第34話 奇妙な少女
奇襲は見事成功し、突然の攻撃に統率の取れなくなったオーク達は散り散りになってその場から逃げていった。私は肩で息をする女の子に近付き、声をかける。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「キミは……?」
女の子が、少し警戒するような目で私を見る。私はそれに答える前に、まずは女の子の様子を観察してみる事にした。
歳は、多分私と同じくらい。黒髪を短めのサイドポニーにして、ちょっと露出度高めの動きやすそうな旅装からは活発そうな感じが見て取れる。
瞳の色はルビーのような赤。右目の下に、小さなほくろがあるのが特徴的だ。
そして何よりも目を引くのがその得物。私よりも小柄な彼女の手にしているのは、身の丈ほどもある大きな戦斧だった。
「……私は、クーナ。川に水を汲みに来たらあなたがオークと戦ってる音が聞こえて、助けに来たの」
サッと一通りの観察を終えると、私は女の子に笑いかける。女の子は暫く私をジッと見つめた後、こっちに敵意がない事が解ったのか構えを解いた。
「……ありがとう。ボクはテオドラ。キミが来てくれて助かったよ」
「良かった、お役に立てて」
「けどボクは、すぐアイツらを追わなきゃいけない」
真剣な顔をして言う女の子――テオドラに、思わず首を傾げる。するとテオドラは、悲しげに顔を歪ませた。
「一緒に旅をしてる妹が、アイツらに連れ去られたんだ。助けに行かなくちゃ」
「ええっ!? 大変! なら私も行くよ!」
「えっ?」
私の言葉に、今度はテオドラがキョトンとなる。そんなテオドラの手を取り、私は続けた。
「一人より二人、二人より三人の方が探しやすいよ! 私の仲間にも手伝って貰うから!」
「……」
ポカンとした顔で、私を見つめるテオドラ。その顔が、不意に可笑しげに歪んだ。
「……キミは変わった人だね。普通ならこっちの言葉をもっと疑うものなのに」
「えへへ、仲間にもよく「もっと人を疑え」って言われる」
「ふふ……ならお言葉に甘える事にするよ。ボクだけじゃアイツらの根城がどこにあるかも検討がつかないし。闇雲に探すしかないって思ってたんだ」
「そういう事なら任せて! 私の仲間は凄く探し物が得意だから!」
微笑み私の手を握り返すテオドラに、私もとびっきりの笑みを返した。
「……で、ソイツを連れて戻って来たと」
テオドラを連れてサークの所に戻り、起こった一部始終を話すと、サークは盛大に溜息を吐いた。そして冷めた目で、テオドラをジッと見つめる。
「うちのもうちのだが、お前もお前だ。んな都合のいい話信じてホイホイついてくるか? 普通」
「都合が良くてもすがりたかったんだ。こうしてあなたと会って、彼女が嘘を吐いてなかった事も解ったし……。お願いします! 一緒に妹を、シラを助けて下さい!」
テオドラが深々と頭を下げると、サークは頭を抱えてまた一つ溜息を吐く。それから曲刀を手に取り、腰に下げた。
「……ハァ。オーク共の根城がこの辺りにあるなら、いつ夜襲を受けるかも解らねえしな。潰しておくに越した事はない」
「……! ありがとうございます!」
顔を上げて喜ぶテオドラに、私も嬉しい気持ちになる。こういう時、口では文句を言ったって、サークは絶対困ってる人を見捨てたりしないのだ。
「それじゃサーク、早速……」
「ああ。この辺りの精霊達に、オークの根城の在処を聞いてみるか」
「……え?」
不思議そうな顔をするテオドラを余所に、サークが精霊語を唱えて下級の木の精霊を呼び出す。するとテオドラが、ビックリしたように目を見開いた。
「え、えええ!? 精霊がこんな簡単に出てきた!?」
「は? 何だお前、霊魔法見るのは初めてか?」
「ハッ……あ、あああそうですそうです!」
そんなテオドラにサークが怪訝そうな目を向けると、テオドラは慌てたようにコクコクと何度も頷いた。……何だろう。何か違和感があるような……?
「……女をさらったオークは東に逃げていったそうだ。俺達も向かうぞ」
テオドラの反応を若干不審に思いながらも、私達は精霊の示した方角へ向けて出発した。