを追い出しに来たんだよ!?」

「大丈夫、この者達は悪い者ではない。妾が視えなかった(・・・・・・)からの」

「……本当?」


 女の人の言葉に、さっきまでの威勢が嘘みたいに不安げな声で男の子が問いかける。それに女の人が頷くと、男の子はこう声を上げた。


「……入れよ! その代わり、カゲロウさんに酷い事したら容赦しないからな!」

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