第161話 決戦を前に
アウローラに指定された場所は、グランドラの南の端にある古城だった。
ここはグランドラ最後の国王エンデュミオンがまだ覇王として名を馳せていた頃、攻め滅ぼされ統合された王国の城だったらしい。グランドラが共和制に変わってからは、観光名所の一つとなっていた場所だ。
「正直、意外です」
馬で古城へと向かいながら、そう言ったのは兄様だった。
「何がだ、レオノ?」
「今回、アウローラが他の民を巻き込まなかった事がです。以前サルトルートを掌握した時のように、また民達を操り、ぶつけてくるかと思いましたが」
「俺達にただ勝つのが目的なら、確かにそうしただろうな」
それに対し、サークはそう返す。私にはサークが、何を言おうとしてるかが解った。
「……今回は、私達の実力を見る事が目的だから……」
「そうだ。下手に策を弄し、俺達が実力を出し切れなくなったらわざわざ一ヵ月の猶予を与えた意味がない。俺達の全力を引き出し、その上で勝たなければ、どれだけ『神の器』に相応しい力を得られたかは確かめられないんだ」
「……なるほど。無辜の民が傷付く事がなかったのは幸いですが……ここで我々が勝たなければ、どの道皆、世界ごと滅ぼされてしまう……」
——そうだ。兄様の言う通りだ。私達は、絶対に負けられない。
それはこの先、どの戦いもきっと一緒だけど。次の戦いに進む為には、この戦い、絶対に勝たなくちゃいけないんだ……!
「大丈夫だ、レオノ、クーナ」
けれどそんな私達に、サークは力強く笑ってみせた。
「お前達はこの一ヵ月で、確かに力をつけた。見せてやれ、そして笑ってやれ——」
——この世界の人間を、なめるなと。
「……うん。うん!」
その言葉に、力がみなぎる。だってそうじゃないか。ここまで来たらもうやれる事なんて、これまで積み重ねてきた全部をアイツにぶつけるだけだ。
そして私は、アイツに届かないような努力しかしなかった覚えはない!
「この一ヵ月の成果、思い切りぶちかまそう、兄様!」
「ああ、そうだな。……」
私がそう気合いを入れると、兄様は小さく微笑みうなずいた。けれどすぐに、何だか真面目な顔で私の顔をジッと見つめ出す。
「兄様、どうしたの?」
「いや……本当に強くなったなと、そう思ってな」
「ふふ、いっぱい鍛えたからね!」
「いや、腕前も確かにそうなんだが」
胸を張って答えると、兄様は何故だか苦笑した。そして優しい目になって、こう続ける。
「……本当に、本当に大人になった。目の前の苦境に逃げずに立ち向かう、そんな強さを身に付けた」
「兄様……」
「そんなお前の兄である事を。私は、心から誇りに思う。……お前は私の自慢の妹だ、クーナ」
そんな兄様の言葉に、目頭が熱くなる。ここまで頑張ってきた私を、兄様はこうして認めてくれた。
負けられない理由が、また一つ増えた。私の手で絶対に、兄様を守るんだ!
「さて、目的地が見えてきたぞ。おしゃべりはここまでだ」
不意に、サークがそう告げる。その言葉に前方に視線を向ければ、見えるのは、古い城塞都市の跡。
あそこに、アウローラがいる。この戦い——絶対に勝つ!
そう心に確かな決意を宿して。私は、キャロの走る速度を上げた。