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第16話 嵐の予感

「でもどうしてあの人達、サークがこの国にいるって解ったの?」


 冒険者ギルド近くのカフェの一つに立ち寄り、お互い飲み物を注文したところで私はサークに聞いた。私達が王都に着いた直後にやって来るなんて、幾ら何でも察知するのが早すぎる。

 ベルファクトが口を滑らせたのかとも一瞬思ったけど、王都に到着したのは夜でベルファクトにギルドに寄っている暇なんてなかった筈だ。なら一体どこから漏れたの?


「……お前には、心配かけないように黙っとこうと思ってたんだが」


 私の疑問に、サークは言いにくそうに口を開く。そして語られた内容は、次の通りだった。


 今から三十年ほど前の事。サークは度々やってくる、ギルド本部からの使者にウンザリしていた。

 それと言うのも、本部の役員がそれまでの比較的サークを自由にさせてくれてた人達から代替わりして、「英雄と呼ばれるならば相応の務めを果たすべし」と本部で働くようしつこく迫り始めたからだ。あくまで一冒険者でいたいサークはそれを断り続けてたけど、本部への勧誘は日に日に激しさを増し続けた。

 そしてとうとう我慢が限界に達したサークはギルド本部に直接乗り込んでこう言った。「どうしても力を借りたい時は貸してやる、だからこれ以上は干渉するな、でなければギルドを抜ける」――と。

 世の冒険者に絶大な影響力を持つ『竜斬り』にギルドを離反されれば、最悪ギルドそのものが崩壊する。それを恐れるギルドに、サークの条件を飲む以外の道はなかった。

 けどギルド側も、無条件でサークに従った訳じゃなかった。サークの条件を飲む代わりに、サークに『響きの石』という魔導遺物を持たせたのだ。

 『響きの石』はそれ同士が近付き合うと、共鳴してお互いが近くにある事を知らせるというもの。これによってサークは常に、ギルドに居場所を知られる事になったのだと言う。


「……ってな訳だ。ここ十年くらいは呼び出しもなくて気楽に旅が出来てたんだがな……」


 最後に溜息を吐いて、サークはそう締め括る。……そんな事になってたなんて、私もひいおばあちゃま達も知らなかった。

 サークは決して、望んで英雄になった訳じゃないのに……。勝手に祭り上げておいて一方的に責務を果たせと言ってくるなんて、理不尽過ぎるよ!


「……お前がこれを聞いたら絶対にそんな顔をするって思ったから、言いたくなかったんだ。お前は真っ直ぐな奴だからな」


 気持ちが顔に出ていたのか、サークがそう言って困った顔で笑う。そして、運ばれてきたコーヒーを一口啜ると身を乗り出し私の頭を撫でた。


「心配するな。これで自由が買えるなら安いもんさ。こうなった以上お前は絶対についてくるって思ったから巻き込んじまったが大丈夫だ、いざという時はお前だけは必ず守る」


 ……違う。違うよ、サーク。私は守って欲しいんじゃない。対等な相棒として、サークの隣に立ちたいだけなのに……。


「よ。待たせたね、二人とも」


 サークの言葉に心にわだかまるものを感じていると、ドリスさんがやってきて私達の席に近付いた。その人目を引く姿に、カフェにいた男の人達の視線が一気にこっちに集まるのが解る。


「二人とも、早速で悪いが移動するよ。なるべく人に聞かれないところで話をしたいんだ」

「解った」


 ドリスさんに促され、私達はミルクティーとコーヒーを一気に飲み干す。そして立ち上がったところで……ドリスさんがサークの腕に手を絡めてきた。


「!!」

「それじゃ、エスコートを頼むよ、男前さん」


 その手を振り払う事もなく、サークはドリスさんと歩き出す。二人並んで歩く姿はまさに美男美女といった感じで、とても様になっている。

 ――今は、仕事中なのに。私情を挟んだらいけないのに――。

 そう思っても、モヤモヤは消えない。二人に、今すぐ離れて欲しいって思ってる。


(私、こんなに嫌な奴だったんだ……)


 自分の中に生まれた黒い感情に落ち込んでいると、不意にドリスさんがこっちに横目で視線を向ける。その目が――最初に会った時と同じように、弧に歪んだ気がした。


 ――私に、見せ付けている?


 ううん、そんな事ない。さっきから二人を変な風に意識しちゃってるからそう見えただけだ。きっとそうだ――。

 二人の三歩後ろを歩きながら、私はそう必死に自分に言い聞かせた――。

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