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第5話 包囲網

「クーナ、もっと急げ!」

「解ってる!」


 依頼のあった村までの道を、サークと二人、全速力で駆けていく。少しずつ息が上がり足も重くなってきてたけど、立ち止まっている暇はなかった。


 ゴブリン達の根城には、あれ以上のゴブリンはいなかった。在ったのは、食い荒らされ骨だけになった家畜の死骸だけだった。

 私達の抱いた疑惑が、確信に変わる。この家畜を食べて増えた本隊は……今根城から一番近い村に向かっている!


「でも何で、夜行性のゴブリンがこんな昼間に!? 村の人から聞いた前の襲撃だって夜だったでしょ!?」

「解らん。それに妙なのは、見張りと留守番役をわざわざ残してた事だ。まるで俺達を引き付けるみたいに」

「それって、ゴブリンが私達を誘き寄せて、その間に村を襲いに行ったって事!?」

「状況的にはそうとしか思えない。奴らにそこまでの知能はない筈なんだがな!」


 そこまで言って、「だが、もしかしたら」とそうサークは後に付け加えた。けどその先を言う前に、私達の目に舞い上がる黒煙が見えてきた。


「これ以上お喋りをしてる暇はなさそうだな。急ぐぞ!」


 私達はそれ以上の会話を止め、村まで急いで走る事に集中した。



 辿り着いた村は、酷い有り様だった。

 作物は荒らされ、残った家畜も肉や内臓を食い破られた無惨な姿で転がっている。家には火が放たれ、今にも焼け落ちそうになっている。


「酷い……こんな……」

「呆けてる暇はねえぞ、クーナ。ゴブリン共を探すんだ!」

「う、うん!」


 サークの指示通り、村を襲ったゴブリン達を探して村の中を探索し始める。と、建物の陰に蠢く姿があった。


「誰!?」


 警戒は解かずに、その誰かに呼び掛ける。すると、あちらこちらから見慣れた青紫色の肌がゾロゾロと現れ、あっという間に私達二人を取り囲んだ。


「ギギッ、ギギギッ」

「待ち伏せしていやがったか。住民総出で大歓迎、ってか?」

「冗談言ってる場合じゃないでしょ!?」


 自然と二人背中合わせになって、ゴブリン達に向けて構えを取る。この数、さっきまで戦ってたゴブリン達の比じゃない!


「……俺が道を作る。お前は村の奥に進め」

「え?」

「馬鹿、こっちを向くな!」


 どこからゴブリン達が来るかと周囲に目を配っていると、突然サークがそんな事を言った。その言葉に振り返りかけた私を、サークが声で制する。


「……いいか、このゴブリン達には必ず親玉がいる。そいつがゴブリン達を率いてるんだ」

「親玉って?」

「解らねえ。だが少なくとも、ただのゴブリンじゃないだろう」

「なら、道は私が作るよ! 纏めて倒すなら私の魔法の方が……!」

「クーナ」


 幾らサークでもこの数を纏めて相手にするなんて無傷じゃ済まない。そう思った私は抗弁するけど、私の言葉はサークの声に遮られた。


あれ(・・)。実戦で試したいっつってたろ」

「……!」

「ここに残ろうが親玉と戦おうが、危険度は一緒だ。なら少しでも、お前の将来にとって身になる方を俺は選ぶ」

「な、ならこのまま二人で……」

「その間に親玉に逃げられたらどうする。ここで最優先すべきは、一刻も早く敵の頭を潰す事だ。解るな?」

「……」


 そこまで言われたら、もう反論する事も出来なかった。解ってる。サークは私を信用して、一番大事なところを任せてくれる気なんだ。

 だったら……それに応えなきゃ女が廃る!


「……さっさと片付けて、すぐ帰って来るから。それまで生きててよ?」

「お前こそ、俺が行くまで死ぬんじゃねえぞ」


 背中越しに、サークがそう言って笑ったような気がした。私もまた強気に笑ってみせると同時、包囲をジリジリと狭めてきていたゴブリン達が一斉に襲い掛かってきた!


「んじゃあ行くぜ!」


 それを見たサークが、素早く精霊語を唱える。すると私達の周囲に、人形サイズで筋骨隆々の土の上位精霊の姿が浮かぶ。


「土の精霊よ、うちのじゃじゃ馬が通れるよう道を開けてやんな!」


 サークがそう叫んだ次の瞬間、地面から突然壁が現れてゴブリン達を遮る。それは私の見ている前で、ゴブリン達に向けて倒れ始めた。


「よし、行け!」

「うん!」


 私は倒れる壁の方向に走り出し、勢い良くてっぺんまで駆け上がる。そして壁が途切れたところで、全力で前に向かって跳躍した。


「ギギッ!?」


 下から、ゴブリン達の驚いた声が聞こえる。私はそのままゴブリン達の群れを飛び越えると、スタッと地面に着地した。


「ごめんね、あなた達の相手をしてる暇はないの!」


 振り返らずにそう言って、私は駆け出す。目指すは、親玉の首ただ一つ!

 待ってなさい、ゴブリンの親玉! この村に手を出した事、後悔させてやるんだから!

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