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第26話 神殿からの依頼

「それで、ベルは今どんな仕事をしてるの?」


 運ばれてきたミルクティーをすすりながら、私はベルに問い掛ける。ベルはひとまず落ち着きを取り戻してくれたようで、自分も紅茶を口にしながら私の質問に答えた。


「今は……と言ってもつい先程受けたばかりだが。この国のウルガル神殿からの依頼で、ある屋敷の調査に赴く事になっている」

「神殿がギルドに依頼? 珍しい事もあるもんだな」


 サークの言葉に、私も同感だと頷く。この世界の宗教は、大まかに五つに分けられる。


 戦いを司る主神にして天空神、ウルガルを崇めるウルガル教。

 豊穣を司る大地母神、アンジェラを崇めるアンジェラ教。

 学問を司る海神、ユノキスを崇めるユノキス教。

 理性を司る太陽神、ファレーラを崇めるファレーラ教。

 狂気を司る月神、ルミナエスを崇めるルミナエス教。


 これら五つの宗教は表向きは互いに干渉しないというスタンスでいるけど、それぞれの信者同士の仲はあまり良くない。アンジェラ教だけは比較的穏健派に位置するけど、それ以外の信者同士が小競り合いを起こすのはよくある話だ。

 そしてこれら宗教に共通するのは、徹底した秘密主義である事。特に、より信仰に厚い人が集まる神殿は、信者以外の立ち入りを禁じている事も多い。

 その神殿が、外部の存在である冒険者ギルドに依頼だなんて……。一体何があったんだろう?


「詳しい話は私もこれからウルガル神殿に赴き聞くところだが……そうだ、クーナ。良ければこの依頼、一緒に受けないか?」

「え?」


 意外な申し出に、私は目を丸くする。飲み終わった紅茶をテーブルに置きながら、ベルは続けた。


「勿論報酬はきちんと人数分に分配する。依頼を受けた時には私しかいなかったからギルドの活動記録には残らないが……君達にとっては、寧ろその方が都合がいいのではないか?」


 確かにベルの言う事には一理ある。ギルドに登録されている冒険者は全員『活動記録』というものをつけられていて、いつどこでどんな依頼を達成したか、そういった事がどの支部でも常に解るようになっているのだ。

 そしてこの活動記録に優秀な記録を残すほど、ギルド上層部から声がかかる率が上がる。言わば、成り上がるチャンスという事だ。

 活動記録の記入が行われるタイミングは、依頼を受ける手続きの時と依頼遂行の手続きの時の二回。けど依頼を受ける時にいなかった冒険者に関しては、例え依頼遂行時にいたとしても記入は行われない。名を上げたいなら、依頼を受ける際ギルドに顔を出すのは必須という訳。

 逆に言えば、サークのようにあまり目立ちたくない、出世に興味がない冒険者には、このシステムは結構足枷なのである。何せ依頼をこなせばこなすほど、自由がなくなる可能性が高くなるんだから。

 それは私も同じ。私は立派な(・・・)冒険者になりたいのであって、有名な(・・・)冒険者になりたい訳じゃない。世界中を巡って、より多くの困っている人達を助けるのが私が本当にやりたい事。


「……テメェ、何を考えてやがる? テメェの事だ、どうせ善意で言ってる訳じゃねえんだろ?」


 コーヒーを飲みながら話を聞いていたサークが、そう言ってベルを睨み付ける。その視線を、ベルは涼しい顔で受け流した。


「そうだな。打算があるかと言われればある。異なる魔法の使い手が多く揃っているほど仕事の効率は上がるし、ギルド内の名声も私が独り占め出来る」

「ケッ、よくもいけしゃあしゃあと……」

「だがそれ以上に……私はまた、クーナと仕事がしたい。……駄目だろうか?」


 真剣な顔で、ベルが私を見る。……うーん。神殿が外部に協力を求める事態って事は、もしかしたら異神に関わる事件かもしれないし。

 それに、表向きは人当たりのいいベルなら他にも選択肢はあると思うのに、その中で私を選んでくれたのは純粋に嬉しいしね。


「いいよ、私は。一緒に仕事しても」

「おい、クーナ!」

「貴様は別に来なくてもいいんだぞ、野良エルフ。その方がクーナとの仲も深めやすいしな」

「は? 行かないとか誰も言ってねえだろ。クーナをテメェと二人っきりにしてたまるか」


 私が快諾する一方で、サークもまたベルの挑発に乗る形で参加の意を示す。……サークが最近私に過保護気味なのを見抜いてやってるなら、ベルは結構な策士だと思う。

 私達の答えを聞くと、ベルはニッコリと微笑んだ。普通の女の子ならきっと、この笑顔にやられてしまうんだろう。私はある程度本性知ってるから乗せられないけど。


「協力、感謝するよ。この国のウルガル神殿は西地区にある。私が案内しよう」


 ベルの言葉に、私達は小さく頷いた。

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