第38話 テオドラとプリシラ
「いや~、ホンマえろうおおきに~。今回ばっかりは流石にウチも人生終わりやと思うたわ~」
妙に間延びした奇妙なイントネーションで、目の前の女の子がニコニコと笑う。その様子は言葉とは裏腹に、さっきまで命が危なかったとは思えない和やかさに満ちていた。
テオドラと同じ、黒い髪に赤い瞳。違いは髪型が肩までの巻き髪な事と、唇の左下というテオドラとは異なる位置にホクロがある事。
彼女こそがオーク達に囚われていたテオドラの妹、プリシラだった。
「もうっ、シラぁ~! ボクすっごくすっごーく心配したんだからねっ!」
「堪忍な、テオ~。テオと違て初めての土地ではウチ無力なん忘れてた~」
涙ぐみながらプリシラに抱き着くテオドラと、テオドラにされるがままのプリシラ。それだけ見れば、感動的な姉妹の再会……なんだけど。
「……それじゃ、一見落着したところで改めてそっちの事情を聞かせて貰おうか?」
先にそう切り出したのは、やっぱりと言うかサークだった。プリシラはそれを聞いて、眠たげな目をパチパチと瞬かせる。
「んん? どういう事~?」
「ごめんシラ……ボク達の事バレちゃった……」
「え?」
申し訳無さそうに言うテオドラに、プリシラはテオドラと私達を交互に見る。そして小首を傾げながらこう言った。
「ん~……まぁバレたもんはしゃあないからウチは言うの構へんけど~……こっちの子にも聞かせるん~?」
そう言ってプリシラが目を向けた方向を、皆で一斉に見る。そこには。
「ムニャムニャ……もう食べられないデス……エヘッ」
体を丸めて絶賛夢の中にいる、神官服にビン底眼鏡の女の子がいた。
「まさかシラの他にも、捕まってる子がいたとはねー……」
眼鏡の女の子を見ながら、テオドラがしみじみと呟く。私もまた予想外の再会に、驚きを隠せなかった。
この子、確か前の依頼でこっちの妨害をしてきた神官の子……だよね? 何でこんな所にいるんだろう?
「……そいつはどうしたんだ?」
「ウチより前に捕まってて~……何や訳解らん事一方的に喚いた後、疲れて寝てもうたからウチもよう知らん~……」
サークの問いに、プリシラはふるふると首を横に振って答える。うーん……この子の事も気になると言えば気になるけど、まずはテオドラ達の事情を聞くのが先かな。
「この子は一旦寝かせといた方がいいと思う……まずは私達だけで話をしたいな」
「同感」
私とサークが言うと、テオドラとプリシラは互いに顔を見合わせ頷き合った。そして私達に、この世界に来るまでの道のりを一つ一つ語り始めた。