表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/188

第30話 救いの一手

「ハア……駄目だ、全然見つからないよ……」


 サークと別れた私とベルは、ワイルダーさんに見つからないよう屋敷を隅々まで探索した。そのうち暗くなってきたので、火を使わずに灯りを点けられる魔道具、ポータブルカンテラも点けて暗がりを照らした。

 けれどどこにも、隠されているようなものは見つからなかった。屋敷の中に残されていたものは全部、すぐ目につく所にあったのだ。


「これだけ探してないとなると……やはり目的のものは屋敷の外へ運び出されたのか……?」

「どうしよう……そうだとするとお手上げだよ……」


 ベルと顔を見合わせ、どうしようかと悩む。と、私の目に一枚の絵が飛び込んできた。

 それは、年を取った女の人が描かれた肖像画だった。その顔は気のせいか、どこか憂いを帯びて見える。


「あれ……もしかして奥さんかな」


 私の呟きに、ベルも私の見ている方を振り返る。そして絵を目にした途端、形の良い眉がピクリと跳ねた。


「? あの絵……」

『カエセ……!』

「!!」


 ベルが何かを言いかけたその時。部屋の扉がひとりでに開き、ワイルダーさんが姿を現した。


「しまった……!」

『カエセ……カエセ……!』


 私を庇うように、ベルが私とワイルダーさんの間に割って入る。ワイルダーさんの表情はぼやけ、ゴーストのものになりかけている。


「お願いワイルダーさん! 正気に戻って!」

『カエセエエエエエッ!』


 必死に呼び掛けてみても、ワイルダーさんが反応する事はない。逆に辺りの瓦礫を操り、私達に攻撃を仕掛けてきた!


「くっ! クーナ、私の後ろから動くな!」


 それに対し、ベルが即座に印を結んで手を前に突き出す。すると飛来した瓦礫はベルの寸前で、何かに弾かれるようにして落ちた。

 物体に魔法、あらゆるものを遮る聖魔法、シールド。高位の聖魔法であるこのシールドを行使出来るという事は、やっぱりベルは相当な使い手みたいだ。

 ワイルダーさんの攻撃は総てベルのシールドによって阻まれ、防がれていく。けどその間もワイルダーさんの顔付きは、少しずつゴーストに近付いていた。


「どうしよう……このままじゃ……!」

「んんー、いい顔付きになってきたデス!」

「!?」


 焦る私の耳に、真逆の楽しそうな声が響く。私は辺りを見回し、声の出所を探す。

 すると開いた部屋の入口に、二人組の誰かが立っていた。二人は共に白いローブを着ていて、どうやら神官のようだった。

 片方は栗色の髪をおさげにした女の子。手にはボウガンを持ち、目元はビン底眼鏡でよく見えない。

 もう片方はサークよりも背の高い巨漢の男の人。髪の毛は綺麗に剃られていて、手には巨大な金棒を握っている。


「誰!?」

「ふふん、あなた方が知る必要はないデス。あなた方はワタシがこのゴーストを退治するのを黙って見てればいいデス」


 得意気にそう言われ、私は確信する。――さっき説得の邪魔をしたのは、この人達だ!


「どうしてこんな事をするの!?」

「決まってるデス。誰もが手を焼いたこのゴーストを、たった二人で退治したという実績を得る為デス。教団内での地位を上げる為には、何より実績が必要なのデス」

「その首のロザリオ……貴様達はルミナエス教の者か」

「ご名答デス。あなたがどこの教徒か知らないデスが、他教徒の邪魔も出来て一石二鳥デス」


 あまりにも悪びれた様子のない二人に、怒りがこみ上げてくる。この二人は――ワイルダーさんをただの出世の道具としてしか見ていない!


「……私も褒められた生き方はしていないが、その私から見ても、貴様らは最低だな」


 ベルも私と同じ気持ちなのか、シールドは解かずに吐き捨てるように言う。そんな私達の怒りの視線など、二人は意にも介してないようだった。


「負け犬の遠吠えは虚しいだけデス。どうせあなた方はゴーストの攻撃を防ぐので手一杯デス。今のうちに最後の一押しを……」

「そこまでだ」

「ひぎゃっ!?」


 ニヤリと笑い、眼鏡の子がボウガンを構えた直後、まるで何かに縛られたように二人は棒立ちになった。何が起こったのかと私が目を丸くしていると、二人の後ろから風の精霊を連れたサークが現れる。


「サーク!」

「遅れてわりぃ。こいつらやたらと逃げ足が早くてな」

「コラー! 何をしたデス! 離すデス!」


 必死になって見えない拘束から逃れようとする二人に、サークが冷たい視線を送る。そして静かな、けれど怒気を孕んだ声で言った。


「……テメェら、よく自分が生きてて当然だと思ってられるな? 今すぐ殺してやってもいいんだぞ」

「――っ!?」

「……レミ、俺達の負けだ。抵抗はよそう」


 サークの言葉に顔をひきつらせたおさげの子に、それまで一言も喋らなかった巨漢が言った。どうやらおさげの子より巨漢の方が、比較的冷静みたいだ。


「……うぅ」


 ガックリと項垂れたおさげの子はそれ以上は放って置く事にして、荒れ狂い続けるワイルダーさんに視線を戻す。急激なゴースト化だけは避けられたけど……このままじゃどっちみち同じ事になる。


「クーナ、私の頼みを聞いてくれるか?」


 その時、不意にベルがこっちを見て口を開いた。ずっとシールドを張り続けているせいか、額には玉の汗が浮かんでいる。


「うん! 何?」

「さっき君が見つけた絵があるだろう。それを破いて欲しい」

「あの絵だね! 解った!」

「え?」


 素直に頷いた私に、ベルが面食らった顔になった。拍子に弱まったシールドを突き抜けて飛んできたガラス片を、私は慌てて避ける。


「わっ!」

「あ、す、すまない……その……何故かと聞かないのか?」


 戸惑った様子で、ベルが私に問いかける。私はそれに、力強く答えた。


「友達の考えた作戦なら、深く聞かなくても信じるよ、私は」

「――!」

「それじゃ、行ってくるね!」


 ベルと別れ、私は老女の絵へと駆ける。老女の絵は少し高い位置に掛けられていて、普通にジャンプしたんじゃ届きそうになかった。

 魔法を使うにも、ここは屋内。間違って中の物に引火したら、この屋敷そのものが燃えてしまう。

 なら――。


「はああああああああっ!!」


 私は絵の掛かっている壁じゃなく、その側面の壁へと飛んだ。そして壁に足を着けると、そのまま壁を蹴って絵の方向に三角飛びを試みた。

 高さは……十分! 一撃で決めてやるんだから!

 絵に体が届く寸前、私の体が縦に一回転する。そして――。


「いっけええええええええええっ!!」


 私の全力を乗せた踵落としが、額ごと老女の絵を粉砕した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ