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第29話 荒れ狂う亡霊

 情報通り鍵の壊れた玄関から、屋敷の中に侵入する。荒れたその様子が元々なのかワイルダーさんの霊のせいなのかは、初めてここを訪れる私達には判別が付かなかった。

 今のところ屋敷は静まり返って、何の音もしない。まだワイルダーさんが完全にゴースト化してないといいんだけど……。


「一階と二階、どこから探索する?」

「夫婦の寝室があったのは確か二階だって話だったな……まずはそこから探してみるか」


 司祭長さんから聞いた話を反芻しながら、サークが二階へと目を向ける。階段は所々壊れてはいたけど、上る事自体は出来そうだった。


「よーし、じゃあまずは二階に……」

『……返せ……』


 私達が階段に足を向けたその時、辺りに地の底から響くような低い声が聞こえてきた。来た……!

 目の前が青白く光り出し、半透明の老人の姿を形作る。それこそがこの屋敷の主、ワイルダーさんに他ならなかった。


「……あなたが、ワイルダーさんだよね」


 恨めしげにこっちを見るワイルダーさんに向けて、私は一歩を踏み出す。探し物は屋敷のどこかにまだあるって説明されて、ならワイルダーさんに出会ったらこうしたいって、私が事前に二人に頼み込んだのだ。

 ワイルダーさんは、まだ完全にゴーストになった訳じゃない。それなら直接話し合う事で、ワイルダーさんが何を探してるのかを知る事が出来るかもしれない……!


「あなたは、何を探してるの? 私達は、それを探すお手伝いがしたいの」

『……手伝い……?』


 私の言葉に、半透明の体が微かに揺らぐ。これは……上手くいくかもしれない!


「お願い、教えて。あなたの探してるものは、何?」

『……私は……』


 けれど、ワイルダーさんがそう言いかけた時だった。突然サークとベルが、私の背後を守るように立った。


 ――キィン!


 響く金属の衝突音。それが何者かによって放たれた矢を剣で弾いた音だと気付いたのは、床に突き立った鉄製の矢を見た時だった。


『私に……攻撃を仕掛けた……許せぬ……許せぬ……!』


 その声に、私は慌てて振り返る。私達を睨み付けるワイルダーさんの目は、強い怒りに染まっていた。


「不味い、一旦逃げるぞ! 走れ!」

「う、うん!」

『返せ……カエセエエエエエエエエッ!!』


 憤怒の叫びが辺りに轟くと同時、床に落ちていた瓦礫やガラスの破片が狂ったように高速でそこら中を飛び回り始める。私達はそれらの直撃を避けながら、何とか二階まで逃げる事が出来たのだった。



「ハア……ハア……」


 ワイルダーさんが追って来ない事を確認すると、私達は一旦その場に腰を下ろした。急に全力で走ったから、心臓がバクバクとうるさい音を立てている。


「……チッ。どこのどいつか知らねえが、面倒な事をしてくれやがった」


 小さく舌打ちをして、サークが今駆け抜けてきた廊下の向こうを睨み付ける。夕暮れ時の廊下は薄暗く、もう少し暗くなれば完全に辺りが見えなくなるだろう。


「誰かは知らないが、どうやら、我々にワイルダー卿の未練を解消させたくない者がいるらしいな」

「どうしてそんな……」

「大方ワイルダー卿がゴースト化した直後に浄化を行い、手柄を独り占めしようとでもしているのだろう。……低俗な連中の考えそうな事だ」


 吐き捨てるようにベルが言ったその内容に、私はショックを受ける。ただ安らかに眠りたいだけの魂を、自分の為に利用する人がいるなんて……!


「テメェに低俗って言われるくらいなんだからよっぽどだわな、そいつら。……しかし不味いぞ、このままだとまんまとそいつらの思い通りになる」


 確かに、サークの言う通りだ。さっきのワイルダーさんの怒り狂いようは、ゴースト化までもうそんなに猶予がないように見えた。


「少し危険だが、二手に分かれるか。クーナ、お前は色ボケ神官と何かが隠せそうな場所を徹底的に洗え。俺は妨害者の足取りを追う」


 サークから告げられた指示に、私よりベルの方が驚いた顔になった。そして、挑発しようとして失敗したようなひきつった笑みを浮かべながら言う。


「……いいのか? 私とクーナを二人きりにして。何が起こるか解らんぞ?」

「テメェが状況もわきまえずソッチに走るほどの外道なら、その時は心置き無くぶった斬るまでだ。ここで命を散らしたいなら好きにしな」

「……」


 それに返ってきた返事は口調は容赦がなかったけど、つまりは、冒険者としてのベルを信じるって事だ。ベルにもそれが伝わったのか、複雑そうな顔をしながらもやがて大きく頷いた。


「……クーナの安全だけは、間違いなく保証しよう」

「上等だ。なるべく急いでくれよ、奴さんがゴースト化しちまったら終わりだ」


 そう言ってサークは立ち上がり、今来た道を戻っていった。私とベルは顔を見合わせ頷くと、一番近くの部屋から探索を開始した。

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