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第20話 単独行動

 足を止める事なく、ひたすらに動かす。今はとにかく、二人から遠く離れた所に行きたかった。

 走って、走って、走って。息が切れ始めてきたところで、私は漸く走るのを止めた。


「……うっ……」


 止められない涙が、目の奥から溢れてくる。私は壁に寄りかかるようにしてズルズルと座り込み、声を殺して泣いた。


 ――邪魔者だと思われていた。サークにとってお荷物だと思われていた。

 それもショックだったけど、何よりも――二人が私に隠れてキスしていた事、それが一番ショックだった。

 サークは、誰のものでもない。誰かに好かれる事だって、誰かを好きになる事だってある。そんなの、解っていた筈だったのに。


 ――いつから私は、自分がサークに一番近い女の子だって錯覚してたの?


「ひ……っぐ、ふぇ……」


 嗚咽が止まらない。溢れた涙は、小手に覆われた手では上手く拭えなかった。

 ごめんなさい、ひいおじいちゃま。私、ひいおじいちゃまみたいになれなかったよ。サークの隣に、もう立てなくなっちゃった……。


 ――コツ、コツ。


「……?」


 その時不意に遠くから足音が響いて、私は顔を上げる。涙を何とか指で拭って耳を澄ませると、足音は私の来た方とは逆の方からしたようだった。

 咄嗟に立ち上がり、壁に張り付きながら音のする方に歩を進める。すると先のT字路を横切る、二人のフードの人物の姿が目に入った。

 二人は私には気付かないように、そのまま通路の奥へと消えていく。……これは、犯人グループが一体何をしているのか知るチャンスかもしれない!


(……でも)


 後を追おうとしたその時、脳裏に残してきたサークとドリスさんの事がよぎる。本当に私一人だけで行動していいの?

 そう考えて、すぐに首を横に振る。今から戻ってたら、あいつらを見失っちゃう。ここは危険でも、このまま一人で後を追うべきだ!

 私はそう自分を納得させると、見つからないようにすぐに二人の後を追った。



 二人は迷いなく、遺跡の中を進んでいく。私は息と足音を殺し、必死にそれを追いかける。

 街での尾行と違い、ここは十分に明るい。その事が、私の神経をより磨り減らせた。

 やがて二人の行く手に、広間のような広い部屋が現れる。その中に二人が入るのを確認すると、私は足を早めて部屋の入口へと近付いた。


「!!」


 そこに広がっていたのは、異様な光景だった。部屋には大勢のフードを被った人達がいて、その人達は皆部屋の中央に円を描くように集まっている。

 それをこっちに背を向けて眺めている二人組。これがきっと、さっき部屋に入っていった人達だろう。


「……計画は順調ですな、ビビアン様」


 二人のうち、背の高い方が背の低い方に呼び掛ける。その声に聞き覚えがあるような気がしたけど、どこで聞いたのか思い出せない。


「トーゼンでしょ? ビビアンの考えた計画なんだから、カンペキに決まってるじゃん」


 それに応えたのは、若い女の子の声。多分私と、そう歳は変わらないと思う。甘ったるいような声だけど、口調はどこか酷薄さを感じさせる。


「それで? その『リューギリ』ってのはそんなに強いの?」

「はい。冒険者、いや世界中の猛者の中でも有数の使い手です」

「ふぅん……ソイツ、こっちに引き入れたら計画がもっと捗りそう!」


 そう言って、ケタケタと女の子が笑う。……一体、何の話をしてるの?


「んーじゃあさ、ソイツどんな手を使ってもいいから生け捕りにしてよ。そしたらビビアンがノアのとこまで連れてくからさ」

「かしこまりました、ビビアン様」

「でもまー、その前にぃ……」


 その時、女の子がゆっくりとこっちを振り向いた。そして歪んだ笑みを浮かべ、こう宣言する。


「そこに隠れてるネズミちゃん……どうにかしないとネエエエエ!」

「……!」


 女の子の声に一斉にこっちを振り返ったフードの連中に、私は即座に構えを取った。

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